聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第14回
『日中経済協会 上海・成都事務所 横山達也 所長インタビュー!』 2014年1月26日
● 「百戦危うからざる」中国ビジネス交流術
● 「知る」努力とともに「知られる」努力を
(弊社インタビュアー)(以下弊社)
日中国交正常化以前のLT貿易時代に起源をたどるという日中経済協会。半世紀以上もの長きにわたって蓄積してきた豊富な人脈や実績をもとに日中間の経済交流の促進に尽力しています。日中友好七団体のひとつとして、いわば「異文化交流」の水先案内役を担ってきた同協会。日中間コミュニケーションの秘訣やヒント、今後の経済動向などについて、同協会・横山達也 上海・成都所長に伺いました。
◆◆◆ 【中国との太いパイプと“敷居の低さ”】 ◆◆◆
(弊社)
御協会は日中の国交が正常化した1972年に設立され、以来、日中間の経済交流促進に向けて活発な活動をされてきました。
(横山所長)
当協会の設立は、日中間における産業協力と通商拡大を目的として政府や経済界の支援によって設立されました。ただ、団体の黎明期についていいますと、日中国交回復以前のLT貿易の時代まで遡ります。
LT貿易というのは、平たくいうと日中双方の代表者(アジア・アフリカ連帯委員会元主席で後に中日友好協会長となった廖承志氏と、元通商産業大臣の高碕達之助氏)のサインによって取引量が決められ、中国側が指定する商社を経由して行われた貿易です。その際に設立した日中覚書事務所が当協会の前身となります。
当時は外交の窓口としての機能も果たしていました。ビザ申請や受け入れ側の身元保障といった手続きを担うことができたのは、国貿促(日本国際貿易促進会)と当協会のみでした。
(弊社)
現在の活動概況、そして上海事務所の位置づけについてはいかがでしょうか。
(横山所長)
日中両国の「橋渡し役」として、省庁関連の関係者の受け入れなど人の往来をめぐる煩雑な手続のサポートにはじまり、さまざまな交流活動や情報収集、発信を手がけています。
昨今は省エネ、環境などの領域でビジネスマッチングの機会を提供することも多いでしょうか。日本企業の紹介や研修事業などを行うなかで培われていく人脈が、今後もますます生かされていくことと思います。
当事務所は決して大きくありませんが、これまでに中国との間に太いパイプと豊富な人脈を築き上げてきました。中国側も、こちらが「半官半民」の機関であることから敷居が低いと感じているのでしょう。開発区ほか政府機関がアプローチをしてくることがあります。日本の事情について質問をしてきたり、彼らが抱えている問題が日本人の目にどのように映っているのか意見やアドバイスを求めてきたりするのです。
◆◆◆ 【 異文化交流で重要な「知る努力、知られる努力」】;◆◆◆
(弊社)
ところで、横山所長はもともと新聞記者だったとのことですが、当時からアウトドア志向だったのでしょうか。
(横山所長)
ええ。自身の生い立ちについて話しますと、生まれは関西ですが大学時代は靜岡で過ごしました。探検部に所属し、ヴィクトリア湖を人力と風力だけで横断するといった無謀な挑戦もいたしました(笑)。アフリカにはざっと半年ほど滞在したでしょうか。あいにくスワヒリ語はマスターしていませんが(笑)、異文化交流という点では、いろいろな体験をしてきたつもりです。靜岡新聞社を退職した後もヨーロッパ諸国などを訪れました。
(弊社)
異文化交流という視点からなのか、御協会では中国の大学生を日本にホームスティさせるというユニークな試みをされています。
(横山所長)
この事業は北京の日本企業の有志で行われるもので、6年前から当協会は支援しているものです。毎年、ざっと60名ほどの大学生を日本に派遣しています。しかも、選抜するのは基本的には「日本語ができない」学生ばかりです。日本を訪れた学生たちはホームスティしたり、企業見学や日本の大学生との交流を通して日本にじかに触れていくわけです。
(弊社)
日本と直接触れることで、日本に対する見方や考えも変わってくるのでしょうね。
(横山所長)
媒体を駆使して情報を集めることが大事なときもありますが、それよりも肌の感覚で知ることがなにより重要でしょう。相手が日本人であれ中国人であれ、お互いに顔を見合わせ、いわばフェースツーフェースでコミュニケーションをとっていくことです。
私は機会があるごとに、「知る努力、知られる努力」を持ち続けることが重要だと言ってきました。指摘されたくないこと、言われたくないと思うことはだれでもが持っているものです。それについて敢えて言及するには、相手を知り自分を知っておかなければならないということです。
たとえば、相手が自国や自分のことにいわれなきステレオタイプで固まっていたら、それに言い返せるだけの材料を備えなくてはいけません。別にケンカをしてもいいんです。ただし、相手にとって心地よくないことを言い放つ以上は、相手のことをよく理解しておく必要があることは肝に銘じておかなければなりません。
(弊社)
理論武装が必要ということでしょうか。
(横山所長)
日中関係には難しい問題が山積していますが、日本にいてわかること、中国にいてわかることは違ってきます。媒体を通してしか日本について知らない中国人が少なくないように、日本人もまた中国のことを多く知っているとは限りません。やはり、学びながら知識を得て考えをもっていく努力や、お互いが積極的に情報発信していく試みが必要なのでしょうね。
コミュニケーションというのはニコニコ笑って、ハグしてということを指すのではありません。まして、相手の顔が見えないところで、ネットに文句をたらたらと書きこんだり、陰口をたたくような情報発信では相手の心に響くことはありません。お互いに聞く耳をもち、相手にとって心地よくないことでも面と向かって言ってあげられる関係をつくることが大事です。
(弊社)
もっとも、そうした関係ができるまでには、さまざまなストレスをかかえることになりそうです。
(横山所長)
嫌なことはもちろんたくさんあります。でも、不愉快なことに遭遇することがなければ、誰でも私に代替する人はいるわけで、自分がここにいる存在意義もなくなってしまいます。
なにはともあれ、日中ビジネスには中国人とのコミュニケーションがつきものです。日中関係に対しては一歩引いた冷静な目をもっていただだく必要があります。中国に滞在する日本人ビジネスパーソンには、ぜひローカルの人たちとのコミュニケーションを大切にしていただきたいと思います。
◆◆◆ 【環境分野で日中交流を積極支援】 ◆◆◆
(弊社)
御協会は毎年、経団連会長も参加する大規模な訪中団を主催していますが、前回(昨年11月)の手応えはいかがでしたでしょうか。
(横山所長)
経済交流という位置づけですので、もちろん政府をはじめ関係者からの歓迎を受けています。2012年の日中貿易総額は約3125億ドルであり、中国は日本にとって最大の貿易相手国であるわけで、日中経済交流の必要性が高いという点では双方の意見一致を見ています。
(弊社)
中国経済のトレンドについてはどのようにご覧になっていますか。
(横山所長)
強い内需と、住宅等の高い国内投資への意欲に支えられ、引き続き堅調に成長が続いていくことが見込まれるでしょう。
とはいえ、地方債務、銀行再編など不安定要素も抱えているというのが一般的な見方ではないでしょうか。デフォルト回避に向けた取り組みに直面するなか、信用保証の問題などがもたげています。
それでも、不動産価格の大幅な急落をともなった日本バブル経済崩壊のような事態にはいたらないのではないでしょうか。不安要素を埋め合わせるだけの成長余力というのが消費分野にあり、まだまだ上昇軌道を維持していくと思われます。
ただし、製造拠点としての中国の意義は低下しつつあります。人件費が毎年10%も15%も伸びを示すともなると、もはや日本企業にとって中国でただ製品を製造することの魅力は乏しいのではないでしょうか。むしろ従業員のモラルが高く、流動性も少なければストも起きない日本で生産したほうが安上がりに済むことさえあります。。
(弊社)
では、ビジネストレンドとしてみた場合、今後、どんな分野に注目されていますか。
(横山所長)
高齢者の介護や福祉関連が注目を集めており、日本企業にとっての商機もいろいろあるかと思いますよ。また、中国のブロードバンド人口は2012年で1億6800万人。さらに4Gの普及も控えておりますので、通信分野でも新たなビジネストレンドが生まれてくるのではないでしょうか。
(弊社)
環境分野はいかがでしょうか。
(横山所長)
私は以前に汚水・泥処理分野を担当し、技術交流を手がけてきました。今後も中国の経済力発展のサポートをしながら、日本の国益にもつながる分野を模索していきたいと思っています。大気汚染をはじめとする環境破壊が深刻ななか、中国側に日本の環境技術を売り込んでいくことは有意義なことでしょう。
2014年は日中省エネルギー・環境総合フォーラムを開催する予定です。これは日中双方の政府関係者ほか1000名が参加する大型イベントで、これまで8回にわたり開催していて、今後は、こうしたフォーラムをはじめとした民間交流をもっと進めていきたいですね。
(弊社)
本日は、日中国交回復以前からの長い交流や、横山様モットーとされる「知る努力、知られる努力」のお話、今後の日中ビジネス機会のお話など、多岐に渡る貴重なお話を伺うことができました。お忙しい中、大変有難うございました。
【横山達也(よこやま・たつや)氏のプロフィール】
兵庫県出身。1994年静岡大学卒業後、静岡新聞社に入社し、記者活動に携わる。その後、北京での語学留学などを経て、02年に帰国、日中経済協会に入所する。2012年5月より上海事務所所長(成都事務所所長も兼任)として上海に赴任、現在に至る。
【日中経済協会 上海事務所 様 会社情報】
日中経済協会
【上海事務所】
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【成都事務所】
成都市人民南路一段86号 城市之心大厦18楼N座
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