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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第29回

『上海特殊陶業有限公司 松井 徹 董事長兼総経理 インタビュー!』2015/10/13


 
上海特殊陶業有限公司
松井 徹 董事長兼総経理


  ●  ドイツも中国も現地化には、その国の市場に相応しい人事制度作りが大切

  ●  豊富で信頼できる報酬データが人事制度作りのカギ

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

1937年にスパークプラグ製造会社として創立した日本特殊陶業株式会社。製品開発の過程で獲得した技術やノウハウを応用し、次々と新しい事業を展開。現在も、新エネルギーや環境分野・医療分野など新規事業の創出に意欲的に取り組んでいる。その中国法人である上海特殊陶業有限公司のトップとして人事制度改革に取り組む松井董事長兼総経理にインタビューしました。

 

◆◆◆  【1876年に創立された「森村組」がルーツ】  ◆◆◆

(弊社)

まずは、御社の沿革と事業内容についてお聞かせ下さい。

(松井董事長兼総経理)

当社は、森村グループの一員である、日本ガイシのスパークプラグ部門でしたが、当時の森村グループが掲げていた「一社一業」の理念から、スパークプラグ部門の立ち上がりに応じてスピンアウトする形で、1936年に独立しました。
現在は、スパークプラグの製造販売のほか、スパークプラグの開発で培ったセラミックの技術を応用し、排気ガス浄化用をはじめとする各種自動車用センサ、ICパッケージ、機械工具などを製造販売しています。

(弊社)

御社のルーツである森村グループとはどの様なグループでしょうか。

(松井董事長兼総経理)

森村グループとは、1876年に創立された日本の貿易業界の草分けともいうべき「森村組」をルーツとする企業グループです。同グループには、当社のほか日本ガイシ、ノリタケカンパニーリミテッド、TOTO、大倉陶園、共立マテリアル、森村商事などが所属しており、世界有数のセラミックス企業グループでもあります。
現在は株式の持ち合いなどはほとんどなく、ルーツを同じくする企業同士の緩やかな親睦団体として活動しています。

 

◆◆◆  【ドイツ時代に、日本型人事制度の限界を痛感】  ◆◆◆

(弊社)

中国事業についてご紹介下さい。

(松井董事長兼総経理)

上海特殊陶業有限公司(以下、「上海特陶」)は、2003年4月に設立されました。従業員は約380名、うち駐在員が19名です。当社では、主に自動車用スパークプラグを生産販売し、ほかに酸素センサ、機械工具、半導体の販売を手掛けています。2012年には、別法人となる常熟工場を立ち上げ、酸素センサの生産を行っています。
生産した製品はほぼ100%中国国内で販売しており、日系だけでなく外資系の自動車メーカ様とも幅広くお取引をさせて頂いています。

(弊社)

松井董事長兼総経理のご経歴をお聞かせください。

(松井董事長兼総経理)

1984年に入社後、研修を経て東京営業所にアフターマーケットとOEMの営業職として配属されました。92年にはドイツへ赴任を命じられ、初めはアフターマーケットの営業、その後OEM営業のコーディネーターとして2001年まで9年間駐在した後に、日本へ帰任しました。2009年から再びドイツへ赴任することになり、2011年から2013年の9月までドイツ法人の社長を務めました。その後日本勤務を経て2014年12月から上海特陶の総経理として着任しました。

(弊社)

ドイツにトータル13年間と非常に長く駐在されていましたが、ドイツでの暮らしはどの様なものでしたか。

(松井董事長兼総経理)

ひとことで言うと、街が綺麗で雰囲気が落ち着いており住みやすかったですね。私が駐在していたデュッセルドルフという街は、日系企業が多く進出しており、人口60万人の小さな街でしたが、約6千人の日本人が暮らしていました。街の一角はさながら日本人町のようになっており、日本人学校や日本の食材を扱うスーパーもあり生活には困りませんでした。

(弊社)

日本人とドイツ人スタッフを比べ、仕事に対する文化の違いは感じましたか。

(松井董事長兼総経理)

ドイツ人は、とにかく皆さんはっきりと主張をします。子供のころから「沈黙は罪」、「出る杭になれ」と教育されているそうで、議論に慣れない日本人は、初めのうちは圧倒されてしまいます。そこで、こちらもきちんと理論武装して対抗することが必要になり苦労しました。しかし、とことん話し合って、納得してもらえれば素直に従ってくれるので、慣れてしまえばその方が逆にスッキリして仕事がやりやすかったですね。

(弊社)

ドイツ駐在時代、人事制度面での問題はありましたか。

(松井董事長兼総経理)

 当時の人事制度は、日本の制度をそのまま導入しており、固定給が給与のほとんどを占め、評価システムも主観的な部分が多くあいまいでした。昇給は、パフォーマンスによる差異があまりなく、毎年ほぼ一律に昇給させていました。
ところが、外部の市場は能力に応じて報酬を決めるシステムになっているので、優秀な人材が他社に流出するのを引き留める事が難しくなっていました。
そして、パフォーマンスや能力に関わらず長く務めると給与が高くなるので、能力が高く若い人のモチベーション低下につながる弊害が見られました。例えば、勤務年数が長い受付担当の社員の給与が若いマネージャーの給与より高くなるというケースもありました。
ほかに、優秀な人材を引き留めるため、社用車の支給などのフリンジベネフィットを与えていましたが、当時はフリンジベネフィットを職位と関連付けていたため、部下がいないのにマネージャーに昇進させるなど、実態と合わない昇進が行われていました。
ところが、昇進してもこれまでと業務内容が変わる訳ではないので、同じ業務を行う社員から「なぜアイツだけ!」という不満が出る原因となっていました。

(弊社)

この様な問題の多い人事制度をどの様に改革されましたか。

(松井董事長兼総経理)

2011年に現地法人の社長に就任した際、コンサルティング会社の助けを借りながら人事制度改革を断行しました。これまでの一律に定期昇給する制度を改め、コンサルティング会社から購入した外部報酬データに基づいて、職種と職位のマトリクスを作り、その中でバンドを設定しました。そして、経営方針に基づいた目標設定をさせ、目標の達成度に応じてボーナスを支払う制度に改めました。

(弊社)

これまでの人事制度から大幅に変更されたようですが、従業員からの反発はありましたか。

(松井董事長兼総経理)

一部に反発の声も聞かれましたが、報酬体系を市場の相場に合わせるというコンセプトをきちんと説明すると、おおむね好意的に受け止めてくれました。

(弊社)

実際に人事制度を改革され、どの様な効果がありましたか。

(松井董事長兼総経理)

改革前は毎年給与改定の時期になると、給与交渉をしてくる社員がたくさんおり、もめる事も多かったのですが、新しい人事制度の導入後は、「世間の相場はこれくらいで、あなたの評価はこれくらいなので、給与はこの金額です。」と根拠を示して説明できるようになり、素直に納得して逆に評価してくれる従業員が多くなりました。

 

◆◆◆  【豊富で信頼できる報酬データが人事制度作りのカギ】  ◆◆◆

(弊社)

ドイツ法人の社長として人事制度改革に取り組まれ成功された後、いったん日本へ帰任され、2014年より現職に就かれました。中国法人の人事制度も見直しの必要があると感じられたそうですが。

(松井董事長兼総経理)

中国でもまさにドイツと同じ問題が起きていました。例えば、給与レンジが狭く、給与を引き上げるために、部下がいないのにマネージャーに昇進させることや、担当レベルの人材を採用しようとしたが、市場価格とくらべ会社の給与体系が低いため、やむを得ずマネージャーのポジションで採用していました。 しかし、この様な特別扱いには、他の社員が不満に思い会社全体のモチベーション低下につながるなど弊害がみられました。

(弊社)

そこで、弊社に人事制度の見直しをご依頼頂いた訳ですね。ところで、日系を含め多くのコンサルティング会社の中から、ローカル系である弊社を選んで頂いた決め手は何でしょうか。

(松井董事長兼総経理)

特に、日系のコンサルティング会社かどうかは、あまり重要とは考えませんでした。そもそもヘッドハンティングされて引き抜かれる人材は、日系以外の企業に行くこともあるので、外資系企業や中国系企業も含め総合的な競争力を研究したいという考えがありました。この点、中智さんはデータの量が豊富だったことが決め手となりました。もちろん価格が魅力的だったことも重要な要素でした(笑い)。

(弊社)

手前味噌になりますが、弊社の報酬データのサンプル数は、中国で最も豊富であると自負しております。松井董事長兼総経理は、報酬データを重視されているようですね。

(松井董事長兼総経理)

その通りです。日系企業は、報酬データを買うことに消極的な企業が多いのではないでしょうか。確かに値段も決して安くはないので、本当に買うだけの価値があるのかと、躊躇する気持ちは理解できます。
しかし、ドイツ法人社長時代の経験で、報酬データの重要性がよく分かりました。それまでは、知り合いの日系企業の方に聞いて、これくらいの水準だろうと決めていましたが、本当に市場価格と比べて適正なのか分からなった。このために、優秀な人材が辞めてしまい後悔するという経験が何度となくありました。
外部の報酬データを買うことで、現在の自社の給与水準がわかり、自信を持って従業員と交渉でき、制度設計が出来るようになりました。その際、できるだけボリュームのある報酬データを細かく分析したものがより有効だと思いますね。

 

◆  【現地化の目的は、現地社員がキャリアアップルートを描ける様にする事】  ◆

(弊社)

最近、日系企業も現地化を積極的に進めようとする動きが活発になってきています。御社では、現地化についてどの様に考えていますか。

(松井董事長兼総経理)

現地化を進めることの一番の目的は、現地スタッフがキャリアアップのルートを描けるようにする事だと思います。本社と違い、現地法人は組織の規模が限られています。にもかかわらず、上層部を日本人が占めていると現地スタッフの昇進はすぐに頭打ちとなり、これ以上のキャリアアップが望めないと感じ、転職する原因となります。そこで将来は、現地スタッフが経営トップに就くチャンスがある制度と、トップを任せられる人材を育成する教育制度を整備したいと考えています。

(弊社)

最後に、これからの中国での展望をお聞かせ下さい。

(松井董事長兼総経理)

上海特陶の主力製品はスパークプラグと酸素センサですが、どちらも中国の自動車新車用ビジネスである程度のシェアを獲得しています。ところが、アフターマーケットでは、まだまだマイナーな存在です。
中国の新車販売台数は、以前ほどの勢いは見られなくなっています。これに対して今後は、補修市場が伸びていくことが期待され、部品交換のニーズが高まっていくものと考えています。従って、今後はアフターマーケットの開拓にも力をいれていきます。

(弊社)

日本の人事制度をそのまま導入した場合、ドイツと中国で同じ様な問題が発生していたことには驚きました。そして、その国にあった人事制度と、豊富で信頼できる報酬データの重要性を改めて感じました。中国国務院傘下で唯一の人的資源サービスの会社として、より一層頑張らなければならないと思っております。本日は、長時間にわたるインタビュー有難うございました。

 

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 【松井 徹(まつい とおる) 氏のプロフィール】

 1984年入社。研修を経て東京営業所に営業職として配属。1992年にドイツへ赴任し、アフターマーケットの営業、その後OEM営業のコーディネーターとして駐在。2001年に日本へ帰任後、2009年4月から再びドイツへ赴任し、2011年4月から2013年9月までドイツ法人社長として人事制度改革に取り組む。2014年12月より上海特殊陶業有限公司に総経理に就任、2015年4月から董事長兼総経理に就任し、現在に至る。

 

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 【上海特殊陶業有限公司 様 会社情報】

上海特殊陶業有限公司
上海市松江工業区松勝路736号
Tel(021)6774‐0987
FAX(021)6774‐0997

 

上海特殊陶業有限公司  松井 徹 董事長兼総経理
上海特殊陶業有限公司
松井 徹 董事長兼総経理1

上海特殊陶業有限公司  松井 徹 董事長兼総経理
上海特殊陶業有限公司
松井 徹 董事長兼総経理2