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現地化を進める日系企業における奨励制度(2013年1月11日)

2013年1月11日

 中国と日本は、民族や文化が似ていると考えられているため、かえってそれが仇となり、企業経営の面で文化的な摩擦が生じるという意外な問題が日系企業に生じている。近年、中国の経済が著しい成長を遂げ、在中国日系企業で『現地化』が叫ばれる中、いかにして中国に合った奨励制度を構築するかが日系企業の課題となっている。言い換えると、日本企業の管理理念が問われるようになっているのである。

 

現地化の過程で問われる業績考課制度

 人事担当者の行う各種業務の中でも、業績考課制度はかなり重要な地位を占めている。管理者は職員の業績と効率を、仕事を評価する上での重要な根拠とし、業務の最終成果や仕事に対する態度だけでなく、それを遂行するに当たっての行動にも注意を向ける。

 在中国日系企業の伝統的な人事管理制度は、業績管理があまり重視されていないと中国では見られている。日系企業の人事は、ちょうど1960年代の中国の共産主義制度にあったような効率の悪い制度だ、という声も聞かれるが、果たしてそれは正しいのだろうか。それを理解するためには、まず日系企業の伝統的な管理制度を分析してみる必要があると思われる。日本の終身雇用制のなごりは、我々の考える業績考課を知らず知らずのうちに職員の日常の仕事の中に取りこんでいるのである。

 さて、在中国日系企業の現状を見てみると、少なからぬ企業が現地化に取り組んで業績考課制度を構築したものの、単に形骸化するだけに終わってしまっている。中智の「在中国日系企業による業績考課の現状」という2011年のレポートによると、77.6%の企業が業績考課制度を取り入れていると答えているが、制度の実施効果については、45.1%が「普通」、15.8%の企業が効果を「不満足」、わずかに21.0%の企業が考課の効果を「満足」と答えており、満足度は低い。

 筆者は、多くの日系企業の人事管理者と接触する機会があるが、在中国日系企業の業績考課は、職員に「甘すぎる」との印象を受けている。なぜなら日系企業の業績考課は、結果がどれも似たり寄ったりで、優秀な者とそうでない者との差が明確でないからである。私が言おうとしているのは、在中国日系企業の業績考課が良くないということではなく、日系企業の伝統的な管理理念が中国の実情に十分適合していないという点を強調したいのである。現地化を推進してゆくにあたり、日系企業だけでなく、第三者たる管理コンサルティング会社が注意を払うべき課題は、考課制度をいかにして中国人スタッフに受け入れられるようなものとするかという点である。

 

現地化の過程で挑戦を受ける給与レベル

 

 日系企業が給与体系を設計して職員の給与レベルを決定するに当たって考慮するのは、単に業績だけでなく、職員の年齢に伴って必要となる生活支出である。一般的に若い人々は結婚やら子育てやらで、比較的大きな支出が必要となるが、四十歳以降になると、その支出は減少する。

 日系企業もこのような職員の一生の現金支出の流れを把握しており、若者には比較的高い給与を与えて大変な時期を乗り切れるように配慮している。これは同時に、他に思い煩うことなく仕事に集中できるような環境を整えることにより、「若いうちに別の仕事を探そう」という芽を摘むことになる。彼らが中高年に達すると、給与が多少低くても、それほど多くの生活支出が必要とされないため、それに甘んじることができるようになる。日系企業はこのように、職員の生涯にわたるキャリアパスを考慮しつつ、人間を中心に据えた企業管理を行っている。これにより異なった世代の人々が結びあわされ、企業も発展してゆくという仕組みである。日系企業はこうして、社会に対する企業責任を具現しているのだ。

 しかしながら、中国人職員が求めているのは、すぐに目に見える形で表れる報酬で、長期的な奨励ということを考えないために、日系企業の管理制度を良しとしない。伝統的な日系企業の給与管理理念が中国に馴染まないのはこうした理由による。これはデータや統計からすると、日系企業の中級管理層の給与が市場競争力に欠けるという結果に表れてくる。ますます多くの中国企業が国際競争参与するにつれ、優秀な人材の需要が年々増加しており、大型のグローバル企業で管理の経験を持つ人材が奪い合いになっている。さらに日系企業と中国企業は管理理念が相違しているため、これは日系企業の中・高級管理層にある管理職員が中国企業に流動し易いもう一つの要素ともなっている。中智の給与データによると、中国企業の中・高級管理層の給与レベルは、在中国日系企業を超えるようになっており、高級管理層などは20%ほど上回っている。

 

職員の現地化という挑戦

 

 グローバル企業の現地化といっても様々な側面を持っているが、管理の現地化に直接影響するのが職員の現地化の問題である。在中国日系企業もやはり、現地化を推進するに当たり各種の問題に遭遇するが、その中でも特に二国間の文化の違いや管理理念の相違、経済発展段階の差異などにより、さらに多くの矛盾が生じ、日系企業は全体として現地化の面で立ち遅れている。中智は日系企業の現地化について調査を行ったが、管理層の現地化が特に立ち遅れており、中級管理層の現地化率は50.0%、高級管理層はわずか10.0%のみであった。この数字は、在中国外資企業と比べてかなり低いものとなっている。この現地化率の低さは日系企業の人事管理にも当然影響を及ぼしており、高級管理層を構成する日本人管理者が中国文化や中国式の思考形態が十分に理解できないために、上でも述べた業績考課制度や給与制度のひずみをもたらしている。

 以上、日系企業による中国での現地化という挑戦を概説したが、これは数ある問題の中でも表面化しているわずかな部分にすぎない。この課題を解決するに当たり、日系企業の管理制度を根底から覆して、全く新たな制度を構築すべきなのかどうか、現在多くの論議がなされている。日系企業の人事管理文化には、まだまだ中国企業が学ぶべき点が多くある。人事管理制度の変革の問題は、中国日系企業と第三者であるコンサルタントが今後も研究し模索していかなければならないテーマであると言えよう。

中智給与アナリスト
陳潔瑋