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本部が派遣した外国籍従業員を我が国の子会社で解雇した場合、補償金は子会社が支払わなければならないか?

【判例】本部が派遣した外国籍従業員を我が国の子会社で解雇した場合、補償金は子会社が支払わなければならないか? (2015年11月05日)

案例:

 アメリカ国籍の梁氏は2010年12月6日、上海市にある某科学技術会社の本社から派遣され、長期派遣協議書にサインした。この協定には梁氏をアメリカ本社から上海の子会社へ派遣すること、梁氏はソフト開発総監として24ヶ月勤務する予定だが、いつでも労働関係を終了させてよいことが盛り込まれていた。梁氏は上海の子会社で勤務している間、賃金及び福利待遇をアメリカ本社より受け取っていた。

 2011年4月、梁氏は子会社で働くための外国人就業許可証を獲得し、5月16日には上海市労働と社会保障局による業務就業証が交付された。同日、梁氏は正式に上海の子会社でソフト開発総監として業務を展開することとなった。

 2011年8月1日、アメリカ本社は梁氏へ通達を出し、2011年8月1日を以て梁氏の職務を解き、2011年11月26日を最終勤務日として同日に賃金を支払う旨を伝えた。梁氏はこれを不服として、2012年1月23日上海の子会社を相手取り労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、経済補償金15899ドルの支払いとその50%に当たる7949.50ドルの賠償金の支払いを求めた。

争点:

 アメリカ本社より派遣された外国人を解雇する際、わが国の子会社は補償金の支払い義務を負うか?

判决:

 労働争議仲裁委員会は、梁氏の訴えを却下した。梁氏はこれを不服として提訴した。

 法院は審議後、梁氏は某上海科学技術会社のアメリカ本社と長期的派遣協定を結んでいたのであって、アメリカ本社の指揮命令下で労働しており、原告とアメリカ本社との間には労働関係が認められるが、某上海科学技術会社との間で労働関係は認められない。アメリカ本社が通達において梁氏を解雇したことは、某上海科学技術会社とは何ら関係がない。梁氏は某上海科学技術会社と労働契約を締結しておらず、梁氏が解雇された際に経済補償金を支払う約定も交わしていない。ゆえに梁氏の求める契約解除による経済補償金15899ドル及びその50%にあたる額の賠償金の支払には、何ら根拠が無いとして、原告の訴えを棄却した。

分析:

 

 近年、外国人の在華就業は年々増加している。上海を例に取ると、あるデータによれば、上海で就業する外国人数は1996年から2012年の16年間で16倍にも増加しており、これに伴って労働紛争もまた増加している。実際に、在華外国人労働者との労働争議において、最も重要なのは訴訟の主体及び法の適用の問題、すなわち外国人労働者と使用者との間で争いが起こったとき誰を訴えるのか、そして適用されるのは国内の法律なのか国外の法律なのか、という問題である。多くの外国人労働者が訴訟の主体を誤り、敗訴しているのである。

 本案件は典型的な外国人労働者の労働争議である。外国人の在華就業には二つの形式があり、本社のある国と労働契約を締結して中国支社へ派遣されるものと、中国支社と直接労働契約を締結するものがある。これら二つの形式は、多くの使用者と労働者が知らないところで大きな差異を孕んでいる。同じオフィスで仕事をしていても、労働契約の締結相手や適用法律が全く違うのである。前者、すなわち国外の会社と労働契約を結んだ者が中国支社へ派遣された場合、訴訟主体は国外の会社ということになる。渉外契約の履行について、労働契約は原則的に現地の法律が適用されるものであり、すなわち中国の国内法と当該契約を締結した国の法律が適用されることとなる。後者、すなわち国内企業と労働契約を締結する場合には、国内企業との間に労働関係が発生するため、訴訟主体は国内企業ということになり、我が国の民事訴訟法及びその他の法律に基づくこととなる。

 本案件において、梁氏は訴訟主体を誤っている。梁氏はアメリカ本社と労働契約を締結しているので、梁氏の労働関係はアメリカ本社との間に成立しているのであって、中国の子会社へは派遣されているに過ぎない。某上海科学技術会社は契約の履行地であるというだけで、同社と梁氏との間に労働関係は存在しないのである。以上の理由から、梁氏の訴えは却下されたのである。