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【判例】業務時間中にプライベートな電話をかけた事は「重大な規律違反」となるか?

【判例】業務時間中にプライベートな電話をかけた事は「重大な規律違反」となるか? (2016年1月4日)

案例:

 毛さんは2010年上海市内の某重点大学を卒業した後、優秀な成績で外資系銀行へ入社し、3年間の労働契約を締結した。業務にあって常に多くの顧客と連絡を取る必要があったため、銀行側は毛さんに携帯電話を支給し、同時に「業務用携帯電話使用規則」を手渡した。そこには、「本携帯電話は業務の為に用い、一般的な状況下で私的に使用してはならない。特別な事情により私的に使用した場合は、一ヶ月以内に人事部門へ届出をしなければならない。もし一ヶ月以内に人事部門へ届出をしなかったときは、使用人の当月中業務のためだけに通話したと見做す。銀行側は不定期に使用人の携帯電話の利用状況を調査するが、もし私用の通話を行った事が判明し、これを人事部門に届けなかったときは、重大な規律違反として使用人との労働契約を解除する」と記載されていた。この規則は民主的手続により正しく規定されていた。2011年7月、銀行側が毛さんの携帯電話の使用状況を調べたところ、側近6ヶ月内に末尾「5612」番の電話番号へ20時間以上通話しており、その中には3時間以上連続で通話した記録もあった。銀行側が通話先について問いただしたところ、毛さんはしどろもどろに重要な顧客だと説明したが、人事主管が更に追求したところ、彼はついに恋人へ通話したことを白状した。

 三日後、毛さんは銀行から書面による「労働契約解除通知書」を受け取った。彼はすぐに人事主管と面会し、自身の行為について深く反省している。この数ヶ月大きな業績を上げ、貴行の為に多くの顧客を得て得意になっていたところで、魔が差してしまった。しかし結局は自分の過ちであり、もう一度やり直す機会を与えて欲しいと訴え、6か月分の私用電話の料金を支払いたいと申し出、より大きな罰を受けても良いと申し出た。しかし銀行側の態度は変わらず、彼の要求を跳ね除けた。

 若い毛さんは自身が解雇された事実を受け入れることができず、一ヵ月後、労働争議仲裁委員会へ労働仲裁を申し立て、銀行側の一方的な労働契約解除を違法行為として、労働者たる地位の確認を求め、委員会はこれを受理した。

争点:

 毛さんの私用通話は「一般的な規律違反」か、それとも「重大な規律違反」に該当するのか?

判決:

 仲裁庭で毛さんは、業務用携帯電話を持った時点で確かに銀行側の「業務用携帯電話使用規則」を受け取り、ここ6ヶ月間業務用携帯電話を私的に使用した事実を認めた。しかし銀行側の処罰は行き過ぎであり、従業員が私的目的で公的な電話を使用することは一般的に行われているから、これを重大な規律違反とすることはできない。ゆえに銀行側の一方的な労働契約解除は違法行為であるとして、銀行側の労働者としての地位の確認を求めた。

 銀行側は、外資系銀行として、現在施行している規律制度は「労働契約法」第四条二項に規定する民主的手続に則り規定されたものである。各人へ業務用携帯電話を持たせるに当たり、「業務用携帯電話使用規則」を手渡し、受領署名を貰っている。なので、毛さんは銀行の規定を完全に理解していると言える。また、規定では特殊な状況を除き業務用携帯電話を私的に使用してはならず、もし使用した場合は人事部門に申し出るよう定められている。しかしながら毛さんは業務用携帯電話を支給されてから一度も通話記録を提出しなかった。銀行側の規定では彼が業務用に携帯電話を使用していると見做すこととなっており、発生した通信費を全て支払った。しかし毛さんの行動は承諾に反していた。彼は偶然に規則に反したのではなく、しかも6ヶ月以内に20時間以上も私的に携帯電話を使用していたため、違反の状況はより重大であると言える。また人事部が最初に調査をした際、彼は過ちを認めず、重要な顧客へ連絡したとうそをついた。確かに毛さんは成績優秀で非常に有能な若手ではあるけれども、銀行側としては、従業員が誠実であり約束を守る人物であることをより重視している。ゆえに、銀行側は毛さんが職務に乗じ、銀行の誠実の精神及び職務紀律に反したとして、会社規定に基づき労働契約を解除した、と主張した。審議において、銀行側は仲裁庭へ毛さんの署名が為された「業務用携帯電話使用規則」を証拠として提出した。

 最終的に、仲裁庭は毛さんの労働者たる地位の確認請求を退けた。

案件评析:

 本案件の焦点は、毛さんが業務用携帯電話をプライベートに使用したことが「一般的な規律違反」に該当するのか、それとも「重大な規律違反」に該当するのか、という点である。

 「労働契約法」第三十九条二項には、労働者が使用者の規則制度に対し重大な違反を犯したときは、使用者は労働者との労働契約を解除できる、とある。

 法律には何を以て「重大」な規律違反とするかを明確には定めていないが、一般的に、使用者が重大な規律違反を理由として労働契約を解除する際には、労働者の行為が使用者の定める規則に反していること、労働者の規律違反行為が労働契約解除要件として規則に規定されていること、規律制度が合法かつ有効な手段で労働者へ告知されていること、の三つの要件を満たさなければならないとされている。「労働契約法」施行後、使用者は何を以て重大な規律違反とするかを合理的に定める権利を有することとなり、これが使用者の自治権を体現することとなった。使用者が制定した規則制度は、その内容が法律、行政法規、及び政策規定に反しない場合、「労働契約法」第四条二項に定める民主的手続きを取り、労働者へ周知して初めて、司法による労働争議審理の根拠と為すことが出来るのである。

 その実践に当たって、通説では「労働契約法」施行後、使用者が労働者の利益に直接影響を及ぼす規則制度及び重大な事項を制定、修正及び決定する際、「労働契約法」第四条二項に定める民主的手続きを経ていない場合は、司法による労働争議審理の根拠と為すことができないとされている。但し、もしこの規則制度及び重大な事項が法律、行政法規に違反せず、明確な非合理性が見られず、かつ労働者への周知が為されている場合には、司法による労働争議審理の根拠と為すことができる。

 労働者が業務用の電話及びその他の物品を私的な目的で使用することは、多くの企業でありふれた光景となっている。だからこそ多くの人は、この案件における銀行側の規則を杓子定規で苛烈なものだと感じ、毛さんの行為は「一般的な規律違反」であり「重大な規律違反」として労働契約を解除するのは適切ではないと考えるであろう。

 しかし実はそうではない。筆者は、銀行側の定める「業務用携帯電話使用規定」が法律法規に反していない状況下にあっては、双方間に信義則が働いていると考える。毛さんが業務上この携帯電話を使用したとき、銀行側は発生した通信費を全て支払っている。しかし毛さんはこの規則の主旨に反し、職務を利用して特殊な事情が無いにも関わらずこの携帯電話を私的な目的で使用し、6ヶ月以内に20時間以上も通話した上、その通信費を銀行側に支払わせ経済的な損失を与えたことは、規律違反としては比較的重大であると言える。更に注意しなければならないのは、人事主管がこの事について調査した際、毛さんはすぐさま事実を告白せず、更なる追及によって初めて自身の違反行為を認めた点である。このことは銀行側から見て、きわめて不誠実な態度である。まさにこの一点こそ銀行側が最も重視した点である。何故なら銀行側は紛争発生後毛さんへ一銭も通信費を請求していない上、審議においても毛さんが銀行側は誠実さという精神的文化及び職務紀律に反したために労働契約を一方的に解除したという点を特に主張している。また、銀行側は「労働契約法」第四十三条の規定に基づき、一方的な労働契約解除に際しては事前に労働組合へ告知しており、手続き上においても法に基づいた措置を施しているのである。