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【判例】競合避止補償金の給付時期と競合避止の発効要件

【判例】競合避止補償金の給付時期と競合避止の発効要件 (2016年2月1日)

案例:

 甲社と董氏は2003年7月10日に「労働契約」「機密保持契約」及び「同業禁止契約」(注:同業禁止とは競合避止を言う)を締結した。上述の契約では、董氏が甲社において機密保持及び競合避止義務を負うとしたが、董氏の賃金構成や競合避止補償金の金額及び支払方法については約定していなかった。董氏は甲社で業務に従事している間、毎月2万元の賃金を得ていた。董氏は2011年12月31日に離職し、乙社へ就職した。董氏の離職後、甲社は避止補償金を支払っていなかった。甲社の業務内容は薬品の研究開発及び販売であり、乙社の業務内容は新薬及び医療機器の研究開発、医療コンサルティングであった。甲社は董氏へ競合避止契約違反の損害賠償請求を労働仲裁委員会へ申し立てたが、同委員会は2013年1月19日に甲社の請求を全て棄却する裁決を下した。

 その後甲社は法院へ提訴した。甲社は、2011年12月30日の契約期間満了時、董氏は会社側へ「契約満了通知書」を提出し、会社側の慰留にも関わらず労働契約を解除した。甲社は医薬品研究開発企業であり、董氏はそのプロジェクト管理部門の職責を担っており、甲社の最高機密に属する商業的秘密を処理していた。董氏の在職期間、甲社は毎月一定額の競合避止補償金を支払っていた。毎月の賃金支払時、同時に競合避止補償金を支払っていたものであり、賃金明細には基本給、業績給、職務手当、競合避止補償金の額が記されている。しかし董氏の離職後、甲社は董氏が自身の負うべき機密保持義務及び競合避止義務を無視し、競合他社である乙社へ就職し甲社の利益を大きく侵害していることに気づいた為提訴に踏み切ったとし、法院へ1、董氏は甲社に対し競合避止契約違反金として10万元を支払え2、裁判にかかる費用は董氏の負担とする、との判決を求めた。

 董氏はこれについて、甲社は離職後競合避止補償金を一切支払わなかった。ゆえに競合避止義務を遵守する必要は無いとして、甲社の請求を棄却するよう求めた。

争点:

 競合避止補償金の給付時期及び競合避止約款の発効要件

判決:

 一審は、甲社が董氏と締結した「労働契約」「機密保持契約」及び「同業禁止契約」においては董氏の賃金構成や競合避止補償金の金額を約定しておらず、甲社が賃金明細のみを根拠として董氏へ毎月競合避止補償金を支払っていたと主張し、他に証拠を示せない状況下にあっては、証拠としての信用力にける。また甲社は董氏が離職後競合避止義務に反したことを証明できておらず、ゆえに董氏へ競合避止契約違反金の支払を求める根拠に欠けるとして、甲社の請求を全て棄却した。

 甲社はこれを不服として上告し、二審へ一審判決の破棄と一審での請求を自判するよう求めた。上訴理由は、一審判決では事実が明確に認定されておらず、甲社と董氏の間で交わされた「労働契約」「機密保持契約」及び「同業禁止契約」には競合避止及び賃金中に競合避止補償金が含まれることが明確に規定されており、董氏が得るべき競合避止補償金は既に支払った賃金に内包されており全額支払われている。これが董氏の賃金が他の従業員より高額であった理由である。一審は法の適用を誤ったものであり、甲社と乙社の業務内容は同じ新薬の研究開発及び販売であるから、競合関係が存在すると言える、というものであった。

 二審は、甲社が董氏と締結した「労働契約」「機密保持契約」及び「同業禁止契約」においては確かに競合避止を規定しているが、上述の契約には甲社が董氏へ競合避止補償金を支払う旨約定されていない。甲社は、董氏に支払った賃金に競合避止補償金が含まれておりこれを支払ったと主張しているけれども、甲社が法院へ提出した証拠には単に「補償金」との記載しか無く、競合避止補償金であることを明確にしていない。このように証拠が不備である状況下にあって、法院としては甲社の主張を信用に値しないと言わざるを得ない。加えて、甲社は董氏の離職後、同氏へ競合避止補償金を一切支払っていない。故に、双方の約定した競合避止約款は保障金条項の欠如により発効の根本的要件に欠け、甲社の上訴における事実及び法的根拠は認められないとして、甲社の上告を棄却し、一審判決が確定した。

分析:

 (一)競合避止補償金は競合避止条項の発効要件である

 労働契約法の規定では、使用者と労働者は労働契約において使用者の商業的秘密および知的財産権に関する機密保持事項を約定することができる。機密保持義務を負う労働者に対し、使用者は労働契約及び機密保持協議書において競合避止条項を設け、労働者の退職後、競合避止期間内に労働者へ毎月の補償金を支払うと共に、競合避止条項に反した労働者へ違約金の支払を求めることができる。

 競合避止の発効要件には、合法性要件と合理性要件の二つがある。合法性要件とは、競合避止に関する約定が具体的な法律の規定に違反しないことを言い、合理性要件とは約定した内容が義務を負う者及び権利を行使する者に対して平等かつ公平で、合理性を具えていることを指す。この合理性要件には、使用者が労働者へ合理的な補償金を支払うことも含まれており、これは競合避止条項の発効要件であると言える。

 「労働契約法」の規定にも見て取れるように、競合避止における補償金は労働者の離職後毎月支払われるべきものであり、当該労働者の在職期間に支払われるべき性質のものではない。

 (二)競合避止補償金を毎月支払っているか否かは使用者側に証明責任がある

 使用者は、労働者へ賃金を支払ったこと及び賃金の構成内容について法院での証明責任を負う。本案件において、甲社は董氏へ支払った賃金には競合避止補償金が含まれていると主張していたが、その証明責任は甲社にある。なぜなら両者の締結した「同業禁止契約(競合避止契約)」には明確な規定が無く、甲社が提出した賃金明細では董氏へ競合避止補償金が支払われたことが確認できないため、甲社はこれを証明する責任を負うこととなる。

 (三)「司法解釈四」に競合避止問題についての意見が記されている

 2012年末に公布された「最高人民法院労働争議案件審理における法律適用に関する若干問題の解釈(四)」第六条には、「当事者が労働契約及び機密保持協議において競合避止を約定しているが、労働契約の終了及び解除後に労働者へ経済的保障をすることを約定しておらず、労働者が競合避止義務を履行しているときは、労働者は使用者に対し、当該労働者との労働契約が終了及び解除された日から起算して前12ヶ月の平均賃金の30%を補償金として支払うことを請求でき、人民法院はこれを支持する。これに規定する月平均賃金の30%が労働契約の履行が為された地域の最低賃金基準を下回るときは、同地域の最低賃金基準に基づいた金額を支払う」とあり、同第八条には、当事者が労働契約及び機密保持契約において約定した競合避止及び経済的保障について、当該労働者との労働契約が終了及び解除された後、使用者による原因で三ヶ月間補償金が支払われず、労働者が競合避止約款の解除を請求したときは、人民法院はこれを支持する」をある。また同第九条二項には、「競合避止に関する契約事項の解除に当たり、労働者が使用者へ(平均賃金の)3ヶ月分に当たる競合避止補償金の支払いを求めたときは、人民法院はこれを支持する」と記されている。このことからも、競合避止における経済保障の約定とその支払について使用者は十分に注意すべきであろう。