ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】遅刻を理由とする解雇は違法か?(2016年6月28日)

【判例】遅刻を理由とする解雇は違法か?(2016年6月28日)

案例:

劉氏は2011年5月Cコンサルティング会社へ入社し、二年間の労働契約を締結した。2012年12月、劉氏は突然C社より、幾度にも渡るさぼりや遅刻を理由として、劉氏との労働契約を解除することを決定した旨を通達された。劉氏はこれに疑問を感じ、自身に何ら過失が無いにも関わらず、C社より突然重大な規則違反を申し渡されたことは到底受け入れられないとしてC社へ賠償金の支払を求めたが拒否されたため、労働仲裁を申請しC社へ違法な労働契約解除に対する損害賠償金の支払を求めた。

 審議中、C社は自社の勤務制度において(労働時間を)「月曜日から金曜日の9時から18時まで」と明確に規定しており、また「遅刻及び早退について、当月内に遅刻及び早退があったときは、一度につき100元の罰金とする。四回目の遅刻及び早退があれば解雇処分とする」との規定もあり、劉氏は早い段階で既に確認のサインをしている。C社では日ごろからこの勤務制度を実施しており、管理の内容も明快で、各従業員へメールで規則を遵守するよう念を押していた。劉氏の規律違反行為について、C社では温情から罰則を実施せず、幾度も電話や面談で会社の規則制度、特に勤務制度について劉氏へ告知し、サボりや遅刻が規律違反であることを指摘すると共に、口頭で批判、教育を行ってきた。しかしながら劉氏は毎日遅刻しており、彼女の打刻時間の平均は9時を越えている。

 これに対して劉氏側は、確かに規定の出勤及び退勤時間は知っていたけれども、C社の他の従業員も遅刻や早退をしている状況下で、もし解雇するならば自分一人だけ解雇されるべきではない。また、もしC社が始めての遅刻の時に100元の罰金を科していたら、自分は再び遅刻をしなかったかも知れなかった。心の準備が全く出来ていないまま、C社に突然解雇されたと反論した。

争点: 

1、他の労働者に同じ規律違反があった場合であっても、使用者は一人に対してだけこのような措置を採ることができるか?

2、罰則を適用せず、いきなり解雇する行為は合理性があるか?

分析: 

本案件の焦点は二つある。一つは他の労働者に同じ規律違反があった場合でも、使用者は一人に対してだけこのような措置を採ることが許されるかという点、もう一つは罰則を適用せず、いきなり解雇する行為は合理か否かという点である。

焦点一について、仮に劉氏の述べている内容が真実であるならば、C社の劉氏を含む一部労働者は出勤及び退勤時間を知っているにもかかわらず、これを遵守していないことになる。ならば、C社は劉氏を規則違反として処理できるか?時間通り、正常に出退勤することは労働者の基本的義務であり、時間通り出勤しない事が常態化していることを理由としてこの義務が免除される訳ではない。

本案件において、他の労働者が勤務時間を遵守しようがしまいが、劉氏は規則を守らなければならない。しかし彼女は明らかに規則を破り、C社の度重なる指導を受けても態度を改めず、勤務表を見れば毎日遅刻していることは明らかである。彼女の違反行為は悪質であり、社内の勤務制度に明らかに反しているので、C社が規定に則った管理権を行使することに何ら問題がある訳ではない。

焦点二について、劉氏は仲裁庭で、C社の勤務制度では遅刻三回までは罰金、四回目で解雇となっているが、C社は罰則を実行しなかったので、警告としての役割を果たさなかったことを特に強調している。ではC社が罰則を実行せずいきなり解雇したことに合理性はあるのだろうか?

まず、使用者側の規定する労働者に対する罰金には何ら法的根拠が無いので、C社は本来遅刻した労働者に対し罰金を科すべきではない。

「中華人民共和国行政処罰法」の関連規定によれば、法に規定される罰金、拘留などの措置を採る権利を有する機関だけが、法的手続及び権限に則って、違反者へ罰金などの強制措置を採ることができるのである。しかし使用者は行政執行機関ではないから、法律上労働者の違反行為に対し罰金を徴収する権限は無い。

もし使用者が労働者に罰金を科した場合、関連規定が無効と認定される、不当な賃金控除とされる、賃金の他に経済補償金を支払わせられるなど一連のリスクを背負うこととなる。ゆえに、使用者はこのような簡単で粗暴な管理方法を捨て去り、より調和の取れたリスクの小さい懲罰制度を用いるべきである。

その一方で、解雇された労働者もその責任を全て会社側に転嫁することはできない。何故なら劉氏は自身が何度も遅刻していることを自覚しており、会社側の規定制度を知っているほか、会社側より幾度も指導を受けており、四度目の遅刻で解雇されることを知っていたことは明確であるから、彼女のいわゆる「心の準備が出来ていない」という言葉は当てはまらない。それに、C社が劉氏の前三回の遅刻に処罰を科しても科さなくても、劉氏が何度も遅刻したという事実に何ら影響を及ぼすものではない。

この労働争議は、調停の結果、最終的に和解した。

企業が従業員の遅刻問題に直面したときは、経済的処罰だけで処理せず、企業の管理や制度を改善すべきである。具体的には以下の方面からの着手が考えられる。

一、合法かつ有効な規定制度の制定。本案件の企業のように、法に基づいた手続を以て制度を制定し、これを法に基づいて労働者へ公示するのである。規定制度の内容はしっかり練られたものでなくてはならない。皆勤手当や業績給などと関連づけて、規則違反があった場合は皆勤手当や業績給から一定額を差し引けば、賃金から(罰金を)差し引くより、自治的であると言えるだろう。

二、企業管理体制の改善。確かに合法的な規定制度を用いれば労働紀律に違反した従業員を処罰できるが、企業の管理体制が不完全であれば、規定制度も形骸化してしまう。企業の管理体制には、賃金制度管理や業績給管理、勤務管理、違反従業員への処罰なども含まれる。もし従業員が規定制度や労働紀律に違反したときは、企業側は適時処罰決定及び状況説明書を作成し、労働者へ署名させ、法に基づく社内規定制度の適用であることの証拠とすべきである。管理の改善は、企業側が規定制度を適用し従業員へ規範を示すための重要な手段なのである。

三、合理的な出勤、退勤時間の制定。従業員の規則違反は偶発的なものであるべきだが、もし従業員の規則違反が常態的なものとなっているならば、その企業は自身の制度制定や管理問題をよくよく検討すべきである。例えば、ある企業が市内中心部にあり、従業員の多くが会社から離れた郊外に住んでいる場合、会社側は出勤時間を9時からずらして退勤時間を遅くする、昼休みを短くするなどして、遅刻が頻発する事態を防がなくてはならない。

まとめると、企業と従業員は水と油のように対立すべきではなく、同じ目的を共有する戦友であるべきである。企業が従業員を管理する際には処罰に頼るのではなく、従業員への奨励などによって調和の取れた労働関係を築き上げ、企業のより良い成長を促すべきであろう。