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【判例】労働組合の無い企業でも、解雇時には労働組合への通知が必要とされるか?(2016年7月20日)

案例一:

肖氏は2011年7月18、A社とペット美容顧問として2014年7月17日までの労働契約を締結した。契約では、毎月の賃金は5000元と約定されていた。2012年12月24日、A社は「肖氏が社内上層部へ賄賂を贈ったことは、労働契約第二十二条第3項に反し重大な労働紀律違反に該当する。店舗での業務の際便宜を図りこれを帳簿に記載しなかった事は労働契約第二十二条第4項に反し、私利による不正行為により会社側へ損害を与えた。2日間の無断欠勤は労働契約法第二十二条第3項に反し、重大な労働紀律及び規定制度違反に該当する。以上、肖氏美は容室の責任者として、労働契約法第二十二条第四項に規定する重大な業務上の過失により、会社の利益を著しく損ねた」ことを理由として、労働契約を解除した。

 肖氏はこれを不服として、A社が解雇時工会(労働組合)の意見を聞かず、かつ30日前の予告無しに解雇した点を、違法な解雇手続であるとして労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社へ解雇に対する損害賠償金13800元の支払を求めた。しかし仲裁庭はこれを認めず、肖氏は人民法院へ提訴した。

 A社は、工会をまだ設立していないため、工会の意見を聞けなかったと主張している。

判决: 

一審は、最高人民法院「労働争議案件審理の法律適用に関する若干問題の解釈(四)」第十二条には、工会を設立した使用者は「労働契約法」第39条、第40条に基づき労働者を解雇できるが、「労働契約法」第四十三条に規定する工会への事前通知が無かった場合で、労働者が不当解雇を理由として使用者へ損害賠償を請求した場合、起訴の前、使用者が手続を正した場合を除き、人民法院はこれを支持する、とある。しかし本案件において当事者双方は、A社が工会を組織していないことを認識しており、故に肖氏のA社が工会へ事前通知していない為違法な解雇であるとの主張は、上記の司法解釈に該当しないとして、肖氏の訴えを退けた。

案例二: 

呉氏は2011年12月23日、営業主管としてB社へ入社し、2011年12月23日から2014年12月22日までの労働契約を締結した。2013年8月、B社は呉氏を重大な業務上の失態、売掛金の未回収、会社に対する不満からの配置転換拒否、幾度にも渡る職位任命撤回通知の拒絶を理由として、呉氏との契約を解除した。

呉氏はこれを不服とし、B社が解雇時工会の意見を求めなかったことを違法な解雇手続であるとして、労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、B社へ不当解雇の損害賠償金15000元の支払を求めた。これを受けて、上海市某区の労働人事仲裁委員会は審理の末B社へ不当解雇による損害賠償金15000元の支払いを命じた。B社はこれを不服として、法院へ提訴した。

B社は、自社には工会が無く、花橋工会(※B社がある地域の工会を統括する労働組合)の管理を受けているため、呉氏を解雇したとき工会へ通知できなかった、としている。

判决: 

一審は、使用者の一方的な労働契約解除にあっては、その理由を工会に通知しなければならない。確かに現在B社には工会が無いけれども、呉氏との契約を解除した理由を上部工会組織へ告知しておらず、通知義務を果たしていないと言える。総じて、B社の呉氏との労働契約解除は「中華人民共和国労働契約法」の規定に符合せず、ゆえに会社側は呉氏の勤続年数及び離職前12ヶ月の平均賃金に応じた不当解雇による損害賠償金を支払わなければならない。現在呉氏の求めている損害賠償金15000元はこの範囲内であるから、B社は呉氏へ労働契約解除の損害賠償金15000元を支払わなければならない、との判決を下した。

争点: 

工会を設立していない企業が一方的な労働契約解除を行う際に、工会への通知が必要となるか?

分析: 

「労働契約法」第43条には、使用者が一方的に労働契約を解除するときは、その理由を予め工会へ通知しなければならない、とある。この条文は、工会のある企業ならば容易に理解し手続できるものだが、工会の無い企業にとっては難解なものであろう。それでは、工会の無い企業が一方的な労働契約解除を行う場合でも工会への通知が必要になるのだろうか?通知が必要だとするならば、どこの工会へ通知すればいいのだろうか?

1. 地方条例の規定及び上海市の判例

現在、「労働契約法実施条例」はもとより最高人民法院の司法解釈でもこの問題に対する明確な規定が無く、一部地方の条例にのみ規定が為されている。例えば、「江蘇省労働契約条例」(2003年10月25日江蘇省第十回人民代表大会常務委員会第六次会議通過、 2013年1月15日江蘇省第十一回人民代表大会常務委員会第三十二次会議改正)第31条第2項には、「使用者が一方的に労働契約を解除するときは、その理由を予め工会へ通知しなければならない。使用者が工会を設立していないときは、使用者の所在地を管轄する上級工会へ通知しなければならない」と規定されている。

しかし、上海市ではこの問題について規定を設けていない。また、上海法院の判例を見ると、使用者に工会が無い場合は通知を必要としないという事例と、使用者の所在地を管轄する上級工会へ通知しなければならないという事例の、完全に異なる二つの判例が存在している。すなわち、上海法院はこの種の裁判において、判断基準がまちまちになっているのである。とはいえ工会を設立していない企業の場合、リスク軽減の観点から、一方的な労働契約解除の際には、事前に企業の所在地を管轄する上級工会へ通知しておく方が良い。

2.「工会への通知」とは、工会の同意を意味するか?

「労働契約法」第43条では、使用者は工会へ理由を通知すればそれでよく、工会の同意は必要ではないとしている。ゆえに、 工会への通知は同意を意味するものではない。しかし、工会は使用者が法律や行政法規及び労働契約に違反していると認識した場合、使用者に見直しを求めることができる。この時、使用者は工会の意見を検討し、その結果を工会へ通知する義務を有する。

3. 工会への通知なき一方的な契約解除をした場合、その救済措置は残されているか?

「最高人民法院労働争議案件審理における法適用に冠する若干問題の解釈(四)」第12条によれば、使用者が提訴前に工会への通知手続を修正した場合は、労働者が不当解雇を理由として使用者へ損害賠償を請求したとしても、人民法院はこれを支持しないとしている。ゆえに、もし企業側が一方的な労働契約解除を工会に通知していなければ、提訴される前に修正することができるのである。この「提訴前」とは、「提訴が受理される前」を意味する。

4. 使用者が一方的に労働契約を解除できる状況とは?

「労働契約法」では、使用者が一方的に労働契約を解除できるケースとして(1)第39条による過失性の解雇(2)第40条に規定する予告解雇を規定している。