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【判例】傷病療養休暇中に旅行に出かける行為は「重大な規律違反」に該当するか?(2016年10月28日)

案例:

賈氏は2013年1月28日、恵日公司へ専任経理として入社し、一ヶ月に36000元の賃金を貰っていた。2013年4月19日、賈氏はEメールで二週間の傷病療養休暇を申請し、会社側はこれを認めた。

 賈氏は2013年4月19日ブラジルへ旅行に出かけ、会社側は賈氏がwechatのミニブログでブラジル旅行を満喫している様子をアップしていることに気づいた。2013年5月16日、会社側は賈氏が傷病療養休暇を申請した当日にブラジルへ海外旅行に出かけた行為を、虚偽申請と悪意をもって会社側を騙した詐欺行為による重大な規律違反であるとして、賈氏を即日解雇した。

 賈氏は2週間の傷病療養休暇は会社側の許可を得ており、北京の大気汚染が激しいのでブラジルで療養していたと主張し、会社側へ解雇の撤回と労働者たる地位の確認、労働契約の継続履行を求めた。

争点: 

賈氏が「傷病療養休暇」中に出国した行為は虚偽申請による詐欺行為と見做されるか?

判決: 

会社側の規定には、会社側の求める重要な個人情報に虚偽、詐称、隠蔽などがあった場合は労働契約を解除するとの規定がある。ゆえに、本案件の焦点は「傷病療養休暇」中に出国した行為が虚偽申請による詐欺行為であるか否か、という点である。

まず、会社側の反証が無い状況にあっては、賈氏の提出した診断書、カルテ、医療費の領収書などから、 賈氏の受診状況は真であると言え、また病院の発行した二週間の診断証明書も有効なものであった。会社側は、賈氏が傷病療養休暇基幹中にブラジルへ旅行した事実について、賈氏のいわゆる病状が二週間の休暇を要しない程度だったのではないかとの見方を示しているが、これは会社側の主観であり、賈氏の病状がどの程度の休暇を必要とするものかは医療期間の判断による。ゆえに、賈氏が会社側に対して傷病療養休暇届を提出し許可を得た行為は虚偽の申請に該当せず、悪意ある詐欺行為であるとも言えない。

次に、 会社の就業規則には傷病療養休暇中旅行に行くことについて何ら制限が無く、つまり賈氏が傷病療養休暇中にブラジルへ行くことは制度上何ら制限されていないということを意味する。会社側はブラジル旅行が療養ではないと主張するが、(静養地での)静養と旅行は、一見すると全く同じ行為であり(どこまでが旅行でどこまでが静養かの)境界を定めるのは困難である。

最後に、 賈氏はブラジルへ行ったかどうか尋ねられた際に、これを否定し た事が虚偽の申告であり、悪意ある詐欺行為であると会社側が主張している点についてである。会社側はこれに関し録音音声を証拠として提出しているが、 録音音声において賈氏は傷病療養休暇中であることを主張 しており、会社側の話し振りは善意に欠けている。また どこで傷病療養休暇を過ごしたかはこの問題と無関係である上、録音音声には賈氏が出国を否定するような内容は含まれていない。 ゆえに、会社側の主張する賈氏がブラジルへ行っていないと嘘をついた事が虚偽の申告であり、悪意ある詐欺行為であるという主張は、これを事実とする根拠に欠ける。

以上を総合し、法院は、会社側が重大な規律違反を理由として賈氏との労働契約を解除した行為はその根拠を欠くものであるから、解雇を撤回し労働契約を継続履行することが妥当であるとした。法院は最終的に、賈氏が恵日公司の労働者たる地位にある事を確認し、労働契約を継続履行せよ、との判決を下した。

分析: 

従業員の長期間に渡る傷病療養休暇は、企業側から見ると多くの問題や困難を確実にもたらすものだが、その一方で、企業側には社会的責任を果たす義務がある。如何にして法律法規や公平原則を遵守しつつ、療養中の従業員を管理し、人件費を不必要に増加させないかという問題は、企業HRにとって必ず相対し解決しなければならないものである。

1 傷病療養休暇申請書の改善

実務において、虚偽の傷病療養休暇申請は多くのHRにとって頭の痛い問題となっているが、これは傷病療養休暇申請書を改善することによって虚偽の傷病療養休暇取得を防ぐことができる。企業HRは、病気の原因、療養予定期間、医師名とその連絡先、休暇中の居住地、休暇中の連絡方法及び連絡先が記載された、格式に則った傷病療養休暇申請書を作成すべきである。また、傷病療養休暇申請書上で、傷病療養休暇申請書の内容が真実であり、もし虚偽又は誇張したものであった場合は、会社側から重大な規律違反として解雇されても異存は無い旨、労働者から一筆書いてもらうのも良い方法である。

2 傷病療養休暇申請手続及び許可の規範化

企業は、傷病療養休暇申請の際には申請書を提出する、会社側が指定する、もしくは適切な病院から傷病療養休暇が必要であることを証明してもらうなど、労働者が休暇を申請する際の手続方法を制定し、労働者へそれに基づいて手続をさせるべきである。労働者が傷病療養休暇を取るときは、必ず許可を受け仕事の引継ぎを行わなければならない。休暇申請手続きや許可の権限を制定する際には、休暇の性質、長短、申請者の職級などの要素を総合的に考慮しなければならない。

もし労働者が特別な事情により休暇の手続を取れないときは、状況を速やかに報告した上で出来るだけ早く手続を取らせ、期限を過ぎても手続をしなかった場合は無断欠勤とすべきである。正式な手続を取らず、また許可無く職場を離れた場合は、無断欠勤として処理することができる。

3 傷病療養休暇の定期報告

企業側は、労働者の傷病療養休暇中、本人または家族から一週間及び半月に一度、容態に変化があった場合は適時、現在の療養状況を報告させるように規定することができる。また、労働者の休暇が終わり、再び出勤した後に休暇終了の手続を取らせることで、労働者の療養状況を監査することもできる。