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【判例】使用者は労災期間中の労働者を解雇できるか?(2016年10月28日)

案例:

王氏はA社の貨物車運転士である。2014年8月10日、王氏は交通違反による交通事故を引き起こし、王氏自身も怪我をした他、A社へ数万元単位の経済的損失を与えてしまった。公安部は王氏に事故の責任があることを認めた。その後、王氏は労災認定を申請し、区人的資源社会保障局は王氏の事故による傷害を労災と認め、区労働能力査定委員会により障害十級に認定された。2014年8月20日、A社は王氏を就業規則違反により解雇した。

 王氏はこれを不服として、労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社へ不当解雇に対する損害賠償を請求した。

A社は、双方で契約した労働契約に「契約期間内に、職務怠慢や運行規定及び安全規定違反、違法運転により事件及び事故を引き起こし、財産及び人身に対し2000元以上の損害をもたらしたときは、A社はその責任のある範囲内で損害賠償を負った後、重大な規律違反として王氏との労働契約を解除し、経済補償金を支払わないものとする」と規定していた。今回王氏が引き起こした交通事故は王氏の違法運転によるもので、交通警察も王氏に事故の全責任があると認めている。会社側はこの事故によって一万元を越える損害を出しており、労働契約に則り重大な規律違反として王氏との契約を解除することは何ら不当ではないし、会社として損害賠償金も支払わない。また、「労働契約法」にも、労働者が重大な紀律違反を犯したときは、労災期間であっても労働契約を解除できるとある、と主張した。

争点: 

A社の労働契約解除は労働契約法24条に規定する解雇制限に該当するか?

判决: 

労働仲裁委員は、我が国の「労働契約法」の規定では、労働者が業務において職業病及び労災により負傷し、又は労働能力の全部又は一部を喪失したときは、使用者は本法第四十条、第四十一条に基づき労働契約を解除することはできない、とある。但し、労働契約法第四十条、第四十一条に規定するのは整理解雇及び労働者の責に因らない解雇であり、ゆえに、会社側が王氏を重大な紀律違反を理由として労働契約を解除することは何ら不当ではなく、また二倍の経済補償金の支払義務も無い、と結論付けた。

分析: 

本案件の争点は、A社の労働契約解除が労働契約法第四十二条に規定する解雇制限に該当するか、という点である。

労働契約法第三十九条では、労働者に下記の状況のいずれかがあるとき、使用者は労働契約を解除することができる。 (2) 使用者の規則制度に甚だしく違反したとき、…と規定されており、また同第四十条では、下記の状況のいずれかがあるとき、使用者は30 日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し1 ヶ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができる。(1) 労働者が罹病又は業務によらない負傷により、規定の医療期間満了後も元の業務に従事することができず、使用者が別途手配した業務にも従事することができないとき(2) 労働者が業務を全うできないことが証明され、職業訓練又は職場調整を経てもなお業務を全うできないとき、…と規定されている。

同第四十二条には労働者に以下の状況のいずれかがあるときは、使用者は本法第四十条、第四十一条の規定に従い労働契約を解除してはならない。(2)本組織で職業病に罹患したか、又は業務による負傷により労働能力を喪失又は一部喪失したと確認されたとき、…とある。

本案件において、王氏の重大な規律違反は労働契約法第三十九条二項の「使用者の規則制度に甚だしく違反したとき」に当たり、使用者はこの規定により労働契約を解除したとき、労働者へ経済補償金の支払う必要は無い。また、王氏のケースでは第四十二条に規定する解雇制限にも該当しないため、A社の契約解除は合法であり、経済補償金も支払わなくてよいという事になる。

「労働契約法」の施行以来、労働者の合法的権益はより一段と保障されるようになった。特に労働契約の解除要件に関する条項は、使用者の随時解雇を防ぐ目的で制定されており、第四十二条では特殊な状況下にある労働者の解雇を制限している。しかし注意しなければならないのは、法律は弱者を保護しているが、保護されている者に好き勝手なことをさせる為にあるものではない、という点である。実務において、(解雇制限に該当する)一部労災被災者や妊娠中の女性従業員に職務怠慢や規律違反行為が見られることがあるが、これは労働契約法の立法趣旨に反するので、この場合使用者は重大な規律違反や重過失、職権濫用などを理由として労働契約法第三十九条により労働契約を解除することができる。