ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】残業認可制下にある労働者が実際の残業時間を主張する為には、残業の承認を得た証拠が必要となるか?(2017年3月29日)

【判例】残業認可制下にある労働者が実際の残業時間を主張する為には、残業の承認を得た証拠が必要となるか?(2017年3月29日)

案例:

劉氏は2011年4月27日に北京輔仁公司へ入社した後、同社邯鄲(※地名)事業所の行政人事主管に任命され、事業所内の行政事務及び人的資源管理を一任されていた。劉氏の職位では労働時間に応じて賃金が支払われるため、打刻が必要であった。また、劉氏は残業をする際に申請をせねばならず、残業申請書と会社側が確認した実際の出勤時間から時間外労働時間を算定することとなっていた。2013年9月17日、劉氏は会社側から労働契約を解除された。

2013年11月19日、劉氏は区労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2011年4月27日から2013年9月17日までの休日出勤及び祝日出勤、並びにその超過勤務に対する時間外手当の支払いを求めた。これに対し会社側は劉氏の離職証明書を提出した。

2015年10月26日、区仲裁委は、会社側が離職証明書を提出していることを理由として劉氏の請求を棄却した。劉氏は離職証明書については認めたものの、その他の裁決項目については同意せず、北京市大興区人民法院へ提訴した。

劉氏側は、会社側は確かに承認分の残業代を支払ったが、実際には残業無しの日も一時間程度残業していた。しかし会社側の時間外労働時間の算定にはこの残業時間が含まれていない。また、在職中は毎週6日出勤したが、平日の残業代と同じ倍率の時間外手当しかもらっていない。会社側は基本賃金を基数として法定祝日分の残業代を支払っていたが、この基数には職務手当や業績給が含まれていなかったため、会社側が本来支払うべき法定祝日分の残業代との間に差が生じている、と主張した。

会社側は、自社としては区仲裁委員会の裁決に同意するが、劉氏の求めには同意できない、と反論した。

争点: 

残業認可制下の労働者が主張する時間外手当はどのように認められるか?

判決: 

労働者の主張する時間外手当については、時間外労働があった事実を立証する責任を負う。劉氏は、会社側は確かに承認分の残業代を支払ったが、実際には残業無しの日も一時間程度残業していた。しかし会社側の時間外労働時間の算定にはこの残業時間が含まれていないから、その不足分の時間外手当を支払えと主張している。劉氏は残業及び休日出勤のあった証拠として2011年4月から2013年8月までのタイムカード、残業申請書、休暇申請書、勤務休暇管理制度のコピーなどを提出しているが、タイムカードは表面及び裏面に打刻するものであるにも関わらず、2011年12月から2013年9月までの  タイムカードには手書きで記された箇所が多数あった。またタイムカードの表面及び裏面には確認者の署名があるものもあるが、 一部タイムカードには表面及び裏面に確認者の署名が無かった。 更に、承認者の署名があったのは2012年2月のタイムカードのみで、2月8日午後の退勤時間表示箇所に承認者の署名があっただけであった。休日出勤があったのは2011年9月、2012年3月、2012年5月、2013年3月、2013年5月で、計39時間の時間外労働があったが、これについては会社側が証拠として提出した、周勇と王勝利(原告)の署名があるタイムカードと休暇申請書の方に信憑性があり、これ以外の証拠の真実性及びその証明目的は認められない。 

劉氏の職位は労働時間制であるから、打刻に照らして勤怠管理を行うものである。 劉氏の時間外労働には会社側への申請が必要であり、この時間外労働は残業申請書と会社側の人事部が認可した出勤時間の審査及び承認をもって事実とすべきである。  これらの事実を総合し、法院は、劉氏の提出したタイムカードをもって時間外労働及び休日出勤の事実があったと認めないが、2011年9月、2012年3月、2012年5月、2013年3月、2013年5月の残業申請書は相応の時間外労働があった事実を証明するものであるとする。

以上から、劉氏の会社側への時間外手当支払請求は何ら根拠が無く、法院はこれを認めないものとする。但し、会社側が劉氏へ支払っていないと主張する2012年3月、2012年5月、2013年3月、2013年5月の休日出勤に関する時間外手当について、法院は、会社側へ上述期間の休日出勤分の時間外手当の差額を支払えとする劉氏の主張を認める。劉氏の主張する2011年9月の時間外手当未払いに関する差額の支払いや、劉氏の祝日出勤の事実の証明については、  その挙証責任を果たしていないことから、法院はこれを認めないものとする。 

分析: 

本案件をもとに、残業認可制に関する問題に検討を加えていきたい。

1、残業認可制は労働者の利益に密接に関係する制度であるから、労働法規に定める手続きをもって制定しなければならない。「労働契約法」第四条には、使用者が労働報酬、勤務時間、休憩・休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員研修、労働紀律及び労働ノルマ管理等についての  労働者の密接な利益に直接関わる規則制度又は重要事項を制定、改正又は決定する場合は、従業員代表大会又は従業員全体で討議し、方案及び意見を提出し、労働組合又は従業員代表と平等な協議を経て確定しなければならない、と規定されている。これが我々の言うところの民主的手順であり、残業認可制度及び労働者の賃金についての問題は、当然労働者の密接な利益に直接関わるものであるから、民主的手順をもって決定されなければならない。

2、残業認可制は労働者へ送達して初めて効力を生ずる。「労働契約法」第四条には、使用者は、労働者の密接な利益に直接関わる規則制度及び重要事項決定を、公示するか又は労働者に告知しなければならない、と記されている。  

3、使用者側は残業認可制を厳格に適用しなければならない。使用者は、制定した制度を率先して遵守する必要がある。もし使用者が残業認可制を実施したにも関わらず、残業の承認などを履行しなかった場合、労働紛争が発生した後、使用者がこの制度を執行しなかった事を労働者側が一旦証明してしまうと、労働者側の時間外手当請求が認められる可能性が非常に高くなってしまうのである。