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【判例】 元職位の取り消し、協議の不成立が労働争議を呼ぶ(2017年9月26日)

案例:

李氏は2001年4月よりA公司甲部門で仕事を始め、2007年12月1日、期間の定めのない労働契約を締結した。

2015年6月30日、A公司は李氏の業務が完了したことを理由として、元の職位を取り消し、「人事通告」をもって李氏を乙部門のデザイナーへと配置転換した。同年9月23日、双方は「研修承諾書」に署名し、会社側は李氏を2015年10月5日より2015年11月30日まで国外で研修させること、李氏側は研修課程を全て修了し、資格試験に合格して資格を得ることを約定した。約定期間は2年間であった。

2015年12月、国外の認証者は李氏の資格取得を認めず、李氏はデザイナーへの道を閉ざされてしまった。

その後、A公司は李氏へ工芸エンジニアの職位に就くよう勧めたが、李氏はこれを拒否した。会社側は再び李氏の意向を伺い、販売管理員として面接試験を受けるよう按配したが、李氏は面接試験に合格しなかった。2016年2月26日、A公司は李氏へ「労働契約解除処理通知書」を送り、李氏と元の労働契約を締結した時の状況から重大な変化が起こり、当時の職位で労働契約を履行できなくなったこと、話し合いにより配置転換を行ったが、研修をもってしても李氏が職責に足りうるレベルにならなかったこと、更に協議による労働契約の解除にも至らなかったことから、会社側は2016年2月26日をもって李氏との労働契約を解除する、とした。

A公司はその後、李氏へ労働契約解除に対する経済保証金を支払った。李氏はA公司の労働契約解除を違法であるとして、不当解雇による2倍の経済保証金の支払いを求めた。

争点: 

1、A公司の主張する「客観的に見て重大な状況の変化」は認められるか?

2、A公司と李氏は話し合いによる労働契約の変更を行ったと言えるのか?

3、A公司が配置転換後の職位を決めず面接の機会のみ提供した場合でも、労働者との協議による契約内容の変更となり得るか?

仲裁判決:

A公司は客観的に見て重大な状況の変化があったとは認められないまま、双方は協議の上で李氏の職位を変更している。A社には労働契約を再契約する際の根拠となる客観的に見て重大な状況の変化が認められず、これを理由とした解雇はその法的根拠を欠く為、労働者の仲裁請求を認めるものとする。

分析:

1、「客観的に見て重大な状況の変化」は成立するのか?

「労働部による『中華人民共和国労働法』における若干の条文説明」第二十六条には、 「客観的状況」とは、不可抗力及び労働契約の全部又は一部を履行し得なくなったその他の状況を言う。企業の移転、吸収合併、企業資産の移動や、使用単位の破産、生産・経営における深刻な事態の発生などが「客観的状況」に該当する。

本案件において、李氏は元の職位の仕事を達成したにも関わらず、A公司により元の業務や職位を取り消されているから、これを法的に規定されている「客観的状況」と同列にすることはできない。

2、A公司と李氏との間で職位変更の合意があったと見なされるか?

A公司は李氏へ人事通告を発し、李氏へ職位変更に同意し海外研修を含む研修協議書へ署名するよう求めている。

李氏は実際に協議書へ署名し、この職位変更を受け入れている。李氏は資格認証を受けることができなかったが、この事実が双方による労働契約変更協議での同意に影響することはない。

3、協議により職位を変更する場合、現存する職位への変更でなくてはならないか?

客観的に見て重大な状況の変化に関する案件において協議により職位を変更する場合、使用者は労働者へ事業単位内に実在する職位を与えなければならない。この場合に職位の性質や労働報酬の出どころなどを問われることは無いが、面接の機会の提供をもって協議の内容とすることはできない。本案件において、A公司は李氏へ同意を求めた後、李氏へ営業関係の職位への面接の機会のみを与えている。試験に合格できなかった場合に別の職位を按配しなかったことは、信義則に反し違法であると言える。

解説:

「情勢の変化」は契約法において重要な概念であり、「情勢変化の原則」は契約法を社会経済情勢の変化に適応させ、人と人との間の利益の衝突を協調へと導くものである。

「労働契約法」並びに「労働法」に規定する客観的に見て重大な状況の変化による労働契約の解除は、実務において現代契約法の「情勢変化の原則」を具体的に体現したものでなくてはならない。我が国の労働契約法において引用される「情勢変化の原則」は、実務上の労働者と使用単位との衝突において最大のバランサーとなってくれる。

但し、使用者はこれを濫用し労働者へ不利益を与えないようにしなければならない。「労働部による『中華人民共和国労働法』における若干の条文説明」第二十六条には、確かに客観的に見て重大な状況の変化が列挙されており、またその帰結が記されている(そして大部分の該当する状況をカバーしている)。しかし社会の発展に伴う「労働契約法」第四十一条におけるリストラ発動の要件やその手続き、適用範囲、使用者の優先的解雇制限や新従業員採用における厳格な規制などについて、使用者の生産経営における重大な困難や、事業転換、大きな技術革新、経営モデルの調整など客観的に見て経済状況に重大な変化がもたらされる際には、往々にして同法の規定する客観的に見て重大な状況の変化が引用される。また、実際の仲裁及び司法判断においては、。「労働部による『中華人民共和国労働法』における若干の条文説明」第二十六条に列挙される「客観的に見て重大な状況の変化」が引用される。以下に具体的な状況を見てみよう。

1、企業の移転

地方の産業構造の変化や生産及び人事コストの上昇により、多くの企業が企業の所在地を移転させているが、これは「労働部による『中華人民共和国労働法』における若干の条文説明」に規定する企業移転として「客観的に見て重大な状況の変化」があったと見なされる。

但し、企業移転が必然的に客観的に見て重大な状況の変化の構成要件を満たすか否かについては、より具体的な分析が必要となる。具体例として、使用単位が上海市内中心部から移転する場合、一般的には客観的に見て重大な状況の変化があったとは見なされない。但し、使用単位が他の都市へ移転する場合には、客観的に見て重大な状況の変化があったと見なし得る。

使用単位が市内中心部から郊外へ移った場合、または郊外から他の郊外へ移転した場合、客観的に見て重大な状況の変化があったと見なされるか否かについては、以下の点で判断される。

1)元の住所と新住所が近いか否か。

2)公共交通機関の便が良いか否か。

3)使用単位が労働者と十分に協議し、送迎バスの配置や出社時間の調整、交通手当の支払い、宿舎の用意、住宅手当の支払いなど適切な措置を取ったか否か。

2、企業の吸収合併、資産移動

国際的分業が進む中、グローバル企業では業務の分担や調整の必要性、生産ラインの調整、企業資産の国内外の移転や販売部門の他社への移転などが客観的に見て重大な状況の変化に当たる。このほか、企業の吸収合併や資産移動に伴う企業の併合、分立、法人代表者の変更などについてはそれぞれの状況を見て判断するが、「労働契約法」第三十三条には、使用単位が名称及び法人代表者、主要責任者、投資者などの事項を変更するときには、労働契約の履行を妨げないようにしなければならない、と規定されており、同第三十四条には、使用単位に企業合併及び分立などが発生した時には、元の労働契約は有効とし、労働契約上の権利及び義務は使用単位が引き続き履行するものとする、との規定がある。

ゆえにこれら企業の吸収合併や分立、法人代表者の変更は、客観的に見て重大な状況の変化に当たらないと言える。

3、アウトソーシング

企業が自身の都合により、核心的でない業務をアウトソーシングとして他企業へ展開した場合は、労働者と締結した労働契約を根拠として客観的に見て重大な状況の変化と見なし得る。

例えば、ある企業が飲食店の経営を請け負った場合や、企業所有の乗用車を売り払い他企業から車両と運転手をレンタルした結果、運転士の職位が不必要となった場合などがこれに当たる。

但し、財務や人事など企業にとって核心的な業務及び職位のアウトソーシングは、客観的に見て重大な状況の変化としては明らかに合理性を欠くものである。

4、経営方式、経営方針、組織構造の改変またはある部門及び職位の廃止

上記のような場合に客観的に見て重大な状況の変化となるか否かについては司法の中でも意見が分かれているが、仲裁庭及び法院の見解は以下の通りである。

1)、職位の調整、市場の変化に対応した企業側の経営戦略調整は、客観的に見て重大な状況の変化に属さない

2)、企業側が管理過程及び組織構造の調整により市場における競争力を向上させようとした場合や、管理者層の組織的変化が組織全体に影響を及ぼしてる場合、販売市場の変化などにより自主的に商業的決定を下した場合なども、客観的状況の変化による自主的決定には属さない。

3)部門の合併は管理行為であるから、そもそも客観的要素が存在し得ない。ゆえに客観的に見て重大な状況の変化とはなり得ない。

上述の客観的に見て重大な状況の変化を構成するか否かは、企業側が客観的状況を元にした決定を下したか、相応の証拠を提出したか否かがカギを握る。

また、使用単位は自主的経営権を最大限に行使し、発生した変化に対し労働者へ適切な職位転換を行わなければならないから、状況の変化があったとしてもこれを理由とした解雇は簡単に認められないのである。

使用者は、客観的に見て重大な状況の変化を理由として労働者との労働契約を解除する前に、協議により労働契約の内容を変更することができる。但し実践においては、経済成長に伴い労働者との協議を通じた労働契約の変更にも新しい動きが出始めている。

1,使用単位と労働者が話し合いにより労働契約を解除した場合

この場合は、当然話し合いにより労働契約の内容を変更した事にはならない。

2,(他組織への)面接の機会を与えた場合

面接の機会を与えるやり方が協議による労働契約変更の新しい方法であることは否定できないが、一部企業ではこの方法によっても労働者との契約変更のために最大限に話し合ったのだから、協議による労働契約の変更に当たるとしている。しかし、仲裁庭や司法においては、面接の機会を与えただけでは協議という手続きを取ったことにはならない。

3,協議により企業内部での職位転換及び子会社または他社への職位転換を行った場合

企業内部で職位調整を行う際にまず考慮しなければならないのは、変更後の職位に一定の相関性、合理性があり、労働者がすぐに新しい仕事に馴染めるか否かである。

もし会社側の賃金管理体制が整っていれば、いつでも職位や賃金を変更できる。この場合、変更前の職位における賃金水準を考慮し、新たな職位の賃金を合理的水準内に収める必要がある。但し、例えば営業経理職にあった労働者を警備担当者や清掃担当者とした場合は、言うまでもなく合理性は無いものとみなされる。

また、協議により他社の職位に就くことは、会社内で職位を変更していないから、労働契約の変更には当たらない。

協議により関連会社の職位へ変更する場合、変更元使用単位に当該職位及び類似の職位が無く、他の職位へ転換することが困難であるときで、関連会社との協議を経ており、実質的に労働者を保護するものとなるケースならば、協議による労働契約変更が認められる余地がある。