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【判例】 使用者は、傷病療養休暇中に兼業した労働者を解雇できるか?(2017年11月30日)

はじめに:

労働者が病気により休暇を取った場合、使用者は法に基づき傷病療養休暇分の賃金を支払わなければならない。それでは、もし労働者が傷病療養休暇中に兼業し、使用者がこれを理由として従業員を解雇した場合、違法な労働契約解除となるのであろうか?

上海市第一中級人民法院第二審では近日、このような労働紛争事案に対して判決が言い渡された。労働者が使用者の違法な労働契約解除を理由として使用者に損賠賠償金並びに医療補助金を求めた当案件において、法院は使用者の労働契約解除に違法性を認めず、損害賠償金を支払わなくともよいとの判断を下したのである。

案例:

侯氏は某貿易販売会社に雇用されている。彼は2009年4月にこの会社へ入社し、業務部代表を務めた。使用者と労働者双方は労働契約を三度締結したが、最後の労働契約は2014年4月からの期間の定めのない契約となっていた。

侯氏は2015年3月まで同社に勤めた後、傷病療養休暇に入った。この期間、会社側は法に基づく基本賃金を支払っていた。

2016年5月、侯氏は突然会社の同僚である徐氏からの電話を受け、会食に誘われた。侯氏はこれに応え会食へ出向いた。

会食時、侯氏は徐氏と歓談していたが、徐氏が侯氏の近況を尋ねると、侯氏は現在勤める会社の子会社でWeb管理者として兼職していることを明かし、每月6000元前後の収入があると述べた。

しかし侯氏にとって意外だったのは、実は徐氏が会社側の命によって派遣され、傷病療養休暇期間の兼職の証拠を探っていたことだった。この会話は徐氏によって録音されていた。数日後、会社側は侯氏を内部規律違反のかどで侯氏との労働契約を解除した。

侯氏はこれを不服として労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ違法な労働契約解除による損害賠償並びに医療補助金計12万元強の支払いを求めたが、仲裁庭はこれを認めなかった。侯氏はこの判決を不服として、法院へ提訴したが、一審は侯氏の請求を棄却した。侯氏は更に上海一中院へ控訴したが、上海一中院二審は控訴を退け、原審が確定した。

争点:

従業員が傷病療養休暇中に兼業していた場合、使用者は労働契約を解除できるか?

考察一:

労働者が傷病療養休暇中に兼職し収入を得ることは、会社側が労働者に与えた福利厚生の一部であると言えるのか。

労働者の「傷病療養権」を保護することを目的として、かつて労働部は「企業職工の疾病及び職務に因らない負傷による療養期間の規定」を発しており、また上海市は2002年5月1日に「本市労働者の労働契約履行期間における疾病及び職務に因らない負傷による療養期間に関する規定」を発している。各地方政府は其々に傷病療養休暇中の賃金待遇について規定を設けている。

使用者が労働者へ傷病療養休暇を与え、また手当及び社会保険費を支払うのは、労働者の傷病療養期間の休息と早期の健康回復、その後の通常労働を保障する為のものである。もし労働者が傷病療養期間中にその他の活動をすれば、それは明らかに傷病療養休暇の主旨に反し、信義則に反すると言える。

元労働部、国務院経貿辯、衛生部、国家工商行政管理局、中華全国総工会等が1992年に連名で公布した「企業の傷病による長期休暇職工管理業務強化に関する通知」第四条には、「傷病療養休暇を得た職工は収入が発生する活動に従事してはならない。機関、事業単位、社会団体及び企業は傷病療養休暇中の職工を雇い入れてはならない。傷病療養休暇中に収入を得た職工ついては、傷病保険待遇を停止し、医療費を負担せず、期限内に元事業単位へ復職させなければならない。批判、教育をもってしても改善が見られないときは、『企業職工賞罰条例』及び規律違反職工離職規定に基づき処理するものとする」とある。

このことから、労働者は傷病療養期間中に収入が発生する活動を行ってはならず、もしそのような事実があるならば、使用単位は労働者の傷病保険待遇と医療費負担を停止し、期限を設けて労働者を復職させなければならない。とはいえ、この規定は相当以前に公布されたもので、現在の医療保険は社会的統制を受けており、傷病療養期間中の医療費も使用者が負担するものではなく医療保険によって賄われるものであるから、傷病保険待遇の停止は実施されない恐れがある。また、「企業職工賞罰条例」はすでに廃止されており、現在規律に反した労働者の処理は法に基づき制定された社内規定制度を根拠としている。

もし労働者が傷病療養休暇を利用して収入が発生する活動を行った場合、使用単位は法に基づき定められた社内規定によって労働者を処理することになる。本案件において、侯氏は諸病療養期間中に兼職し、毎月6000元前後の収入を得ていた。二審では、労働関係が成立している労働者と使用者は、其々に労働契約を遵守し、充分に善意を以てその権利を行使し義務を履行しなければならない、との見方を示している。

労働者には、使用者の管理を受ける義務がある。この案件で会社側は、兼職を禁止した社内規定に基づいた侯氏との労働契約解除は不当なものではなく、損害賠償を支払う必要はないとした上で、侯氏は会社の許可なく兼職を行ったかどで労働契約を解除されたのだから、医療費を負担しなければならないケースに当たらないと主張し、判決においてこれが認められている。

今回のケースでも、会社側が兼職の証拠を示すことが当然重要となるのだが、会社側は一審において、同社従業員徐氏と侯氏との会話の録音データと、徐氏の証言により、侯氏が会話の中で触れた兼職の話が事実であることを証明した。侯氏は、徐氏との会話で触れた兼職について、会社側により派遣された徐氏との夕食で騙されこの話が出たもので、事実に反すると主張した。一審では、この録音テープと徐氏の証言の真実性が確認されており、録音データ中侯氏が自身の業務状況を述べている様子は話の誘導や編集によるものではないとし、会社側の労働契約解除の証拠として認めた上で侯氏の訴えを退けている。

考察二:

労働者の兼職が元事業単位と競合関係にあるかどうか、という点も見逃してはならない。実務上は、会社側が傷病療養休暇中に兼職で収入を得ている事実を掴んでいなくても、会社側の経営活動と競合する活動を行い、会社側の合法的権益に損害を与えている事実によって、規定制度により労働者を処罰することができる。

労働者が兼職によって利益を得ていようといまいと、競合行為自体が社内規定及び社会通念上妥当ではないのである。この際は、会社側は労働者へ社内規定制度を知らしめている証拠を挙げる必要がある。