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【判例】 競業避止協議の解除はどのように認定されるか?(2018年5月30日)

案例:

2009年6月22日、鄒氏は甲公司へ入社した。甲公司は鄒氏を営業部エリア担当者として迎え、双方間で「競業秘密協議」が締結された。同協議には、乙(鄒氏)が甲(甲公司)を離職した後3年間、甲公司と同様の商品を生産または経営する同業他社、もしくは競業関係にある他社の業務に就いてはならないこと、甲と競業関係にある同様の商品を自身で生産し、またこれに関連する業務に就いてはならないことが定めてあった。甲公司は鄒氏へ月賃金の10%の金額を競業避止への補償として毎月支払っていた。甲公司の就業規則によれば、会社側は毎月5日に前月分の賃金を銀行口座へ振り込むこととなっており、鄒氏の賃金もそのように支払われていた。2016年3月13日、鄒氏は一身上の都合により甲公司へ辞表を提出し、2016年3月31日、双方の秘密事項に関する資料などを会社側へ返還した。会社側は2016年1月に、鄒氏へ予め31001.20元の業績報奨金を支払っていたため、2016年5月21日、鄒氏は自身で算定した会社側へ返還すべき金5472.53元を甲公司の口座へ返還した。

2016年6月19日、甲公司は「競業避止通知書」を送付し、鄒氏へ「競業秘密協議」を履行するよう求めた。この通知書は、2016年6月23日に鄒氏宛送られた。2016年7月6日、甲公司は每月5000元を基準として2016年4、5、6月分の競業避止に対する経済補償金を鄒氏へ支払ったが、鄒氏は同日中にこれを甲公司へ返還した。2016年7月11日、鄒氏は甲公司へ「『競業秘密協議』解除届」を提出し、甲公司が離職後3ヶ月間に渡り同協議を履行しなかったことを理由として、これを解除する旨を会社側へ伝えた。甲公司は2016年7月13日に「『競業秘密協議』解除届」を受け取った。

2016年8月5日、甲公司は鄒氏へ2016年7月分の競業避止に対する経済補償金を支払おうとしたが、鄒氏の口座は既に解約されていた。2017年1月6日、甲公司は労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、鄒氏が「競業秘密協議」を引き続き履行するよう求めたが、2017年1月28日、鄒氏は「競業秘密協議」解除の確認を仲裁庭へ反訴した。

争点:

甲公司の競業避止に対する経済補償金の支払いをもって、競業避止の延長とみなされるか?

判决:

仲裁庭は審議の結果、(1)鄒氏は甲公司との「競業秘密協議」(乙(鄒氏)が甲(甲公司)を離職した後3年間は甲公司と同様の商品を生産または経営する同業他社、もしくは競業関係にある他社の業務に就いてはならない、甲と競業関係にある同様の商品を自身で生産し、またこれに関連する業務に就いてはならない)を2016年4月1日より2017年3月31日まで履行せよ(2)鄒氏の反訴を棄却する、との裁決を言い渡した。

裁決の後、鄒氏はこれを不服として民事訴訟に踏み切り、同じく「競業秘密協議」解除の確認を求めたが、法院は一審、二審とも鄒氏の訴えを退けた。

分析:

本案件については、2つの観点が存在する。

一つは、鄒氏と甲公司との「競業秘密協議」は既に解除されているというもので、これは最高人民法院「労働争議案件審議の法適用に関する若干問題の解釈(四)」第8条の、「当事者の労働契約または秘密保持協議に約定される競業避止及び経済補償について、労働契約の解除または終了後使用者の責により三ヶ月経済補償が為されなかったときは、労働者は競業避止規定の解除を求めることができ、人民法院はこれを支持する」との規定に基づく。鄒氏は2016年3月13日に辞表を出しており、2016年3月31日に離職手続きを済ませているにも関わらず、甲公司は2016年4、5、6月に経済補償金を支払っていない為、鄒氏は「競業秘密協議」の解除権を有することとなる。(契約の)解除権は形成権に属するから、鄒氏の意思を甲公司へ伝えた段階でこの権利は即時発効する、とする見方である。

もう一つは、鄒氏と甲公司との「競業秘密協議」は継続して履行すべきである、とする見方である。これは、本案件において、同協議には甲公司が鄒氏へ競業避止に対する経済補償金を「いつ」支払うかは明記されておらず、 法律上も離職後に労働者へ支払う競業避止に対する経済補償金を支払うべき具体的な時間について何ら規定されていない。また、甲公司が鄒氏へ競業避止に対する経済補償金を支払う前に、鄒氏は「競業秘密協議」の解除を申し出ていないことをその理由としている。

仲裁庭及び法院は最終的に後者の見方に立った。本案件を総合的に見ると、甲公司は每月5日に前月の賃金を支払う旨就業規則に定めているので、競業避止に対する経済補償金もまたこの規定に基づいて支払われるべき である。ゆえに、甲公司が2016年7月6日に支払った2016年4月、5月、6月分の競業避止に対する経済補償金について、2016年4月、5月分については給付遅滞と言えるけれども、2016年6月分については、そうであるとは言えない。鄒氏は2016年3月31日に離職し、当日中に双方間の秘密に関する手続きも済ませたとしているが、賃金の精算は2016年5月21日にようやく行われているし、甲公司が故意に賃金の精算を遅らせたとする十分な証拠も無い。従って、甲公司の行為は「労働争議案件審議の法適用に関する若干問題の解釈(四)」第8条の、「労働契約の解除または終了後使用者の責により三ヶ月経済補償が為されなかったときは、労働者は競業避止規定の解除を求めることができ、人民法院はこれを支持する」との規定に該当せず、鄒氏の「競業秘密協議」解除理由は成立しない事になる。

競業避止協議の解除は、協議解除と一方的解除に大別できる。協議解除は使用者と労働者の話し合いによる一致により協議を解除するものだが、一方的解除は更に使用者側による解除と、労働者側による解除とに分けられる。これについて、最高人民法院「労働争議案件審議の法適用に関する若干問題の解釈(四)」第9条には、「競業避止期間内に、使用者が競業避止協議の解除を求めたときは、人民法院はこれを支持する」とある。このことから、使用者側から一方的に協業忌避協議を解除されても、労働者側に競業避止協議の継続履行を求める権利は無いことがわかる。但しこの場合でも、労働者側は使用者へ3ヶ月分の競業避止に対する経済補償金の支払いを求めることができるのである。