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【判例】 離職手続きは使用者の法定義務に該当するか?(2018年10月30日)

案例:

曹氏は2017年6月23日にA社へ入社し、2017年7月1日から2019年6月30日までの労働契約を締結した。每月の賃金は総支給額11500元であった。

2018年4月29日、曹氏は「A社との労働契約には労働者保護条項や労働条件が約定されておらず、労働報酬が満額支払われていない。また、社会保険も納付していない。また、A社の規定制度は法律に反し、労働者の権益を損なうものだ」として、2018年4月30日をもってA社との労働関係を解除した。

2018年5月2日、曹氏はA社へ書簡を送り、離職票と労働手帳劳を着払いで指定の場所へ郵送するよう求めた。

2018年6月2日、曹氏はA社より交付された労働手帳を受け取った。さらに2018年7月30日には、A社より離職票が送られてきた。

その後曹氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社に対し退職手続きの遅延によって生じた経済的損失を賠償するよう求めた。

審議において、曹氏は「双方間の労働契約が2018年4月30日に解除された後、A社は遅滞なく離職票と労働手帳を送付しなかった。2018年5月中旬、曹氏は新たな事業単位へ入社しようとしたが、当該事業単位は入職手続きが取れないことを理由として、最終的に自身の採用を見送った。

当時、当該事業単位は月給18000元で曹氏を採用する旨口頭で約束したものであるから、A社はこれに対して損害賠償の責任を負うべきである」と主張した。

これに対しA社は、曹氏が会社へ赴いて離職手続きを求めていれば、会社側は退職手続きを行えたが、曹氏は離職手続きを求める通知を出しただけで会社へ来なかった。ゆえに離職手続きの遅滞の原因は曹氏にある、と反論した。

争点:

離職手続き遅延の責任は誰が負うべきか?

判決:

A社は、労働者の原因により適時離職手続きを行えなかったことを証明できなかった。退職手続きは使用単位の法定義務であり、A社はこれが遅延したことによって曹氏に生じた損失について賠償しなければならない。

曹氏が主張する(新しい事業単位で受け取れるはずだった)毎月18000元の賃金については、証拠が不足しており、当仲裁庭ではこれを採用しない。損失については、失業保険を基準として支払われるべきである。

労働契約は2018年4月30日に解除され、2018年7月30日に離職手続きが完了している。離職手続きの遅延によって被った損害の期間は2018年5月16日より2018年7月30日迄とするのが妥当である。

分析:

一、離職手続きは労働関係が解除された及び終了した際の使用単位の法定義務である。

使用単位は、労働契約の解除及び終了と同時にその証明書を労働者へ交付し、15日以内に労働者の個人資料及び社会保険の移管手続きを行わなければならない。これは使用単位の労働者に対する「契約(終了)後の義務」に属し、その内容には、労働契約の解除及び終了の証明書(労働契約の期間、労働契約が解除及び終了した日、勤務中の職位、当該使用単位での勤続年数を明記したもの)の発行、個人資料及び社会保険の移管手続き、経済補償金の支払い、労働契約元本の保存(2年間)等が含まれる。

本案件で、A社は曹氏に対し、通知を出す前に実際に会社へ足を運んで労働手帳と離職票を受け取るべきだと主張したが、離職手続きを行うのは使用単位の法定義務であるから、仮に労働者が受取を拒否したとしても、使用単位は郵送などの方法で労働者へ離職票と労働手帳を引き渡さなければならないのである。

但し、もし使用単位が積極的に離職手続きを行う義務を果たしたものの、労働者による原因で離職手続きが滞った場合は、これによる責任は労働者が負うことになる。

二、離職手続きの遅滞に対しては、損害賠償責任が発生する。

労働関係が解除もしくは終了した後、使用単位は適時労働者の離職手続きを行わなくてはならない。もし使用単位が適時離職手続きを行わず、これにより客観的に見て確実に労働者の再就職に一定の影響を及ぼしたときは、使用単位は労働者が実際に被った損害について賠償責任を負うことになる。(離職手続きの遅滞によって)労働者の失業保険受給手続きに影響が出たときは、使用者は(本来労働者が受給できるはずだった)失業保険の金額について賠償しなければならない。

労働者に他の損失(他の事業単位へ就職機会の喪失)があったときは、使用者は労働者の求めに応じて実際の損害を賠償しなければならないが、この場合、失業保険に関する損害賠償責任を重複して負う必要はない。この損失については、労働者と新たな使用単位とで締結した実際の労働契約などに依拠するが、労働者が実際に被った損害を十分に証明できないときは、使用単位は失業保険の賠償のみで事足りる。

本案件において、曹氏は退職手続きの遅滞によって新たな事業単位へ採用されなかったが、これによる実際の損失を十分に証明できなかったため、経済的損失は失業保険金のみ認められることとなってしまったのである。