ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】従業員が使用者に損失を与えた場合、使用者は賃金から全額を控除できるか?(2018年10月30日)

【判例】従業員が使用者に損失を与えた場合、使用者は賃金から全額を控除できるか?(2018年10月30日)

案例:

2015年1月、李氏は某機械設備会社へ入社し、3年間の労働契約を結んだ。契約には、「業務中の過失によって会社へ損害を与えたときは、法に基づき損害を賠償するものとし、賠償金を賃金から差し押さえる」と約定されていた。

2016年5月26日、李氏は労働争議仲裁を申し立て、会社側に対し未払いとなっている2016年4月の賃金9800元の支払いを求めた。

会社側はこれに対し、会社側と李氏は2016年4月初旬、李氏を会社の幹部としてアメリカで開かれる展覧会へ参加させるべく双方で話し合い、同意していた。李氏は会社側へパスポートなどの資料を提出し、会社側は越境手続及び航空チケットの購入などで22000元を支払った。しかし李氏は個人的な理由で展覧会へ参加せず、代わりの人員を送る羽目になり大きな経済的損失を被った。それゆえ、労働契約に基づき李氏の4月分の賃金を控除し損失分を差し押さえた、と反論した。

会社側はこれを証明するために、展覧会への参加にかかる明細と為替票を提出した。

争点

労働者が会社側へ与えた経済的損失について、会社側は賃金の全額を控除することができるか?

判決:

仲裁庭は会社側に対し、李氏へ2016年4月の賃金7840元(9800-9800×20%、賃金の8割)を支払うよう命じた。

解説:

労働者はその労働に対し、労働の対価たる報酬を受け取らなければならない。もし労働者が使用単位へ経済的損失を与えた場合、労働者はその責任を追わなければならないのか?

「賃金支払暫定規定」第十六条には、「労働者が労働者の責により使用単位へ経済的損失を与えたときは、使用単位は労働契約の約定に基づきその損失を賠償するよう求めることができる。 経済的損失は労働者本人の賃金より控除できる。但し、控除部分が月賃金の20%を越えてはならない。もし控除後の賃金が当地の月最低賃金基準を下回るときは、最低賃金を支払うものとする」とある。

仲裁委員会は、労働報酬は一般債権と異なり、労働者が合法的に労働報酬を得ることは不可侵の権利であるから、使用単位はその損失と労働報酬を自ら控除してはならない。使用単位の労働者に対する損害賠償請求権と同じように、労働法及び関連法規による権利もまた保護されるべきものなのである、との見方を示した。「賃金支払暫定規定」第十六条は、使用者による労働者の賃金からの控除を厳しく制限した条項となっている。

本案件において、李氏は個人的理由からアメリカでの展覧会参加を見送り、結果的に会社側へ損失を与えている。また、双方で約定した労働契約には、「業務上の過失によって会社へ損害を与えたときは、法に基づき損害を賠償するものとし、賠償金を賃金から控除する」とあるから、会社側は李氏の賃金からその損失分を控除することができる。

しかし、会社側が直接李氏の賃金9800元を全額控除することは、「賃金支払暫定規定」第十六条の「控除部分が月賃金の20%を越えてはならない」との条項に反するから、実際に控除があった場合は、この部分を返還しなければならない。

ゆえに仲裁庭は、双方による調停が不調に終わる中、労働者側の主張を支持し一部労働報酬の支払いを使用者に命じた上で、損失部分については法に基づき賃金から控除するよう使用者へ提起している。