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【判例】使用単位は、年休を手配しなかったことを理由とした離職した労働者に対しても経済補償金を支払わなければならないか?(2019年1月30日)

案例:

魯氏は2015年6月28日上海市内の某船舶会社へ入社し、アーク溶接工として働いていた。2018年6月9日、魯氏は会社側が2017年の年休を手配しないことを理由として書面により労働関係を解除する旨通知した。

その後、魯氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ経済補償金の支払いを求めた。

審議において申立人(魯氏)は、未消化年休にかかる賃金は労働報酬に属するから、「労働契約法」第三十八条に規定される労働報酬の未払いを理由とした労働契約の解除に該当する、と主張した。

これに対し被申立人(会社側)は、業務上の理由により魯氏へ2017年分の年休を手配しなかったのは確かだが、法で定められた未消化年休に対して支払われるべき賃金を支払う意思はあり、また未消化年休にかかる賃金は福利待遇であり労働報酬ではない。被申立人による原因で労働者へ年休を手配できない場合に、申立人によって賃金による代替払いを求められて初めて権利が発生するものである。

本案件では申立人の申し出により双方の労働契約が解除されているが、「労働契約法」第三十八条に規定されている賃金の未払いに該当しないから、経済補償金を支払う必要は無い、と反論した。

分析:

年次有給休暇は申立人の享受すべき休息にかかる権利であるが、被申立人の言う未消化年休に対して支払われる賃金は、労働者に対して支払われる労働後の労働報酬とは一線を画すと言わなければならない。

ゆえに本案件は、一方的に労働契約を解除した労働者が、使用単位へ経済補償金の支払いを求め得る状況に該当しない。

使用単位が経済補償金を支払うべき状況は、労働契約法において明確に規定されており、これに符号する場合にのみ、使用単位に経済補償金の支払義務が生じる。

この規定があるのは「労働契約法」第四十六条であり、労働紛争において、労働者が経済補償金の支払いを求めるときはこの条文を法的根拠とする必要がある。

本案件においては、労働者の申し出により双方の労働契約が解除された。労働者からの一方的な労働契約解除の場合、経済補償金の支払要件を満たすことはない。これが認められるのは、労働契約の予告解除もしくは即時解除解雇の場合のみである。

労働契約の即時解除権は労働者が無条件かつ一方的に労働契約を解除できる権利である。これは具体的に言うと、労働契約が有効に成立した後、その履行が完了する前に法で定めた事由が発生したときは、労働者は予告なく使用単位との労働契約を解除できる権利であり、労働契約の効力や労働関係の存続、労使双方の合法的権利の保護に直接関与するものである。

「労働契約法」第四十六条では、労働者が同第三十八条により使用者に対し労働契約の即時解除権を行使したときは、使用単位に対し経済補償金を請求することができる、とされている。すなわち、以下の二点を満たす必要がある。

一、労働者が「労働契約法」第三十八条に規定する理由により使用単位との労働契約を解除し、かつその理由を使用単位へ告知していること。

二、使用単位に瑕疵があり、労働者に「労働契約法」第三十八条に該当する状況が確実に存在すること。なお、予告解除とは、労働者が正当な手続きを取った後使用単位との労働契約を解除することを言う。

「労働契約法」第三十七条には、労働者は30日前までに(試用期間の場合は3日前までに)使用者へ書面により通知することで、労働契約を解除できるとある。この(労働契約法第三十八条によらない)場合、労働者は法定事由を告げることなく、ただ使用単位への予告義務を果たすだけで労働契約を解除でき、また使用単位が経済補償金を支払う必要も無いのである。

労働報酬とは、使用単位が労働契約に基づきあらゆる方法で労働者へ給付する労働の対価を言う。使用単位は(使用単位の原因により労働が年休を取得できなかった場合)労働者へ年休未消化分の賃金を支払わなければならないが、この賃金は労働による労働報酬とは別の、労働者の休息する権利を体現したものである。未消化分の年休にかかる賃金、すなわち200%の賃金は、労働者が休息する権利を行使できなかった場合の経済補償であり、労働者固有の労働報酬ではないから、年休の手配が無かったことを理由として離職した本案件の申立人は、「労働契約法」第三十八条の規定には該当しないという事になる。