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【判例】招聘公告は賃金提示の根拠となるか?(2019年3月29日)

案例:

某県xx局は2016年3月、政務公開Webサイト上にて、求人と雇用内容に関する公告を掲載した。その内容は、(1)雇用:被雇用者が公示に異議がないときは、これを正式雇用する。試用期間は3ヶ月とし、試用期間に合格した者については、正式に採用手続きを取り、労働契約を交わす。試用期間に不合格となった者については、雇用関係を解除する。(2)待遇:被雇用者は事業単位における編成外の扱いとなり、使用単位と被雇用者が契約を締結して後、雇用契約を基に管理を行う。試用期間中の賃金は3000元/月だが、正式採用後は当該使用単位の正規従業員と同等の条件となり、正規従業員の賃金+2倍の業績給の他に、業績考課の上「五険一金」への加入及び正規従業員と同等の休暇、賞与の支払いを行う、というものであった。

鄭氏は2016年6月8日にこのxx局に雇用されたが、双方間ではまだ労働契約を締結していなかった。3ヶ月間の試用期間を経て、xx局は鄭氏の採用を見送り試用期間を2ヶ月延長する旨鄭氏へ提案し話し合いの場を持ったが、その際鄭氏は特に異議を唱えなかった。しかし、この2ヶ月間の試用期間が過ぎた後も、xx局は鄭氏と労働契約を交わすことは無かった。

2017年6月30日、xx局は鄭氏と再び話し合い、鄭氏が職責に堪えないことを理由として鄭氏に離職するよう求め、鄭氏はその日のうちに離職手続きを行い、職場を離れた。鄭氏はxx局で勤務している間、毎月3000元の賃金を受け取っていた。2017年8月、鄭氏は当地の労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、2016年9月から離職に至る間の賃金についてxx局へ公告の内容と同一の条件、すなわち正規従業員の賃金+2倍の業績給との差額を支払い、更にxx局が労働契約を締結しなかったことを理由として正式採用後の賃金を基準として2倍の賃金の支払うよう求めた。

争点:

賃金額について、招聘公告の掲載内容はその根拠となるか?

判決:

仲裁庭は審理の結果、「試用期間については双方間で新たな合意が成されている。この『試用期間』の約定は確かに法規範に反するものであるが、そのことはこの合意そのものに対し法的効力に影響を及ぼすものではない。しかし、xx局と鄭氏は新たな合意に至った後書面による労働契約を締結しておらず、またその他の有効な約定をしていないことから、3ヶ月間の試用期間後の待遇は実際に履行された事実上の契約を根拠とすべきである。鄭氏はxx局で勤務する間、書面による労働契約を締結していないが、事実上の労働関係があったと認められる。鄭氏は書面による労働契約の締結が無いまま、特段の異議もなく13ヶ月もの長期に渡りxx局にて3000元/月の賃金で勤務していたことから、双方間に3000元/月の労働報酬を支払う旨の事実上の契約があったものと認められる。ゆえに仲裁庭は鄭氏の主張する招聘公告に基づく賃金との差額分の支払いを棄却し、月給3000元を基準とした労働契約未締結に対する賃金2倍払いの申し立てのみを認める」との判断を下した。

分析:

「労働契約法」によれば、使用単位が労働者と有効な労働契約を締結していない、労働契約外に試用期間を約定する、連続して2度以上試用期間を約定する、これらの行為は全て違法であり、法的責任を負うこととなるが、本文は一部内容が不明瞭であるため、ここでは招聘公告の内容を根拠として賃金について主張できるか否かという点について分析を行う。

使用単位が公に発表している招聘公告は、労働条件の一方的提示であり先行的契約行為であると見ることができるが、使用単位と労働者に新たな合意が成されたとき、この労働条件の一方的提示及び先行的契約行為は効力を失う。通常であれば、書面により締結された労働契約は使用単位と労働者との間に成された新たな合意であるから、招聘公告が労働契約の構成要素となることはない。すなわち、書面による労働契約と招聘公告に約定された事項(賃金や勤務場所、職位、勤務条件などを含むがこの限りではない)に違いがあっても、使用単位が法的責任を負うことは無いのである。これに反して、もし使用単位が法に基づかず労働者と書面による労働契約を締結していなければ、労働契約未締結による2倍賃金の支払いという法的責任を負うだけでなく、労働契約未締結という過失によって生じる様々なリスクを負うこととなるだろう。