ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】妊娠中の女性従業員の賃金調整には話し合いによる合意が必要か?(2019年4月29日)

【判例】妊娠中の女性従業員の賃金調整には話し合いによる合意が必要か?(2019年4月29日)

案例:

2010年、李氏は明欣公司へ入社し、労働契約を締結した。2014年1月1日、明欣公司(甲方)と李氏(乙方)は期間の定めのない労働契約を締結し、李氏は財務主管職を担当することとなった。労働契約の第二条第三項には、「甲方は、生産及び業務による必要が生じたときは、乙方の専門性、特長、業務能力及びパフォーマンスに基づきその勤務場所、職位、賃金を調整する。勤務場所及び職位の変更は原則として協商による合意に基づく。但し以下の場合は、この限りではない。……(四)乙方の同意:乙方が甲方での業務期間中に甲方の主管及びそれ以上の管理職または専門職に就いたときは、これを任期制とする。その職位の任期が満了したとき、または甲方がその制度に基づき職位資格を調整するときは、甲方は乙方の職位または賃金を調整し、労働契約に約定された賃金についても会社の賃金制度に合わせて執行する」と定めてあった。

2014年11月26日、明欣公司は「公司管理職位岗位选聘規則」に「部門経理クラスについては原則的に2年に1度選抜を行い、科室及び現場の主任クラスについては1年に一度選抜を行う」との規定を追加し、2014年11月27日より選抜を開始した。2014年12月15日明欣公司は通知を出し、李氏は財務部总账科科長となったが、この通知に任期は記載されていなかった。2015年1月より李氏の賃金は15280元/月に調整された。

2015年9月24日、李氏は2015年9月25日から2016年3月16日までの産休を取った。2015年11月25日、明欣公司は職位選抜を行い、李氏もエントリーしたが、李氏の個人的理由により選抜演説会に参加できなかった。2015年12月1日、明欣公司は職位責任者任命通知を出し、李氏は財務部総帳科科長に留任できなかった。これにより、李氏の賃金は2016年1月より9300元/月となり、職位も会計係となった。

これについて李氏は、会社側の賃金及び職位の調整は本人の同意を得たものではないとして、労働契約の解除と経済補償金の支払いを求めたが、会社側がこれに同意しなかったため、李氏は仲裁庭に提訴した。

判决:

仲裁庭は、明欣公司が李氏へ経済補償金を支払うべきか否かを問題点とした。

「労働契約では李氏を財務主管とすると約定しているが、同時に『従業員が在職期間中に主管以上の管理者及び専門職に就くときは、その任期は社内の規定制度に基づいて執行され、任期が満了するとき又は甲方が規定制度に基づき職位資格を調整するときは、従業員の職位及び賃金を調整することができる』と定めている。李氏は2014年11月に財務部総帳科科長に選抜され、賃金も相応に上がったが、2015年末に李氏は選抜に漏れ、職位も科長から会計係へと調整された。このことは双方で約定した労働契約の約定に符合しており、また調整後の職位も元の職位と同じ会計職であるから、明欣公司の李氏に対する職位調整は合理性がありかつ法律の規定に反しておらず、同社は自主管理権を行使しただけであると言える。しかし『女性従業員労働保護特别規定』第五条に『使用単位は女性従業員の妊娠、出産、哺乳を理由としてその賃金を引き下げてはならない……』とあり、また『四川省人口与計算生育(※計画出産)条例』(第六次修正)第二十六条には『……産休及び産後休は出勤とみなし、賃金及び福利待遇は変わらない』と規定されているから、明欣公司が李氏の産休期間中にその賃金を引き下げたのは上述の法律法規違反と言え、またこれを理由として李氏が労働契約の解除を申し出たことは法規定に符合しているから、明欣公司は李氏へ経済補償金を支払い、産休期間の待遇と元の待遇の差額の賃金を支払わなければならない」との判断を下した。

分析:

一、使用単位は、「三期」の女性従業員との労働契約を随意に解除してはならない。

(一)「三期」の女性従業員には解雇制限がある。

女性従業員が妊娠期、出産期、哺乳期にあるときは、使用単位は一方的に労働契約を解除することはできない。これは主に「労働契約法」第四十、四十一条の規定を制限するもので、全てのケースにおいて一方的な労働契約解除が許されないとするものではない。すなわち、当該女性従業員に過失がない状況にあって使用単位がリストラを実施する場合などは、使用単位は当該女性従業員との労働契約を一方的に解除することができない。これに反すれば違法な労働契約解除とみなされ、女性従業員より労働契約の継続履行及び損害賠償の請求を受けることとなる。但し、使用単位と「三期」の女性従業員の話し合いにより労働契約を解除したとき、または女性従業員が自ら労働契約を解除したときは、この規定は適用されない。

(二)「三期」の女性従業員であっても、「労働契約法」第三十九条に該当するときは、一方的な労働契約解除が可能である。

使用単位による労働者の自主使用権を保護し、また労働者による解雇制限の濫用を防止し、使用単位と女性従業員の利益関係を均衡させるため、労働契約法では全ての状況下で「三期」にある女性従業員への一方的な労働契約解除を認めていない訳ではない。「労働契約法」第四十二条は「三期」の女性従業員を除いているから、使用単位は「労働契約法」第四十一、四十二条の規定に基づく「三期」の女性従業員との労働契約解除は許されないが、「労働契約法」第三十九条に基づく場合、すなわち「三期」にある女性従業員が重大な規定制度違反を犯したときや、私利をむさぼり使用単位へ重大な損失を与えたときは、使用者は当該女性従業員との労働契約を一方的に解除できる。

労働部辯公庁は、「『外商投資企業における妊娠期、出産期、哺乳期にある女職工との労働契約の終了及び解除』に対する上海市労働局への復函」の中で、国務院「女職工労働保護規定」第四条には「妊娠期、出産期、哺乳期にある女職工との労働契約を解除してはならない」という意図が含まれており、これが妊娠した女性自身の権益及び胎児または嬰児の発育を保護するものであることを明確にしている。但し、企業は女性従業員の妊娠、出産、哺乳を理由として労働契約を解除してはならないが、紀律違反を犯した「三期」の女性従業員について関連規定及び労働契約に基づき解雇するときは、これを解雇できる、としている。これは、使用単位には労働契約解除権を行使する権利があることから、「三期」の女性従業員についても使用単位の規定制度を厳格に遵守させ、使用単位の利益を保護することを表明したものである。但し注意しなければならないのは、最高人民法院「労働争議案件審理における法適用に関する若干問題の解釈」第十三条規定により、使用単位は当該女性従業員が「労働契約法」第三十九条に定める法定事由について立証責任を負うという点である。

(三)「三期」の女性従業員との労働関係が事実上継続している期間は、労働契約を解除することはできない。

女性従業員と使用単位の間に事実上の労働関係があるときは、女性従業員の妊娠期、出産期、哺乳期における待遇について労働法または関連法律法規の特別保護規定が適用される。すなわち労働関係が事実上継続している期間、「労働契約法」第三十九条に該当する場合を除き、使用単位は「三期」にある女性従業員との労働契約を解除することはできない。なお、「三期」を過ぎた女性従業員に対しては、規定に基づいた労働契約の解除が可能となる。

(四)使用単位による女性従業員への違法な労働契約解除には、法的責任が伴う。

使用単位が労働法に反し「三期」の女性従業員との労働契約を解除したときは、違法な労働契約解除とされる。この場合、女性従業員は使用単位へ労働契約の継続履行を求めることが出来る。もし女性従業員が労働契約の継続を求めないとき、または労働契約の継続履行ができないときは、使用単位は「労働契約法」第八十七条に定める二倍の経済補償金及びその他の損失について賠償する責任を負うことになる。

二、使用単位は、「三期」の女性従業員との労働契約を随意に変更してはならない

女性の労働者は、生理的観点から「三期」後に労働契約履行能力において一定の影響が出る可能性があり、特に職位に対する要求については変化する可能性が高い。ゆえに、「三期」の女性従業員については、労働契約中の客観的に見て変更し得る部分において使用単位との協商による合意により合法的に労働契約を変更することが許されている。但し、どちらか一方による一方的な労働契約の変更は無効となる。

実際にこの規則を適用するに当たっては、以下の点に注意が必要である。

(一)使用単位は必ず女性従業員との協商による一致を見て、労働契約を変更しなければならない。

協商による一致とは、労働契約の内容、約款について、法律法規の許容する範囲内で双方の当事者同士が話し合い、意思表示の完全一致を見ることである。協商による一致は、当事者双方が共同で話し合いある意見について一致した、または当事者の一方が労働契約の変更意見を提示しもう一方が合意したと見ることができ、同様に労働契約変更の効力が生じる。

(二)労働契約変更の法的効力を発効させるには、必ず書面による形式を採らなければならない。

「労働契約法」第三十五条によれば、労働契約の変更は書面によって成されなければならない。労働契約の変更は元の労働契約を下敷きに、賃金や職位など労働者の利益に密接な事柄について、新たに労働契約の内容を变更するものであるから、変更に際して書面による形式を採らなければ、当事者双方の権利義務関係が不明瞭な状態となりやすい。ゆえに、書面によらない労働契約の変更は、労働契約の変更が成されていないと見なされ、争議の際には元の労働契約を見て各々の権利義務を判断することとなる。

(三)女性従業員の妊娠、出産及び哺乳は労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化があったとされない。

実務において、一部使用単位は、女性従業員が妊娠、出産、哺乳により労働契約を履行できなくなったことを理由として、女性従業員の「三期」は労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化が生じたと主張し、労働契約の変更を迫ったり労働契約を解除している。しかし、労働部「『中華人民共和国労働法』貫徹執行における若干問題に関する意見」第二十六条では、「客観的状況」の解釈について、女性従業員の妊娠、出産及び育児は労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化があったとされないとの見解を示していることから、使用単位はこれを理由として女性従業員との労働契約を変更することができない、というのが我々の見解である。

(四)使用単位の規定制度は労働契約変更の根拠となり得るか

使用単位の規定制度には、一般的に「三期」にある女性従業員への特別な労働保護に関する内容が含まれている。使用単位の規定制度は法に定める労働契約の附則であるから、労働関係の確定や双方間の労働における権利義務に重要な影響を及ぼし、女性従業員の切実な利益に直接的に干渉するものである。ゆえに、使用単位の規定制度は当然に労働契約変更の根拠とならず、協商一致の原則をもって初めて労働契約変更の効力が発生するのである。但し、女性従業員が規定制度を理解した上で署名しているか、使用単位が規定制度をもとに女性従業員へ労働契約の変更を提示し合意したときは、労働契約の変更が可能である。

(五)労働契約の変更において協商による一致が見られなかったときの法的効果

使用単位と女性従業員が、労働契約の変更について協商によっても合意に達しなかったときは、元の労働契約を継続的に履行することになるのか?それとも労働契約は解除されてしまうのか?ある裁判官は、「労働契約法」第四十条第三項の趣旨は労働契約解除の法的効果であるから、当事者双方の協商によって一致が見られなかったときは、労働契約を解除するしかない、との見方を示している。

しかし我々は、使用単位と女性従業員の協商が不調に終ったとしても、労働契約は解除されず元の労働契約が継続履行されるという見方に立つ。その理由は、

(1)使用単位は、法に定める理由がない限り「三期」にある女性従業員との労働契約を解除できない。

(2)女性従業員の妊娠、出産及び哺乳は労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化があったとは言えない。

ゆえに「労働契約法」第四十条第3項の適用余地は無いのである。