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【判例】労災の発生により労働契約を締結できなかった場合でも、労働者は賃金の二倍払いを求めることができるか? (2019年12月27日)

案例

李氏は2018年6月4日にA社へ入社し、賃金額は双方間で4500元/月と約定していたが、労働契約は締結しておらず、また社会保険費用も納付していなかった。

同年6月12日、李氏は業務中に負傷し、労災を申請した。李氏は負傷をした後、治療に専念し休暇を取っていた。

2018年7月23日、李氏は労災を認められ、2019年3月29日に障害8級との判定を受けた。その後も李氏は出勤せず、また休暇手続きも取らなかった。

李氏は2019年5月4日、A社より双方間の労働関係を解除する旨の通知を受けたため、労働争議仲裁を申し立て、会社側へ2018年7月4日から2019年5月4日までの労働契約未締結期間について賃金の二倍を支払うこと、労災時と同じ待遇を受けさせることを求めた。

これに対してA社は、李氏へ労災時と同じ待遇を受けさせることには同意したものの、賃金の二倍払いについては異議を唱えた。A社は、「李氏は入社後わずか一週間で負傷した。会社側としてはこれから労働契約を締結しようとしていたところだったが、李氏はその後入院し治療を行っていた(ために労働契約を締結できなかった)。従って双方間で労働契約が締結されていない原因は、会社側に起因するものではない」と反論し、仲裁庭へ李氏の賃金二倍請求を破棄するよう求めた。

争点

李氏が主張している「労働契約未締結による賃金の二倍払い」は認められるか?

判決

双方間の調停は不成立に終わり、仲裁庭は李氏の訴えを退ける判決を下した。

分析

本案件には、以下2つの観点が存在する。

一つは、会社側は李氏の使用を開始した日から起算して一ヶ月以内に書面による労働契約を締結しなければならず、「労働契約法」第八十二条には「一ヶ月以上一年未満の期間労働契約を締結しなかったときは、使用単位は労働者に対し当該期間について賃金の2倍の金額を支払わなければならない」と規定されている。李氏が労災に遭った後も双方間の労働関係は存続しているから、会社側は李氏と労働契約を締結していないと言える。ゆえに会社側は李氏へ二倍の賃金を支払わなければならない、とする見方である。

もう一つは、会社側は李氏の使用を開始した日から一ヶ月以内に書面による労働契約を締結しなければならないが、その間に李氏が負傷し、その後も会社に戻らなかったから、会社側の労働契約締結義務と実際の手続きは客観的要因により中断されていると見るべきであり、これは労働契約未締結による賃金の二倍払いのケースに該当しない。ゆえに、李氏の主張は法的根拠に欠け、棄却されるべきであるとするものである。

仲裁委は最終的に後者を採用した。この判断は条文の杓子定規な運用を防ぐものであり、本案件の特殊性に鑑みても、「労働契約法」の立法趣旨に合致するものである。

「労働法」や「労働契約法」で「労働関係が成立したときは労働契約を締結しなければならない」とするのは、労働者の権益を保障し労使双方の権利義務を規範化するためであるのが、その理由である。

「労働契約法」第十条第二項ではさらに踏み込んで、「既に労働関係があり、書面による労働契約が締結されていないときは、当該労働者の使用を開始した日から一ヶ月以内に書面による労働契約を締結しなければならない」と規定されている。

上述の規定では、労使のどちらが書面による労働契約締結の義務を負うか記載されていないが、実際の労働契約未締結紛争の解決に当たり、司法は労働者側が書面による労働契約締結を拒まない限り、使用者側に書面による労働契約締結義務があるとしている。そのため、「労働契約法」第八十二条第一項に使用単位に対する「賃金の二倍払い」という罰則が設けられているのである。 書面による労働契約が締結されていない場合、労働者側は大抵賃金の二倍払いを求めるが、これは労働者が正常に職務を全うしている場合の話である。本案件が特殊なのは、李氏が主張する労働契約未締結の期間、李氏は正常な労働を提供していない点である。

まず、労使双方の労働関係が確立されたのは2018年6月4日であるから、会社側は同年7月4日までに李氏と労働契約を締結すれば何ら違法ではなかった。しかし李氏は6月12日に負傷し、正常な労働を提供できなくなったため、会社側の労働契約締結義務は李氏が健康を回復し出勤するまで中断されることとなったのである。

次に、李氏が負傷して休暇を取っている間も、賃金及び福利待遇は変わらず、賃金も有給休職期間(停工留薪期)と同様に支払われていたため、これをもって賃金二倍払いの根拠とすることはできない。

最後に、李氏は労災等級認定から労働関係解除までの間出勤せず、また休暇手続きも取っていない。このような状況下にあるとき、会社側は有給休職待遇を取り消すことができたのである。李氏は障碍及び労災保険を受ければ良く、そもそも賃金が存在していないため、賃金の二倍払いという話にはなり得ないのである。

これらのことから、李氏の主張する労働契約未締結による賃金の二倍払いは法的根拠及び事実からの根拠を欠くとして、棄却されたのである。