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【判例】勤務場所についての定めがあいまいな労働契約は有効とみなされるか?(2020年08月28日)

案例:

2014年11月23日、A社は顧氏と2014年11月23日から2017年11月23日までの労働契約を締結した。労使双方は顧氏の職位を補助的職務とし、勤務場所については「A社の所在地、A社またはSグループが投資する企業の所在地、A社またはSグループが投資する企業のプロジェクトの所在地」と定めており、顧氏もまたA社またはSグループが必要に応じて職位、勤務場所、賃金を調整することに同意していた。

また顧氏は、労働契約中の「労働契約及び社内規定制度を十分理解し、確認しました」欄に署名していた。この「労働契約」第十一条第六項には、「顧氏が休暇取得手続き及び労働契約の解除(または終了)手続きを行わず5営業日連続で無断欠勤したときは、労働契約の重大な紀律違反として双方間の労働契約を解除し、A社は経済補償金を支払わず、またA社は顧氏がA社に与えた一切の損失について責任を追究する権利を有するものとする」とあった。

労働争議が発生したとき、顧氏は長沙市で勤務していた。2016年7月24日,A社は顧氏の勤務場所を長沙市から岳陽市へ変更することを決定したが、顧氏氏はこれに同意しなかった。

2016年8月4日、A社は「顧氏同志の処分決定通知」を発した。A社はこの中で「……顧氏は労働紀律を無視し、日常業務における業務按配に従わず、勤務態度も消極的かつ怠惰であり、何度も職場離脱するなど紀律違反行為があった。これについて幾度も懲戒を行ったが改善が見込めないため、顧氏を解雇処分とする」としていた。

2016年9月24日、A社は顧氏へ2016年8月9日付の離職証明書を発送した。その後顧氏はA社に対し、違法な労働契約解除を理由として労働仲裁を申し立て、违法解除为由申请劳动仲裁,仲裁庭はA社に対し顧氏へ違法な労働契約解除についての損害賠償金10500元を支払うよう命じたが、顧氏のその他の請求は棄却した。

争点:

本案件の争点は以下の三つである:

一、A社と顧氏との労働契約には勤務場所の規定が広範囲に及んでいるが、この規定は違法となるか?

二、A社と顧氏が締結した労働契約には、「顧氏の勤務場所はA社の所在地、A社またはSグループが投資する企業の所在地、A社またはSグループが投資する企業のプロジェクトの所在地とする。A社またはSグループは必要に応じて顧氏の職位、勤務場所、賃金基準を調整する」とある。この約定によれば明らかにA社が一方的に職位や勤務場所、賃金基準を決定することができることになるが、このような約定は有効か?

三、A社の顧氏に対する一方的な解雇は、違法な労働契約解除となるか?

判決:

一審は、「A社と顧氏の労働契約における勤務場所の規定は広範囲に及び過ぎており、法律の規定に合致しない。顧氏は入社後ずっと長沙市に勤務しており、A社が顧氏の勤務地を岳陽市へ変更したことは、重大な労働契約の変更となるから、労使双方の話し合いによる一致が必要である。A社が顧氏の同意を得られない現状において、重大な紀律違反を理由として顧氏を解雇したことは労働契約上の根拠を欠き、違法な労働契約解除に該当するから、法に基づき11220元(2805元/月×2か月×2倍)の損害賠償金を支払わなければならない」との判断を下した。

二審は、「A社の勤務地変更に同意していない顧氏が、勤務したこともない新しい勤務地へ配置転換させられた事実は、労働契約の締結時から見て客観的に見て重大な変化があったと見なすことができ、これにより顧氏は労働契約を履行できなかった。ゆえにA社の顧氏に対する解雇は違法な労働契約解除とは言えないが、顧氏へ経済補償金5610元(2805元/月×2か月)を支払わなければならない」と結論づけた。

これはA社の一方的な職位、勤務場所及び賃金基準の変更をあらかじめ約定するものであり、「中華人民共和国労働契約法」第三十五条の規定「使用者及び労働者は協議による合意のうえで労働契約の約定内容を変更することができる。労働契約を変更する場合は、書面による形式を採用しなければならない。」に反し無効である。

Sグループの投資プロジェクトの所在地は全国各地に及んでいるが、違う都市での勤務について労使双方間に同意があったかは不明瞭である。またA社が最初に按配した顧氏の職位は長沙市のプロジェクト上のものであるから、A社と顧氏双方の話し合いによる意見の一致が見られない状況下での一方的な労働契約解除は違法であり、損害賠償金を支払わなければならない」とした。

分析:

本案件は使用単位の一方的な労働者の職位変更が引き起こした労働争議案件である。私達は、実務において使用単位が労働者の勤務場所を明確に定めていない場合は、以下のように処理を行うことを提起する。

一、使用単位と労働者による勤務場所の約定が不明瞭であるときの処理

勤務場所は労働契約において必須の要素である。実務において、使用単位は往々にして経営戦略や人事調整、コスト削減、人員整理などにより、あらゆる方法で労働者の勤務場所の調整という問題について主導権を握り、また勤務場所の変更を強行しがちである。これは労働者に言わせれば、些細な勤務場所の変更であれば影響も少ないが、もし遠い場所や違う都市への勤務地変更となると家庭や生活、生活コストにたいへん大きな影響が出るため、必然的に易易と勤務場所の変更を受け入れることはできない、ということになる。

この問題については労使双方間で労働争議が起きやすいため、仕様単位と労働者は勤務場所について明確に定めるべきであり、あいまいにすべきではない。勤務場所は例えば「北京市」「貴陽市」など広範囲ではなく、もっと具体的に区まで定めるべきである。勤務場所が「北京市」「貴陽市」だというだけでは、労働者の勤務場所を変更する正当な理由とならない。さもなくば、勤務場所の約定が不明瞭であるとみなされることとなる。なお、双方で約定した勤務場所が不明瞭なまま労働者が労働契約を締結し、実際にある地点で勤務したときは、その勤務場所については双方の同意があったものとみなされる。

しかし注意しなければならないのは、使用単位が勤務場所を移転した場合である。元の勤務場所Aから近所のBに移転し、合理的な業務按配ができるときは、労働者は使用単位との協議していないことを理由として新しい勤務場所での勤務を拒否することはできない。もし拒否した場合は、重大な紀律違反として解雇される可能性がある。そうなれば当然、経済補償金も支払われない。

総じて、使用者が労使双方で勤務場所を約定するときは、勤務場所を明確にするとともに、複数の勤務場所で兼務しなければならない特殊な事情があるときは、その具体的な内容に鑑み労働者へ合理的な勤務場所を按配し、労働の持続性と労働者の利益の最大化を確保することで、良好な社会秩序を形成しなければならないと言える。

二、使用単位と労働者が勤務場所を約定していない場合の処理

使用単位には、労働者と労働関係を締結する際、勤務場所の固定化を避け、勤務場所を随意に調整するまえに、勤務場所を約定しないケースが見られることがある。このとき使用単位側は、約定のない方が労働者の勤務場所の調整に便利だから、労働者との話し合いは必要ないと認識しているが、当然これは誤りである。

勤務場所は労働契約締結における絶対的記載事項であるから、もし勤務場所について規定しなかったときは、使用単位は「労働契約法」第八十一条「使用者が提供する労働契約文書に本法で規定されている労働契約の必須条項が記載されていない、又は使用者が労働契約文書を労働者に交付していない場合、労働行政部門がその是正を命じる。労働者に損害をもたらした場合、賠償責任を負わなければならない。」に基づき法的責任を負うことになる。また労使双方が実際に履行している勤務場所は固定された(定められた)勤務場所とみなされるため、使用単位は労働者の同意なくして異動させることはできない。

三、約定した勤務場所と実際の勤務場所が異なる場合の処理

実務においては、労使双方で合意した労働契約では勤務場所をA地点と定めていたけれども、労使双方の話し合いによって労働者はB地点で勤務しており、その後使用単位が労働者をA地点に呼び戻したために、労働者の勤務場所が自宅から遠く離れてしまい、労働者の家族生活やコスト面に重大な影響を与えてしまったといったケースがよく見られる。このケースにおいては、実際の勤務場所と契約上の勤務場所が異なるという問題を解決したばかりに、却って労働者が重大な不利益を被るという矛盾が生じている。

この問題の妥当な解決方法として私達は、使用単位は合法的かつ合理的に労働者の勤務場所に関する権利を確保しつつ、労働者の実態を考慮した上で、「労働契約法」第四十条:下記の状況のいずれかがある場合、使用者は 30 日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し 1 ヶ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができる。……

(三)労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合」の規定に基づいて解決すべきであると考える。双方が客観的に見て労働契約を履行できなくなったときは、「状況の変化」を理由として、経済補償金を支払い、労働契約を解除するのである。

総じて、使用単位が労働者の勤務場所を調整する際には、必ず労働者の利便性と利益を考慮しなければならない。使用者が労働者に与える影響が軽微であったり、合理的で妥当な調整であったならば、労働者もこれに対して理解を示すだろう。労使双方がコミュニケーションを保ち、合法的かつ合理的な範囲内で適切な調整と譲歩を行うべきである。