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【判例】病気休暇申請における「プライバシー保護」と「知る権利」はどのように関係するか?(2020年12月31日)

●案例①

戴氏は2015年3月2日某社へ入社し、業務開拓経理の職に就いていた。

戴氏は2019年8月27日、病気休暇の取得を理由として出勤せず、Eメールにて病気休暇を申請した。この2019年8月27日のメールを受けて、会社側はその日のうちに当日の休暇願と病気休暇願、医療機関による診療記録を提出するよう返信した。会社側はその後もEメールや書面で病気休暇願及び診療記録を提出するよう求め、一定期間を過ぎて返送が無かった場合無断欠勤として処分すると通告したが返信がなく、会社側はついに2019年9月5日と9月17日の2回に渡り無断欠勤を警告した。

2019年10月7日、戴氏はEメールにて「病院の診療記録は病院側が記録し保管するものであり、プライバシー保護の観点から郵送での発送は難しいため、病気の回復後に原本を渡したい」と会社側へ返信した。これを受けて会社側の責任者は翌日「プライバシーの件は了解した。他言無用とするので今週金曜日までに診療記録をスキャンして直接会社側まで送付して欲しい。私は会社側の責任者としてプライバシーの権利については熟知しているし、機密情報は保護する」旨を返信した。しかしその後も書類は提出されず、2019年10月9日、会社側は2019年9月12日から2019年9月30日までの病気休暇について、その証明がないことを理由に戴氏へ再度無断欠勤に対する警告を発した。

2019年10月18日、会社側は戴氏に対し重大な紀律違反を理由として労働契約を解除すると通告した。戴氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ違法な労働契約解除を理由として損害賠償を請求したが、棄却された。戴氏は更に法院へ提訴したが、法院は2020年6月4日、戴氏の訴えを退けた。

●案例②

李氏は2016年5月より耐宝公司の生産責任者を任されていた。会社側の「就業規則」には、「従業員が病気休暇を申請するときは、休暇取得手続きを取った上で、復職の日に病気休暇の証明書、カルテ、患者番号及び医薬品の領収書等を会社側へ提出しなければならない。もし提出が無かったときは、これを無断欠勤とみなす」とあった。2016年11月17日、李氏が心療内科で診察を受けたところ、病院側は重度の統合失調症との診断を下し、2016年11月17日より2017年1月17日までの診断書を発行した。李氏はその後休暇に入った。

2017年1月5日、会社側は李氏に対し「療養期間満了通知書」を送付した。そこには、「李氏の療養期間は2017年1月7日に終了しますので、1月9日より通常通り出勤し、2016年11月17日からの診療記録及び病気休暇を証明する書類の原本を提出してください」とあったため、李氏は1月8日、会社側へ診断書の原本などの書類を郵送した。

ところが会社側は1月17日、李氏が送付した病気休暇を証明する資料が会社側の求めるものではなく、会社側の規定制度に反するとして、李氏に対し「労働契約解除通知書」を発し、李氏との労働契約を解除した。これについて会社側は、「当該心療内科へ李氏の病歴の病歴を問い合わせたところ、病院側は、確かに病歴に関する資料をコピーし李氏へ手渡したと言った。しかし李氏は病歴の提出を拒んだことから、李氏の病状及び診断書の信憑性に疑いが生じた」と主張した。

李氏は2017年2月17日に労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ違法な労働契約解除に対する損害賠償金と医療補助金の支払いを求めたところ、請求は認められた。会社側はこれを不服として法院へ提訴し二審まで争ったが、結果は覆らなかった。

●分析:

プライバシーの権利とは、自然人が享受できる、個人的かつ公共の利益と関係のない個人的な情報、私人としての活動及び私的領域を支配するための一種の人格権である。即将在2021年1月1日に発効する「民法典」第1032条に、自然人が享受できるプライバシーの権利が定められている。いかなる組織及び個人でも、プライバシーを探り、踏み入り、漏洩し、公開するなどの方法で他人のプライバシーを侵害することは許されない。プライバシーとは、自然人の私的な生活の安息と、自然人が他人に知られたくない私的な空間、活動、情報のことを指す。

一方「労働契約法」は、使用単位へ明確に「知る権利」を付与しており、「労働契約法」第8条には「使用単位は労働者との労働契約に直接関係する基本的事項を知る権利を有し、労働者はこれを説明しなければならない」と記されている。しかしながら、いわゆる「労働契約と直接的に関係する基本的情況」については、現在のところ条例及び司法解釈による線引きがなされていない。とはいえ、何ら制限を受けることなく自由に行使できる権利というものは存在しない。使用単位の労働者に対する管理権もまた無制限に行使できるものではなく、労働者の人格権と衝突するものであるため、この二つの権利は互いを牽制しあう形となる。

労働関係における病気休暇の審査をめぐり、従業員の「プライバシーの権利」と使用単位の「知る権利」はどこで線引きされるのか?一般的に、使用単位が病気休暇を証明する書類の提出を求めるのは、使用単位の権利であると言える。案件①の戴氏は、病気休暇を申請した後、会社側へ病気休暇の証明となる診断書を提出せず、会社側の度重なる催告にも応じなかったため、戴氏の病気休暇の妥当性を判断できない状況下で戴氏を無断欠勤とし、「就業規則」に基づき無断欠勤を理由として戴氏との労働契約を解除した会社側の行為は妥当なものであったと言える。この他、使用単位が病歴や検査結果などのコピーの提出を求め、併せて病院側へ照会を求める行為も、会社側の自治権の範疇であり労働者の使用権、管理権の濫用に該当しないため、プライバシーの侵害には当たらない。但し「精神衛生法」には、精神疾患者の合法的権益を保護する目的で、医療機関に対しては精神疾患者の病歴資料等についての機密を保持するよう定められている。

案件②の審議において、会社側が心療内科による診断書に李氏の病状について異議を唱えたことから、一審庭は調査を認め、会社側は再度心療内科へ赴き調査を行っている。その結果、心療内科は李氏の病気を重度の抑うつ状態と診断し診断書を作成したことがわかった。会社側の就業規則では病気休暇を取得した従業員へカルテの提出を求めてはいたが、李氏が明らかに精神的疾患であることを知りながらなお病歴に関する資料の提出を求めたのは明らかに不当な行為である。李氏が重度の抑うつ状態により休養を取っていたことはまぎれもない事実であり、会社側はこれを理由として労働契約を解除したために、経済補償金の支払いを余儀なくされたのである。