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【判例】勤怠記録のみをもって時間外労働の事実を証明することはできるか?(2021年2月26日)

案例:

2017年9月1日、胡氏は某インターネット関連企業へ入社し、人事経理の職位に就いた。賃金は月8000元で、労使双方は2020年8月31日までの3年間の労働契約を締結した。契約期間満了後、会社側は胡氏との労働契約を延長しないことを決め、胡氏へ経済補償金を支払ったが、胡氏は時間外手当分の賃金も支払うべきであると主張した。双方間の話し合いは決裂し、胡氏は2020年10月労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2017年9月から2020年8月までの時間外手当15000元を支払うよう求めた。仲裁委員会は法に基づいて、この申し立てを受理した。

審議:

審理において胡氏は、「会社側の規定では、週休二日で就業時間は9時から18時まで(1時間の休憩を含む)と謳われていたが、毎月少なくとも数日は時間外労働に従事していた。打刻時刻が18時以降であったことは、勤怠記録が証明している。ゆえに会社側は、実際の勤怠記録に応じた時間外手当を支払うべきである」と主張した。

これに対して会社側は、「胡氏は会社側が時間外労働申請制度を導入していることを知っており、かつ決済する権限を有していたにも関わらず、時間外労働を申請しなかった。また、勤怠記録では時間外労働があった事実を証明できない。ゆえに時間外手当の支払いには同意しない」と主張し、就業規則や(胡氏が決済した)他の従業員の時間外労働申請記録等の証拠を提出した。これらの証拠について胡氏は異議を唱えなかったものの、会社側が自身の申請した時間外労働申請の決済を拒否したと主張した。

争点:

労働者は勤怠記録のみで時間外労働の事実を主張することができるか?

判決

仲裁委員会は、胡氏の2017年9月から2020年8月までの時間外手当15000元の支払い請求を却下した。

分析

「最高人民法院労働争議案件審理における法適用に関する若干問題の解釈(三)」第九条には、「労働者が時間外手当の支払いを求めるときは、労働者は時間外労働の事実を証明する責任を負う。但し使用単位が時間外労働の事実の存在を証明する証拠を有している証拠を労働者が有しており、使用単位がこれを提供しないときは、使用単位は不利な結果を受ける」とある。このことから、労働者による時間外労働の事実の証明責任は、「主張する者が証明する」ことが基本原則となる。但し、労働者側からの証明が容易でない実情に鑑み、この証明責任を苛烈に求めることはできない。一般的には、労働者は時間外労働の事実の存在を証明する初歩的な証拠を提出さえすれば、証明責任を果たしたとみなされる。使用単位は労働者の管理において、労働者より多くの証拠を把握しているから、労働者からの初歩的な証拠を基礎として、使用単位が勤怠記録や給与明細等の時間外労働に関する証拠を提出すれば、裁判において具体的な時間外労働の事実が証明できる。それでは、労働者が勤怠記録のみをもって時間外労働の事実を主張した場合、この主張は認められるのだろうか?

裁判においては、以下の視点から時間外労働の事実の有無が総合的に判断される。

まず、一般的な労働時間制の労働者については、実際の労働時間が一日8時間、週平均40時間を超えていないか否かを見る。但し使用単位が労働者の同意を得て「勤務時間総合計算労働制」や「不定時労働時間制」を労働行政部門へ申請している場合は、その対象労働者については特殊労働時間制に基づき時間外労働時間を算定する。

続いて、時間外労働が使用単位の命令によるものか、労働者による自主的なものかを見る。人事部が時間外労働を命じた、または主管部門が臨時的に業務を手配した場合は、使用単位が命じた時間外労働とみなされる。一方で、労働時間中に業務を完了できなかった労働者が、使用単位の許可を得て時間外労働を行う場合は、使用単位が命じていない形での時間外労働となる。このことから、多くの使用単位は労働者へ労働時間内に業務を終了させ、自主的な時間外労働をしないよう呼び掛けるとともに、規定制度によって具体的な時間外労働の申請・決済方法を定めている。

本案件において、会社側は胡氏を一日8時間勤務の週休2日(週5日労働)で使用している。ゆえに、胡氏には(一日8時間勤務の週休1日制度のように、恒常的に時間外労働が発生するような)勤務時間制度に基づく時間外労働は発生せず、会社側の就業規則に基づく時間外労働制度の運用によってのみ時間外労働が発生することとなる。他の労働者の時間外労働の申請記録から、胡氏が会社側の時間外労働制度の運用方法を知っていたことは明確である。勤怠記録は胡氏の出勤及び退勤時に打刻した時間を記録しただけのものであるから、会社側が時間外労働を按配したことを証明できないのである。また、胡氏は時間外労働時の業務内容を説明できず、また会社側が決済を経て時間外労働を認めた、もしくは拒否した証拠を示せなかったことから、胡氏は不利な結果を受け入れざるを得なくなった。これにより、胡氏が会社側に対し2017年9月より2020年8月までの時間外手当15000元の支払を求めた訴えは、仲裁庭により退けられたのである。

労働時間制度から来る時間外労働については、当然に勤怠記録から直接時間外労働の存在を推定することが可能である。例えば、一日8時間労働で週休1日の(特殊な労働時間制度を採用していない)飲食業企業の場合、(週労働時間の40時間を超えることから)一週間の6日目の出勤について時間外労働(休日出勤)が認められる。このとき当該飲食業企業は勤怠記録をもとに労働者へ適時調整休を与えるか、時間外労働手当を支払わなければならない。

総じて、時間外労働の有無は勤怠記録のみでは判断できず、使用単位の労働時間や休憩休暇制度、時間外労働の決済制度及びその運用、時間外労働の内容及びその必要性など具体的な状況を見て判断することとなる。この方法をもってのみ、時間外手当の事実の有無を客観的に認定することができるのである。