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【判例】労働者の管理において、労働者へのプライバシー侵害を防ぐには?(2021年3月31日)

●案例一:

林氏(女性)は2017年4月7日麦谷公司へ入社し、人事行政職を担当していた。労使双方は2017年4月7日より2020年4月6日までの有期労働契約を締結し、試用期間は3ヶ月とされた。

2017年4月23日、林氏は医療機関の診察を受け、結果妊娠していることが分かった。これを受けて麦谷公司は2017年6月14日、林氏との労働契約を解除するとともに、林氏に「辞退通知書」を送付した。林氏はその日のうちに通知書を受け取った。通知書には辞退理由として、「林氏が採用の際に提出した『採用情報登記書(A面)』及び『新入社員入職申請書』の『婚姻状況』欄に記載された内容は事実と異なり、関連規定及び『採用情報登記書(A面)』及び『新入社員入職申請書』の真実性に関する約款に対する重大な違反がある」とあった。

林氏は、麦谷公司の行為を違法な労働契約解除であるとして、法院へ提訴した。

●判決:

法院は、「『新入社員入職申請書』には確かに、『もし記載された個人情報が事実と異なっていたときは、会社側の処罰及び辞退勧告を無条件に受け入れる』としているが、人事行政職にある林氏にとって、婚姻状況(婚姻していること)は業務遂行能力に影響するものではなく、また人事行政業務を遂行する上での必須条件でもない。また、麦谷公司は林氏が婚姻の事実を隠匿した行為が社内規律制度において重大な規律違反に該当することを証明できておらず、またこの行為が法で定める試用期間中の採用条件に属することも証明できていない。ゆえに、麦谷公司が『採用情報登記書(A面)』及び『新入社員入職申請書』の『婚姻状況』に事実を記載しなかったことを理由として林氏との労働契約を解除した行為は違法な労働契約解除に属する」として、麦谷公司に対し林氏へ違法な労働契約解除についての損害賠償金の支払いを命じた。

●案例二:

翁氏は2009年4月1日某電器会社へ入社した。2016年2月、会社側は民主的な手続きを踏んだ上で「従業員の行為規範に関する説明」、「従業員行為規範(2016版)」を定め、行政側へ届け出を行った。「従業員行為規範(2016)」附則五には親族関係申告承諾書があり、従業員へグループ及び外部のサプライヤー、代理店、販売員などに親族がいるか否かないしその親族との続柄を具体的に申告するよう求めるとともに、この(ステークホルダーに親族がいる)事実を申告しなかったときは、会社側は労働契約を解除する権利を有すると定めていた。翁氏はこの規定制度を了承し、承諾書へ記入した。

2017年4月、会社側は調査の結果、翁氏が承諾書に反し、父親がサプライヤーである企業に勤めている事実を隠匿していたことがわかった。4月19日、会社側が翁氏に話を聞いた際、翁氏は「父は当該企業で働き始めてからそれほど間がない」「昨年1月に当該企業へ入社した」「父は当該企業でそれほど長く働いていないし、申告する前の段階で父は自分が働いていると言わなかった。また自分から父に尋ねたこともなかった」と釈明し、父はあくまで「臨時工」であるという見解を示した。その後会社側は翁氏へ真実に基づき再度申告するよう求めたが、翁氏は虚偽の申告はしていないとしてこれを拒否した。これを受けて会社側は、工会の意見を求めた上で、2017年4月26日に重大な規律違反を理由として翁氏との労働契約を解除した。

翁氏はこれを不服として仲裁を申し立て、違法な労働契約解の認定と会社側の損害賠償金の支払いを求めたが、仲裁委がこれを棄却したため、翁氏は法院への提訴に踏み切った。

●判決:

法院は、「使用単位は単位の経営における需要と特徴に応じて相応の規定制度を設けることができる。会社側は経営環境や秩序の確立及び従業員に対する誠意信頼に基づいて当該規定を定めており、また当該規定によれば、親族がいる旨申告しても特に規定違反とはならない。翁氏と会社側との話し合いを見ると、翁氏は申告書を記載する前の段階で既に父親がサプライヤー企業に1年以上勤めていた事実を知っており、にも関わらず真実に基づいた申告を拒否したことは、明らかに悪意(故意)の行為である。かつ会社側との話し合いにおいても反省が見られなかったことから、会社側は重大な規律違反により労働契約を解除できる」として、翁氏の請求を却下した。

●分析:

プライバシーの権利は人身権の範疇であるとともに、労働者の合法的権益の範疇でもある。従業員の管理においては、管理方式の多様性や複雑さから、使用単位は管理者としてほぼ必ず労働者のプライバシーの権利に関する問題に直面するであろう。この問題について、我々は以下のように分析する。

一、労働者は使用者からのプライバシーへの干渉に対応しなければならないか?

労働契約法第八条には「……使用単位は労働者の労働契約に関連する基本的状況について知る権利を有し、労働者はこれについて事実を説明しなければならない」とある。実務において、この「基本的状況」には一般的に、健康状况、知識技能、文化水準、業務履歴、以前の収入情况等が含まれると解される。上述の規定から、労働者が使用者へ提供すべき個人情報であるか否かの基準は「労働契約と直接関係のある基本的状況であるか否か」であると言える。但しこれらの基本的状況には、プライバシーと無関係なものもあれば、プライバシー保護の問題に関わるものも存在する。例えば直接食品に接触する従業員に対して使用単位が健康状態を訊くことは法律の観点からも合法であり、同時に労働者側は関連する健康状態について使用単位へ報告する義務を有することとなる。

以上のことから、労働者が使用単位へ提供する個人情報について、もしその情報が労働契約に直接関わるものであったときは、提供すべき情報の範囲に属するから、例えその情報がプライバシーに関わるものであったとしても、労働者は使用者へこれを完璧に報告する義務を有するのである。

二、労働者が使用単位へプライベートな情報を提供するとき、情報を隠蔽したり、虚偽の情報を提供したりすることは許されるか?

まず、労働者が使用単位に提供する情報が労働契約法第八条に定める「労働契約と直接関係する基本状況」に該当するか否かを明確にしなければならない。もしこれに該当するときは、当然にこれを隠蔽したり、虚偽の情報を提供したりすることはできず、またもしこれに該当しないときは、労働者は労働法第八条に定める義務を負わないから、使用単位にはこれに関連する情報を得る権利は無いことになる。労働者がプライベートな情報の隠匿や虚偽報告がプライバシーの権利保護に基づくものである場合は、詐欺行為をもって労働契約を締結したとはみなされない。

案例一の林氏は使用単位へ事実とは異なるプライベートな情報を提供したが、当該情報は労働契約法第八条に定める労働契約に直接関係する基本的情報ではないため、林氏が使用単位を欺いて労働契約を締結したとは言えず、使用者側もこれを根拠として労働契約を解除できないのである。

また、案例二で使用者が従業員へステークホルダーに親族が所属するか否かを申告するよう定めているのは、商業的機密の漏洩やリスク防止のために必要な規定であり、また従業員本人のプライバシーを侵害するものでもないため、合理性があると言える。翁氏は故意に真実を申告せず、またそのことについて何ら反省の色が見られなかった。これら翁氏の行為は誠実信用の原則から重大な規律違反を構成するため、会社側は法に則り労働契約を解除できたのである。

三、勤務場所内で労働者が保管している私物及び勤務場所内のコンピュータに保存されているプライベートな情報はどのように処理すべきか?

労働者が勤務場所で保管している私物は、所有権の視点から見ると当然個人の所有物ということになる。これらの所有物も、労働者のプライバシーに関わる可能性がある。使用単位は勤務場所を管理する立場にあるため、有効な管理制度をもって労働者の私物持ち込みを制限することができる(労働契約の履行にも組み込むことができる)。労働者の離職などの理由によって労働者の私物(プライバシーに関わるものも含む)を整理しなければならないときは、使用単位はまず労働者へ期間を定めて私物を整理するよう通知しなければならない。労働者が通知を受け取ってなお私物の整理を拒否したときは、使用者は管理権を行使し私物を返還または処分することができる。これら一連のプロセスを踏む際は、使用者側でしっかり証拠を残しておく方がよい。

勤務場所のコンピュータに保存されているデータは勤務場所で保管されている私物と異なり、少なからず使用者側のツールであるという要素を含む。社内に専用の家具を置いてそこで労働者の私物を一括して管理している使用単位も少なくないが、これと同じ感覚で使用単位が提供する業務専用のコンピュータ及び電子設備に労働者のプライバシーに関わる情報が保存されているケースも明らかに存在する。業務専用のコンピュータ及び電子設備に保存された労働者のプライバシーに関わる情報について、法的実務においては、使用単位は一般的に労働者が不当に保存した情報を消去する権利を有するとされる。また、この権利は使用単位の管理制度に定めがあることを前提としていない。

使用者は労働者のプライバシーに関わる物品や個人情報を悪意なく管理している。プライバシーの侵害は使用単位側の管理ミスによって発生するものであり、この問題は一旦発生すると使用者側へ多大な負担がかかることになる。リスク防止の観点からも、使用者は管理制度をより完全なものとするとともに、定められたプロセスに則って情報の整理を行い、同時にその証拠を残しておかなければならない(実務において音声や映像は比較的有効な証拠となるが、必要ならば公証を得ることも考慮すべきである)。また、いくら勤務場所にあるコンピュータに保存されている労働者のプライバシーに関する情報を整理する権利が使用者側にあるとは言っても、それが使用者の当該情報の保管や散布を許すものではないという点には注意が必要である。

四、位置情報(GPS)の利用はプライバシーの侵害となるか?

位置情報は個人の習慣やプライベートに関わる情報であるため、一般的にはプライバシーの権利の範疇に入る。このため個人の位置情報を違法に取得する行為はプライバシーの侵害と見なされる。しかし、使用者が労働者の勤務管理において携帯電話のGPSを使用するときは、労働契約の履行に関する管理処置と見なされるため、労働者のプライバシー侵害行為とはならない。

とはいえ、個人の位置情報は労働者の重要な権益に関わることがあるため、使用単位の携帯GPS利用に当たっては、くれぐれも以下の点に注意されたい。

1、GPSの利用による勤怠管理について、労働者より書面による同意を得ること。

2、勤務時間外は位置情報を取得しないこと。

3、労働者が離職する際は位置情報を削除すること。

これらの措置は労働者のプライバシー保護の問題について、使用者が法的責任を追究されるリスクを防ぐだけでなく、勤怠管理の有効性を確実にする。

位置情報の取得は、使用単位の基本的管理上の必要性を超えてはならない。さもなければ、労働者の個人情報の濫用となり、労働者に対するプライバシーの侵害を疑われることとなるであろう。

五、使用者が労働者の病気休暇を確認することは、プライバシーの侵害に該当するか?

使用者は、労働者による「仮病休暇」取得を防止するために、病気休暇が真実に基づいたものか否かを確認することができる。病気休暇の確認に当たって、使用単位は労働者へ病気休暇の資料の提出を求めることができる他、使用単位が自ら医療機関へ赴き病状を確認することもできる。我が国の労働法には労働者の病気休暇取得を権利として認めているが、使用者側がその詳細を知る権利を定めていない。この問題は実務においてたびたび論争となるので、使用者は病気休暇の管理によるリスクを防止する意味でも、法律に抵触しないよう留意しつつ社内の管理制度で病気休暇の取り扱いについて定めておくことを提起する。

六、労働者への通知において、労働者のプライバシーを侵害する可能性はあるか?

使用者は、実務において郵便や公告、掲示のいずれかによって労働者への通知を行わなければならない。このプロセスにおいて不当な手続きがあれば、労働者のプライバシー侵害に該当する可能性が発生し、本体使用者側が主導的立場となるべき労働争議において逆に労働者側からプライバシー侵害について責められることになりかねない。通知のプロセスに当たっては身分証などの重要な情報が漏洩しないように注意を払い、マスキングなどで重要な情報が目につかないようにしなければならない。

七、終わりに

使用者の労働者管理において、労働者のプライバシーを侵害しないための鍵は、プライバシー保護の意識強化とプライバシー保護を強化した上での合法的な管理の二つである。注意しなければならないのは、プライバシーの侵害に関する訴訟は独立した民事訴訟であり、労働争議や労働仲裁と併せて審理されないという点である。プライバシーの侵害があった場合、労働者側はプライバシーの侵害を理由として提訴できるようになるため、労働争議において先手を打ってより自発的に動くことができるようになる。ゆえに、使用者の管理者や法定代理人はプライバシーの保護が労働争議の主体性に与える影響を常に頭に入れておく必要があるだろう。