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【判例】「レッドライン」を超えた入社前健康診断による入社拒否は有効となるか?(2021年4月30日)

●案例:

某香料会社は、2018年5月に求人広告を出した。求人に応募した劉氏は書類選考、選考試験、面接を経て、他の応募者と同じく採用前の健康診断へ臨んだ。

しかし、健康診断が終わった後の6月24日、会社側の人事担当者は劉氏へ、健康診断の結果異常があると判定されたことを告げた。6月28日、採用合格者が発表されたが、そこに劉氏の名前は無かった。7月10日、劉氏は会社側の人事担当者とともに疾病予防管理センターへ赴き、HIV抗体の再検査を受けた。劉氏はここに来て初めて、会社側が告知なく勝手にHIV抗体検査を行った(そうでなければHIV抗体検査だけのためにわざわざ来院しない)ことを知った。また、劉氏にも配布された会社側資料の身体検査に関する項目には、「採用時の健康診断は『香料会社採用前健康診断基準(試行)』に沿って実施される」とあり、同基準の第十八条には、「検査の結果HIVが判明したときは不合格とする」と記載されていた。

劉氏はその後、この問題について会社側人事部と何度も話し合いを持ったが、採用はできないとの回答を得たのみであった。劉氏は、会社側は劉氏の病名が外部に漏れた場合、会社のイメージに影響が及び、また他の従業員が怖がることを憂慮していると感じた。劉氏は、会社側が健康診断を委託している病院が他院で血液サンプルを検査した行為は、HIV検査の自主性と検査制度に違反し、また健康診断基準にHIV患者の採用を拒否する条項を設けたのは、就業の権利を侵害するものであると考えた。

劉氏は10月16日に人民法院へ提訴し、会社側へ就業の平等を侵害したことを理由として、劉氏の従業員たる地位の確認と、精神的苦痛による慰謝料5万元の支払いを求めた。

●分析:

焦点1.HIV検査について国は自主的検査制度を採用している。

一般的によく見られる健康診断は、使用単位が従業員の基本的状況を把握する手助けとなるほか、従業員にとっても自己の健康状態を把握するために有益である。しかし、労働者が平等に就業する権利は法律によって国から保護されており、いかなる公民も平等にこの権利を享受する資格がある。そのため民族、人種、性別、年齢、身体的特徴などによって就業を制限してはならない。確かに「労働契約法」第八条には、「使用単位は労働契約と直接関わる労働者の職歴や学歴、身体状況等を把握する権利を有し、労働者はこれについて事実に基づき説明しなければならない」とあるが、採用時の健康診断において、労働者が健康診断にパスしたか否かの基準は、使用単位が随意に定めて良いものではないのである。

2018年12月12日発「最高人民法院における民事案件訴因の増加に関する通知」、翌2019年2月22日九部門発「女性就業促進のための招聘行為規範化進展に関する通知」は、国側が労働者の平等な就業の権利の保障を次第に重視し始めている現状を反映している。特に注意が必要なのは、健康診断におけるHIV、妊娠、B型肝炎検査について、国側の関連部門が「レッドライン」を超えた行為であるとみなしている点である。

「HIV防止条例」では、国は(公民の)自主的なHIVの相談及び検査制度を実施する、としている。また同法では、いかなる単位や個人もHIV感染者や発症者及びその家族を差別してはならないとしており、HIV感染者や発症者及びその家族の婚姻、就業、医師免許の取得、入学などの合法的権益を法律によって保護するとしている。一般的な採用前の健康診断においてはHIV抗体を検査してはならず、もし使用単位が法に反してHIV抗体の検査を実施しようとしたときは、労働者はこれを拒否する権利を有する。

「HIV防止条例」第五十六条では、医療衛生機構が本条例第三十九条二項に反し、HIV感染者や発症者またはその家族の情報を公開したときは、伝染病防止法の規定に基づき処罰すると定めている。また、同条は更に、「出入国検疫機構や計画出産技術サービス機構及びその他の単位、個人が本条例第三十九条二項に反し、HIV感染者や発症者またはその家族の情報を公開したときは、上級主観部門より改善命令、通報批評、警告を発するともに、管理責任者及び直接関係した人員に対し法に基づいた処分を行う。重大な案件であるときは、管轄部門より当該機構の営業許可の取り消し及び管理責任者への業務許可の取り消しを行う」と規定している。

また、「伝染病防止法」第六十八条では、「伝染病の感染者、伝染病のキャリア、偽陽性患者、濃厚接触者及びプライバシーに関する情報、資料を故意に漏洩させ、本法に違反した疾病予防管理機構に対し、県級以上の人民政府衛生行政部門は改善命令、通報批評、警告を発する。また、管理責任者及び直接関係した人員に対しては降格、職位剥奪及び解雇処分とし、法に基づき管理責任者への業務許可の取り消しを行う。犯罪を構成するものについては、法に基づき刑事的責任を追究する」とされている。

これら行政処罰の他に、「就業促進法」では、労働者は就業差別に対し人民法院へ提訴することができると定めており、また「侵権責任法」には、他人の人身の権益を侵害し、他人の精神に重大な被害をもたらしたときは、被侵権者は精神的苦痛による損害賠償を請求できる、と規定されている。

焦点2.健康診断で妊娠検査を行ってはならない。

国は「就業促進法」で、女性に対して男性と同じ労働に関する権利を保障している。使用単位は求人の際、国の規定で定める女性の就労に適さない職種及び職位を除いて、性別を理由として女性の採用を拒否したり、女性の採用基準を引き上げたりしてはならない。

2019年2月28日人社部、教育部等九部門が聯合して発した「招聘行為における婦女の就業促進の規範化推進に関する通知」では、婦女の婚姻及び出産に関する情報を収集することは女性に対する就業差別の構成するものとして、固く禁じられている。この「通知」では、「一連の招聘活動における就業に関する性差別を禁止禁ずる」「婦女に対し婚姻及び出産状況を確認してはならない」「婦女への妊娠検査を採用時健康診断項目とし、出産を採用条件としてはならない」と明確に規定されている。

(女性への就業差別撤廃に対する)国側の要求を徹底すべく、「通知」では各部門聯合による事情聴取制度を設けている。これは、通報が遭った場合、就業差別の疑いがある使用単位へ事情聴取を行い、もし事情聴取を拒んだ、もしくは事情聴取後の指導にも応じなかった場合は、法に基づいて処分するとともに、メディアを通じて社会へ公告するものである。また、司法救済制度に対する国側の要求に応えるべく、人民法院は法に基づき婦女の性差別に対する訴訟を受理し、就業の平等を訴因とするとともに、司法各部門は積極的に当該婦女へ司法救済と法的援助を提供する、としている。この他、人的資源市場の監督を強化し、使用単位や人的資源サービス機構の女性差別的要素を含んだ求人情報については、人的資源社会保障部門が指導、罰金、人的資源サービスの営業許可取り消しなどの処罰を行うとともに、これらを人的資源市場信用記録に残し、その信用に対して懲戒を与えるとも定められている。

焦点3.B型肝炎の血清学的指標を強制的に健康判断基準としてはならない。

「就業促進法」では、使用単位は人材を招聘する際、伝染病のキャリアであることを理由として採用を拒んではならないとしている。人社部「就業サービス及び就業管理規定」では、使用単位が人材を招聘する際は、国の法律、行政法規または国務院衛生行政部門が定めるB型肝炎ウイルスキャリアの就業を禁止する業務を除いて、B型肝炎の血清学的指標を強制的に健康判断の基準としてはならないと明確に定めている。

2009年6月1日の「食品安全法」の施行に伴い、「食品衛生法」は廃止された。その後国務院が公布した「食品安全法実施条例」にて、制限を受けるべき「ウイルス性肝炎」が「A型肝炎とE型肝炎」に限定され、B型肝炎については食品に関連する業務への就労制限が無くなった。すなわち、B型肝炎キャリアでも食品関連の業種や飲食業に従事できるようになったのである。

人力資源社会保障部、教育部、衛生部発「入学及び就業における健康診断項目の規範化促進によるB型肝炎キャリアの入学及び就業の権利保護に関する通知」では、衛生部が審査し公布する特殊な職業を除いて、健康診断を受ける者以外が健康診断におけるB型肝炎ウイルス検査を求めてはならず、また使用単位はB型肝炎キャリアであることを理由として採用を拒んだり、解雇してはならないとしている。

この通知によれば、健康診断の際にB型肝炎ウイルス検査を設けて良いケースは、「食品に直接触れる職種」「公共の場所で直接顧客サービスを提供する人員」「飲料水の製造、飲食、理容、保育など伝染病が容易に拡散する職種並びに化粧品の生産に直接従事する職種」「特殊警察及び採血、血液製剤の製造、血液の供給等に従事する職種」「中国民用航空局に入学するパイロット候補生」であり、この場合は健康診断にB型肝炎ウイルス検査の項目を設けることができる。これらのケースに該当しない限り、使用単位は健康診断にB型肝炎ウイルス検査項目を設けてはならない。

また2010年2月12日衛生部発「公共の場所における衛生管理条例実施細則等規範的文書についての一部内容の変更に関する通知」では、入学や就業における健康診断の際に行ってはならないとされるB型肝炎ウイルス感染検査5項目及びHBV-DNA検査を含むB型肝炎に関する検査の他に、職業上特殊な検査を行う必要があるときは、行政主観部門を経て衛生部へ調査報告書と申請書を提出し、衛生部の審査を受けた後に検査を行わなければならない、と定められている。

この通知は、主観部門へ医療衛生機構、教育機構、使用単位への監督管理を強化し、違反行為に対しては法に基づき処分するよう求めている。例えばB型肝炎のウイルスキャリアに関するプライバシーを漏洩させた医療従事者に対して、県級以上の衛生行政部門は「開業医師法」第三十七条や「看護師条例」第三十一条の規定に基づき警告や業務停止命令、業務許可の取り消しなどの処罰を与えることができる。また通知で更に、規定に違反した当事者や責任者に対しても相応の処罰を与える旨を明文化している。

人社部「就業サービス及び就業管理規定」によれば、使用単位がB型肝炎の血清学的指標を健康診断に盛り込んだときは、労働保障行政部門による改善命令と、最高一千元の罰金の支払いを命じられる。それだけではなく、使用単位が健康診断の際にB型肝炎の血清学的指標を設けたことで、相手方へ損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負うこととなるのである。