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【判例】求職者が入社承諾後に入社を拒否した場合、会社側は求職者へ損害賠償を請求できるか?(2021年4月30日)

●摘要:

求職者が採用通知書に署名した後労働契約の締結を拒否する行為は、契約締結における過失と予約契約の違約を構成する。このケースにおいて人民法院は、当事者の訴訟内容に鑑み訴因を確定しなければならない。使用単位が予約契約への違反を理由として求職者に違約責任を求める行為は、民事紛争であって労働紛争の範疇を超えるものとなるのである。

予約契約への違約による損害賠償金の金額は、以下の考え方を遵守しなければならない。すなわち、もし違約金の額が定められているときはその約定に従い、違約金の額が定められていないときまたは不明瞭なときは、本契約を履行したときの利益を上限として、予約契約と本契約の関連度合に鑑み総合的に違約金の額を判断するのである。

●案例:

周氏は2019年6月閣泰公司に市場管理経理として採用され、会社側は2019年7月25日、周氏に対し採用通知書を交付した。採用通知書には周氏の入社後の職位、賃金、福利厚生、勤務場所の内容とともに、周氏が労働契約の締結を拒否したときは、損害賠償金51500元を支払うと記載されていた。周氏はその日のうちに採用通知書へ署名し、PDF形式で会社側へ返送した。

しかし2019年8月22日、周氏は閣泰公司への入社を拒否した。2019年10月8日、会社側は労働人事葬儀仲裁委員会へ仲裁を申立てたが、仲裁委は周氏の入社拒否に対する会社側の申立てを受理の範囲外であるとして、申立てを却下した。そこで会社側は周氏が双方間の約定に違反したことを理由として法院へ提訴し、周氏に対し違約金51500元の支払いを求めた。

●判決:

一審庭は、「周氏が採用通知書に署名しこれを会社側へ返送した行為は、採用通知書の内容を確認し入社に同意したものとみなすことができる。この行為後周氏が入社を拒否したことは誠実信用の原則に反し、会社側の合法的権益を侵害するから、契約締結への過失責任を負う」として、会社側が招聘した職位の状況、賃金水準、他の人材を招聘し直すコスト、周氏の過失の程度及び双方間の約定の内容などを主観的、客観的に鑑みた結果、周氏へ会社側の経済的損失に対する損害賠償金51500元の支払いを命じた。

周氏はこれを不服として控訴した。周氏の控訴理由は次のようなものであった。(1)一審判決の訴因に錯誤があり、本案件は労働契約にかかる紛争である。(2)本採用通知書の違約金条項は無効である。(3)会社側が、使用単位としての経営リスクを労働者へ押し付ける行為は、法的に認められない。

二審は、本案件の争点を周氏が違約責任を負うか否かであるとし、以下のように結論づけた。

「双方間の紛争の解決に当たりどの法律を適用するかについて、「労働契約法」第七条、第十条では、労働者の使用は労働関係の確立を示す唯一の指標である、と定められている。本案件において、会社側は周氏へ採用通知書を交付しただけであり、労働契約を締結していないから、双方間に労働契約は成立していない。ゆえに本案件は労働争議ではなく、契約法の適用を受けることとなる。但し、一審判決が示した周氏の契約締結に関する過失責任については、根拠を欠く。

次に、違約責任の法的根拠について、本案件において当事者双方は実質的に採用通知書を通じて将来の一体期間内に労働契約を締結することを約定しているから、双方間には予約契約が成立していることとなる。また、採用通知書内には周氏が将来労働者として享受する権利の内容がつまびらかに記載されており、双方間が話し合いによって取り決めるべき未決事項は基本的に含まれていないと言える。ゆえに、採用通知書は法的拘束力を有し、当事者双方は採用通知書に記載されている入職日に労働契約を締結するものであるから、当事者双方のいずれか一方が約定に反したときは、相応の違約責任を負う。

第三に、周氏の抗弁が違約責任を免れる理由となり得るかという点について、周氏の抗弁権は使用単位と労働者の間にのみ成立するものであるから、抗弁権は成立し得ない。周氏は経営リスクについて会社自身で責任を負うべきだと主張しているが、周氏の入社拒否行為は当事者が予見できないものであり、また入社拒否は熟慮の末自身の利益を推し量り下した選択であるから、周氏の主張は法的根拠及び合理性を欠き、また誠実信用の原則に反する。ゆえに、一審判決を破棄し、周氏へ会社側に対し違約金51500元を支払うよう命じる」

●分析:

一、競合する二つの請求権:違約責任か過失責任か

本案案件においては、一審、二審とも周氏へ会社側に対し51500元を支払うよう命じているが、一審が周氏の契約締結における過失責任を損害賠償理由としているのに対し、二審は当事者双方間に労働契約締結の約束契約が成立している状況にあることから、周氏は契約の締結拒絶に対する違約責任を負うとしている。我々は、周氏の行為は既に契約締結における過失要件を満たしていることから、会社側は訴訟による請求権について自由に選択できるとの見方に立つ。

違約責任の構成について、周氏の会社側が交付した採用通知書に署名した行為は、会社側への承諾を構成するものであるから、周氏が最終的に労働契約を締結しなかったことは、予約契約に反する行為である。会社側が周氏へ交付した採用通知書には、入社日や職位、賃金などの待遇が明確に記載されており、これは「労働契約法」第十七条の規定に合致している。このことから、司法実務上、労働契約における絶対的記載事項を具えた採用通知書は労働契約と認めるべきである。しかしながら、予約契約と本契約を区別する鍵は、当事者双方の契約締結目的が同じか否か、予約契約と本契約の内容が合致しているか否かという点にある。本案件において、会社側は採用通知書に「三年間の有期労働契約」であると明記しており、周氏もこれに署名していることから、双方が採用通知書の内容を認めたことにより予約契約が合意に達したとみなされるのである。周氏は会社側と労働契約を締結していないものの、予約契約の約定で合意に達しているので、違約責任を追わなければならないのである。

次に、契約締結における過失責任の構成については、周氏と会社側が採用通知書の内容について合意に達した事そのものが、労働契約締結における話し合いのプロセスを構成する重要な構成要素となるため、周氏の労働契約を拒否した行為が契約締結における過失責任を構成する事となる。「労働契約法」では、労働契約が成立していない段階での契約締結における過失責任について明確に示していないが、同法第三条で強調されている誠実信用の原則は契約締結における過失責任と表裏一体の関係にある。ゆえに同条文から、当事者一方の過失により労働契約が未締結となった場合は、過失責任を負わなければならないとの結論が導き出せる。ゆえに本案件において、会社側は周氏へ契約締結における過失責任によって生じた損失について損害賠償を請求することができるのである。

審議において、会社側は周氏へ「違約金として」51500元の支払いを求めているが、これは会社側が違約責任からの損害賠償請求を選択したためである。しかし一審は当事者の選択を考慮せず、周氏の契約締結における過失責任のみに基づいて判決を下したもので、法的に妥当であるとは言えない。

二、民事紛争と労働紛争

当該案件が民事紛争か労働紛争かという点について我々は、会社側と周氏との紛争は労働紛争ではなく民事紛争に属するため、民事紛争の規範で解決すべき事案であると見る。その理由は、(1)民事主体としての地位が平等か否かという視点から、会社側と周氏は予約契約の過程から平等な民事的主体であると言えるため、民事形式のスキームによる枠組みが適切である。⑵法適用の合理性という視点から、民事的法規範による紛争解決に合理性がある、立法趣旨の観点から見ると、「労働契約法」等の労働法規には予約契約について具体的な規定がなく、もし労働法に照らして審議された場合、裁判官の拡大解釈による自由裁量権と法適用の間で齟齬が生じてしまう。(3)紛争解決における障害という視点から見ると、予約契約と労働契約はそれぞれの法律(契約法と労働契約法)で調整されるため、互いに干渉しあう事はない。当事者双方は予約契約のうちに本契約の内容を約定してしまうが、この内容は本契約時に変更することはできない。なぜなら変更を加えれば変更を加えた側に違約責任がかかるからである。

三、損害賠償額の確定

本案件においては、会社側と周氏の間で具体的な違約金の金額について合意形成がなされていた。周氏は訴訟の際に違約金が高すぎるとして法院へ減額を求めなかったが、その理由は会社側と周氏との約定において違約金の金額が51500元と定められていたからである、しかしながら、全ての当事者が損害賠償の金額について具体的に手配することができるわけではないので、契約における損害賠償額を如何に決定するかについては議論が必要である。

予約契約の損害賠償額は、本予約契約を履行した際の利益を限度とすべき、というのが我々の見方である。予約契約は本契約に向けての交渉の余地を残してはいるが、契約であることに変わりはない。予約契約の損害賠償額を決定する際は、以下の点に留意しなければならない。双方間で違約金の額(手付金や違約金、または損害賠償額の計算方式が定められている場合を含む)について約定があればその金額を違約金とし、もし約定がない、または不明瞭なときは、本契約を履行した際の利益を基準として、予約契約の内容を加味して総合的に違約金の金額を決定すべきである。