求人難を背景とする日系企業の労務工雇用政策
(賃金情報・労働市場動向)
毎年この時期になると、我々多くの日系企業は求人難という問題に直面する。特に第一線で働く労働者については、求人募集がとりわけ困難である。これは中国の豊かな労働力市場とかけ離れているかのようであり、大量の労働力と日系企業の直面する求人難はきわだった対比をなしているように見える。なぜこのような現象が生じているのか。我々はどのようにこの問題に対処すべきか。私は、中智が2010年末に発表した「2010年における上海日系企業の労務工雇用および給与報告」のいくらかの内容を組み入れてこの問題について検討分析した。
まず、日系企業の直面する求人難の原因について説明する。上海の日系企業では労務工が総職員数に占める割合は平均46.3%で、比率の高い企業になると68.1%以上にまで達する。地方の労務工が総労務工数に占める割合は62%である。現在のところ労務工は生産、物流、サービス業に集中しており、主に第一線で働いている。このような基礎的職位につく労務工について、我々はマクロ経済環境、国家政策法規、企業自身のやり方などいくつかの方面から分析を行う。
一、経済環境が好転し、日系企業の生産能力の回復が第一線で働く職員の需要の増大をもたらした。

全体的に見ると、2009年に比べ、58.0%の日系企業が2010年の業績指標を引き上げた。細かく見てみると、61.7%の日系製造業企業が業務指標を引き上げ、75.0%の日系非製造業企業が業務指標を引き上げている。2009年の業績達成状況と2010年の業績指標調整状況からすると、製造業企業は非製造業企業よりも積極的で、経済回復の合図はまず製造業企業主導で行われると言える。また、日系製造業企業は労務工が相対的に集中している企業タイプである。そのため企業の生産能力が回復するにつれ、その第一線で働く労務工者の需要が急激に増加する。しかし需要の増加に伴って、労務工の離職率も年毎に上昇の傾向が見られ、2008年は37.1%、2009年は42.2%、2010年は47.9%にまで達している。雇用量の増加と離職率の上昇が日系企業の求人難という現象をさらに厳しいものとしている。
二、企業の人的コストおよび雇用リスク軽減のため、雇用される労務工の比率は年々上昇している。

まず、中智が調査研究したここ数年の日系企業の労務工雇用状況のデータによると、2006年の企業の労務工雇用人数が総職員数に占める割合は25.1%、2007年はその比率は30.7%、2008年は33.6%、2009年は40.5%、2010年には46.3%に達した。ここ5年で上昇の傾向が顕著に見られる。とりわけ、2008年の金融危機から始まって、企業は人的コストの削減のため、正職員に代わってより多くの労務職員を用い、それにより、労務工の不足をより一層拡大させてきた。この方法は短期間でコストを抑えることができるが、いつまでもこのような状態が続けば、労働力市場の秩序を混乱させ、労働者の権益を侵害し、ひいては都市の失業率を上昇させることになる。
三、企業の内陸へのシフトが労働工の流れを変えた。
上海で伝統的製造業から先進的製造業への転換の歩調が速まるに伴い、地区の人的コストの年ごとの上昇と、国家関連投資政策の内陸地区への転向などの原因により、労働密集型を主とした一部の日系企業はしだいに生産工場を中国内陸部に移転し、その一定のレベルで現地労働力の一部を引き付けた。そして以前の労務工の西から東への流れを、北から南へという労務輸出ルートに変えてしまった。そのほか、労務工の年毎の給与上げ幅と近年高止まりの上海のCPI指数がつりあわないため、より多くの地方労務工は内陸部に戻って仕事の機会を探すほうを選んでいる。
以上、三つの大きな原因がかなりの程度作用して、現在のいわゆる求人難の局面をつくりだしている。日系企業にとって、目の前にあるのはどうやってこの問題を解決するかということである。我々は、労務工の給与福利厚生から着手し、現状を分析して解決方法を追求する。
一、労務工の給与基準の引き上げ

多くの日系企業は労務工の給与を制定する時、上海の最低賃金基準と連動させる。現在の労務工の離職の主な原因をみてみると、第一位は給与でその比率は82.5%に達している。そのため、給与基準を変更することが、企業が労務工を募集し、保留する主な方法である。2010年末、中智の発表した「2010年における上海日系企業の労務工雇用および給与報告」の中で、2010年の上海地区日系企業労務工の基本給与の平均給与調整率は10.2%、例えば、毎月1500元として計算すると、増加率は153元/月となる。
また、上海地区の第一線で作業する労務工の年間現金収入の平均は税引前で26,583元である。しかし、企業と正式に契約を結んだ同期の現役操作工の年間総現金収入は平均して税引前で33,601元に達し、両者間の差は26.4%にもなる。労務工の給与基準を引き上げるほか、企業は豊富な労務工の給与要素について、たとえば様々な賞与支給方法や手当支給種類の増加などについて、挙げていくことができる。現在83.5%を超える日系企業が労務工に対して賞与を支給する政策を持っており、そのうち45%の企業が月ごとに支給し、38.1%の企業が年ごとに支給している。
手当の支給種類については、現在、企業が一般的に支給している手当は、高温手当、防寒手当、交通手当、給食手当で、そのうち高温手当が占める割合が最も高く、40.6%に達する。現在上海のCPIの上昇がおさまらない環境にあっては、企業が交通や飲食など、職員の日常生活に関係のある手当についていくらか調整をおこない、そうすることによって労務工の生活ストレスを軽減させることも、私は提案する。
二、豊富な福利厚生の種類は、人間らしさを尊重するという原則への配慮を具体的に表わす。

現在の上海日系企業の労務工の福利厚生政策から見て、80.1%の企業は労務工のために法定積立金を納付しており、ほかの21.6%の企業は規定以外の商業保険を、少数の4.2%の企業が非強制保険を納付しており、主に意外保険、非強制医療保険、非強制養老保険などに集中している。労務工の休暇の問題においては、69.9%の企業の労務工は勤務が満一年になって休暇をとることができ、休暇日数は一般的には5日で、15日に達している企業も少数ある。
以上の福利厚生以外に、企業は福利厚生の種類を増やすことで、人間性を尊重していることを表わすことができる。例えば、健康診断、旅行、医務室の提供がある。また、職員への宿舎の提供もあるが、特に既婚の労務工に対しては夫婦用宿舎を設立して家族同伴を許可し、企業に就職するよう家族を募集することができる。そうすることで、一部労務工の住宅問題を解決すると同時に、企業の求人ルートをある程度開拓することになる。このほか、企業は労務工を研修する時間、特にその技能関連研修の時間を増やすこともできる。
三、関連法律を整え、労務工の直接的な利益を保護する。
現在のところ、法律法規の整備が不十分なため、一部の雇用機関、労務企業と労務工の間の権限と責任が不明確で、同じ労働に対して給与が異なり、労務工の利益が損なわれる状況が発生し、労働者の離職を加速させている。政府関連部門はただちに法律を改正し、条項を整えなければならない。特に労務工の給与福利、職位の設置、企業の雇用人数比率、労働強度などの方面に関係して、規則を制定しなければならない。それによってある程度、労働市場の規範にかない、規則違反の状況が発生するのを防ぐことができる。そして合理的で合法的な労働環境を創り、各種労務職員を引き付けて就職するようにしていく。
このほか、企業は求人募集ルートを開拓していくことも求められる。それで、伝統的な労務企業や職業紹介所を通しての募集から転向して、企業説明会、インターネットによる求人募集、校内企業説明会など、多元的な方法を採用して求人ルートを増やし、労務工の募集範囲を拡大することが必要である。
求人難という局面をもたらす原因が様々であるのと同様、この問題を解決するには企業と社会の一致した努力が必要であり、長期的な過程となるかもしれない。しかし、別の面から見ると、東部地区の民工不足の発生は中国の産業構造の変化、さらに中国労働力市場内部の流動性の多様化をもまさに示していることがわかる。
出所:中智人力資源管理諮詢有限公司 薪酬績効管理諮詢中心