中国におけるスマートグリッド整備の投資計画
(中国経済・産業)
三井住友銀行(中国)企業調査部
中国版スマートグリッド(※1)が推進される背景
2009/7 月に、中国最大手の送電企業である国家電網公司(以下、国家電網)がスマートグリッドの整備方針を明らかにして以降、中国国内外でスマートグリッドに対する関心が高まってきています。堅調な経済成長が続く中国では、現行の送電網の電流制御能力が十分でない上、出力が不安定な風力や太陽光等再生可能エネルギーの普及が制約されている中、石炭や水力等の電力源が集中している内陸部から電力消費の負荷中心地となる沿海部まで長距離且つ効率的な送配電が必要とされており、スマートグリッドの整備が大きく期待されています。
国家電網公司の主導で計画されている中国版スマートグリッド事業は、設備及び制御システム等の電力系統のスマート化のみならず、超高圧電網を中心とした送電網2の整備から事業展開を進めるところが大きな特徴となっています。中国政府は同事業を通じて発電資源の最適化電圧の安定化、電力需給の自動調整機能の向上等により、送配電の効率化及び再生可能エネルギー産業を促進するほか、先進的電力設備産業の育成や二酸化炭素(CO2)の削減も展望しているようです。
スマートグリッド整備の投資計画
スマートグリッドの整備に向けて、国家電網は送電網の整備と電力系統のスマート化を合わせて、3.5 兆元(約50 兆円)の大規模投資を計画しています。同計画では、2009~2020 年までの電力系統スマート化向けのロードマップを計画しており、期間を3 段階に分けて、夫々において発電から変電や管理調整まで6 つの分野に渡り、用電情報システムや配電自動化システム等の関連技術開発等を含む構成内容も明文化されています。
注釈:
※1 Smart Grid (知的電力網)。人工知能や通信機能を搭載した計測機器などを設置して電力需給を自動的に調整する機能を持たせることにより省エネとコスト削減及び信頼性と透明性(公平性)を向上させるよう、電力供給を人の手を介さず最適化できるようにした電力網のこと。
※2 交流 1,000KV、UHVDC 直流+/-800KV の超高圧電網を中核に、関連の電力インフラを整備している。
地域別の投資計画についてみれば、スマートグリッドに関連する投資は、主要消費地である華北、華東及び華中地域に集中している一方、経済発展が遅れている西北及び東北地域では基礎的な電力インフラの整備が中心となっており、スマート化向けの投資は低水準に止まる模様です。このため、2020 年以降は西北及び東北地域の経済が発展するに伴い、同地域での電力系統スマート化の追加投資も必要となるとも期待され、投資規模が既存の計画より更に拡大する可能性も指摘されています。
海外企業のビジネスチャンス
(1)重電メーカー
中国におけるスマートグリッドの整備に当たっては、国家電網が事業主体となっており、これまでにインテリジェント変電所(※3)のほか、配電自動化システム及びスマートメーターの導入(※4)が既に開始されているほか、FACTS (※5)等の実証実験も動き出しています。
こうした中、中国のスマートグリッド整備は、重電メーカーにとって大きなビジネスチャンスとして期待されている一方、これまで実施されたスマートグリッド設備の公開入札の結果をみれば、殆どの受注は地場重電大手による寡占状態となっています。
この背景には、90 年代から海外企業から供与された技術を吸収してきた地場系重電大手の技術力は向上してきており、現状では、インテリジェント変電所やスマートメーターほか大半の製品が国産可能となっていることが挙げられます。尚、市場では、国内企業の技術力向上を狙う当局が、スマートグリッド向けの電力設備の調達において可能な限り国産品を採用するよう国家電網に指示したとの見方も一部で聞かれています。
こうした中、外資系の重電メーカーは独力で中国市場拡大の恩恵を享受することは困難とみられますが、国家電網の設備発注を受けた地場重電大手が海外企業との合弁会社からインバーター等のコア部品を調達している事例もあることから、コア技術を有する海外企業は地場企業との合弁事業立ち上げや生産能力増強ほか機能強化(※6)等により事業を推進していくことも有効な戦略と思料されます。
注釈:
※3 電力需給データの監視・分析や自動制御を通じて、資源利用や発電管理の効率向上が可能になる。中国では、四川の北川変電所や青島の牛山変電所等、7 つのインテリジェント変電所が相次ぎ運転を開始。
※4 国家電網は 2010 年に3,500 万個のスマートメーターを公開入札で購入し、北京・天津・上海等を中心に住宅向けの導入を推進している。
※5 Flexible AC Transmission Systems の略で、電力系統の安定化及び効率化を図る装置。
※6 ABB は、北京京儀控股有限公司との合弁会社の生産能力を増強(2010/3 月)したほか、Siemens は地場重電大手の栄信股フンと合弁会社を設立(2010/9 月)している。
(2)ソフトウェア・SIer
また、グリッド監視制御システムやエネルギーマネジメントシステム等の事業で先行している海外の大手SIer (System Integration) には参入余地があるとみられます。実際、足元では欧米系の大手関連企業の経営層が頻繁に国家電網を訪問し関係強化に注力しているほか、一部の企業は国家電網との共同研究体制を構築するなど、提携関係の確立を図っており、実証プロジェクトの受注を目指している模様です。尤も、国家電網は傘下のソフトウェアやSIer を手掛ける関連会社への発注を優先する傾向があるほか、海外企業は中国国内のサービス拠点数が少ないこともあり、海外企業が独力で受注することは容易ではありません。こうした中、海外のソフトウェア・SIer 大手は他社に先行している技術力を中国市場参入の切り札としつつ、国家電網傘下の関連会社と連合入札で受注獲得していく方法もあるとみられます。
今後の見通し
中国版スマートグリッドの整備に当たって、国家電網はロードマップを含む具体的な投資計画を初めて明文化しており、今後は事業の本格化に向けた大規模な投資予算も見込まれており、中国の電力市場はグローバルな事業を展開する電力事業各社にとって魅力的なマーケットとして期待されています。とはいえ、中国政府当局には地場企業の技術力向上や国産品の採用を優先する意図も伺える中、海外企業は独力で中国の事業を拡大することが容易でないとみられるだけに、海外企業は技術的な優位性を有する分野において、有力な地場企業との提携・協働や合弁事業の強化等の方法で受注獲得を模索していく必要もあると考えられます。今後中国では、環境問題にも配慮しつつエネルギー構造が変化していく可能性もある中、大規模な投資が見込まれる中国版スマートグリッド市場の進捗状況はもちろん、国内外の電力企業各社の事業取り組みが注目されます。
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