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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第6回

『東芝泰格信息系統(深圳)有限公司 須毛原 董事・総経理インタビュー!』

取材日:2013年5月13日


東芝泰格信息系統(深圳)有限公司
董事・総経理 須毛原 勲氏

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

中国の複合機市場において13年連続でトップシェア(KeyResearch社調べ)を走る東芝テックの現地法人、東芝泰格信息系統(深圳)有限公司様。全国1000社強の代理店網と6カ所の直販拠点を活用し、POS事業でも充実したサービス体制を構築、コンビニなど日系流通業を強力にサポートしている。 今回の「人物インタビューシリーズ」では、中国事業の先頭で指揮をとられる同社の須毛原勲総経理をお訪ねしました。

 

 

 

◆◆◆    現地化進む   東芝泰格信息系統(深圳)有限公司
                (東芝テック・インフォメーション・システムズ)  様    ◆◆◆

(弊社)

本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきまして有難うございます。 まず最初に東芝テック・インフォメーション・システムズ様の企業概要を簡単にお伺いしたいと思います。

 

(須毛原総経理)

 東芝テック・インフォメーション・システムズは、東芝グループ内では比較的早く中国進出を行った会社です。‘96年に深圳に輸出向けの工場を作りました。中国の国内販売については、その当時は、どこの企業もそうですが完成品を香港経由で輸入するというビジネスモデルでした。輸出向けの工場の一部を国内に販売できるという権利(内販権)を獲得し、工場から直接国内の販売代理店への販売を開始しました。時期を前後して、中国国内での事業を強化するために、上海に分公司を設立、中国の国内販売統括本部を設立しました。その後、北京、広州に、分公司を設立。現在は、全国11カ所に分公司を配しています。販売代理店の販売サービス網は約1000社をほこり、日本のある調査会社の調査で、中国におけるA3MFP市場にて13年連続トップシェア一位を維持しております。

 

(弊社)

 会社の規模ですが、上海・深圳はではどれくらいの規模で事業展開されていますか。

 

(須毛原総経理)

営業系で約400人弱(全支店)で、工場系の人数は3600人ぐらいですね。 上海の販売、マーケティング、サービス系では日本人4人です。

 

(弊社)

 かなり現地化が進んでいますね。

 

(須毛原総経理)

そうですね。 更に言うと、私自身は出張が多いので、上海不在も多いですから0.5以下と考えると、もっと日本人の割合は少なくなります。

 

◆◆◆   海外営業畑を歩んで   ◆◆◆

(弊社)

 ところで、総経理の御出身は営業畑ですか。

 

(須毛原総経理)

1985年に東芝に入社、第三国際事業部の配属になり、当時は現在のような複合機や複写機ではなく通信機器で、且つ、アメリカの現地法人を担当しました。それからずっと海外畑です。 現在の上海には丸9年います、その前にはシンガポールに5年9ヶ月いました。3ヶ月だけ日本に帰っていますが約15年間出っぱなしという事になります。現在は、上海にいながら、東アジア、東南アジア、中近東、アフリカの事業も統括する立場にあります。

 

(弊社)

 中東、アジアの責任者を上海においているわけですね。

 

(須毛原総経理)

中国の市場と,東南アジアの市場はお客様が望まれる商品の特性も似ており、価格帯も欧米に比較して低いという似たところがあります。 東南アジアも含めて広い範囲の市場を見てきた自分なりの経験を活かして、市場にあった商品企画、マーケティングをしていくということが使命と考えています。 まさに今年、我々が「中国で企画した商品」を上市しています。商品開発コード名は「龍」「鳳」という双子のようなシリーズになります。(実際、中国では龍鳳は、夫婦のようにして言われることが多いですが) 2年ほど前に、上海にいる我々が、「中国でこういう商品を出したい」という企画を提出して開発コードとして認めてもらったものです。コンセプトも中国のプロダクト・マーケット・チームが中心になって作り上げた商品です。これは中国国内だけでなく、東南アジアや世界中の所謂新興国と言われる市場でも十分に通用するものと考えています。

 

(弊社)

 ということは、企画・発案から生産まで全て中国サイドで行った商品ということですか。

 

◆◆◆   街の視点で商品開発   ◆◆◆

(須毛原総経理)

勿論、東京の本社の商品部、設計部隊も計画には参画していますが、商品コンセプトの骨子は中国で中国人のチームで企画したと言うことです。商品企画に関しては、市場に常に接している我々が、お客様の視点、販売代理店の視点から、ウオンツ、ニーズをくみ取って、商品企画につなげていきたいと常々考えております。

 

◆◆◆   上海での暮らし   ◆◆◆

(弊社)

 ところで、上海に9年滞在されているということですが、上海での暮らしはいかがでしょうか。

 

(須毛原総経理)

日本帰国や海外出張、中国内出張で飛び回っていますので上海にいるのは月の1/3くらいになります。 生活、食事等では特に不便を感じたりはしていませんね。

 

(弊社)

 お休みにスポーツ等はされていますか?

 

(須毛原総経理)

日系企業の駐在さんと同様で、ゴルフが多いですね。

 

(弊社)

 ちなみに、おいくつくらいで周りますか?

 

(・・・・この後、中国各地の名物コースのお話、大連の山有り谷有りのスキー場のようなコースの話、レッスンプロに教わったのにコースにでたら・・・、上海は練習場が少ない・・・等等 大変楽しいお話を聞かせて頂きました。 ・・・・で、結論としまして「須毛原総経理は大変ゴルフが上手(!?)」ということですが・・・・・残念ながら紙面が足りません。詳細は割愛させていただくということで次に進みます。  編集)

 

◆◆◆   日系企業の「C+1」の動きはどのようにお考えですか   ◆◆◆

(弊社)

 話をビジネスに戻します。 総経理の経歴を拝見しますと、中国だけでなく、東南アジア、中近東、アフリカ等様々な地域の市場を経験されているようです。 マーケットとしての中国には興味を抱きながらも、他の地域にマーケットや生産拠点を移していくという「China + 1」の動きをどのようにお考えですか。

 

(須毛原総経理)

中国は人口が大変多い国です。又、政府の方でも1,2,3級都市のみならず4,5,6級都市も含めて都市化ということを大きな方針として掲げています。これは市場として見た場合、かなり大きな可能性と言えます。 私自身、この9年間で100都市以上廻っています。 それぞれの都市を訪問して、街がどんどん発展しているのを実感しています。空港を作りすぎだとか、殆どは赤字経営だとかの批判もあるかと思いますが、高速道路や新幹線等も含めて、交通インフラが急速に整備されていることは、今後の発展の礎になることは間違いないと思います。製造拠点としての中国に加えて、他の地域での製造を考えるというのは常に必要なことだと思いますが、市場としての中国を考えた場合、まずは、人口の多さ。都市の広がり、交通インフラの整備等を考えると、この先も多少の紆余曲折はあるでしょうが、やはり、成長していくと言うことは間違いないのではないかと思います。

 

◆◆◆   中国の経済成長の変動とイノベーティブな商品企画   ◆◆◆

(弊社)

 中国の経済成長が鈍化しているという論調があります。 又、そうではなく内需を喚起し、安定成長型にシフトしているという論調もあります。 総経理はどのようにお考えですか?

 

(須毛原総経理)

実際のところ景気は悪いです。 2011年のヨーロッパの経済不況に始まり、その影響を受けて、2012年の春さきから、最悪の1年ですね。

 

(弊社)

 輸出依存型企業が良くないから、中国経済が下降しているという分析でしょうか。

 

(須毛原総経理)

そうですね。 欧米企業、日系企業の売上が厳しくなり、その影響で中国政府の税収が減ります。その結果、政府は予算を縮小し緊縮財政になる。 実は、我々の商品は政府依存度がかなり高いところにあるので苦しいところです。 こういう状況の中で、今後、我々も今までのやり方では駄目で、こちらからチャンスを作っていかなければいけないと考えています。 先ほど申し上げました「龍」「鳳」の中の、「鳳」という商品がまさにそれで、非常にイノベーティブな、今までにないコンセプトの商品を出しています。

 

◆◆◆   IFアワードへの道のり   ◆◆◆

(弊社)

 それは、どのような構想ですか?

 

(須毛原総経理)

これは、業界内の話になりますが、複合機業界にはA3機とA4機があり、商品的にも価格的にもギャップがあります。我々はA3機とA4機の丁度真ん中を行くというコンセプトで商品を企画しました。 実はこの企画で、ドイツの有名なデザイン賞のIFアワードという賞を獲得しています。 IFアワードというのは、デザイン界のオスカー賞みたいなもので、例えば大学で工業デザインを学んだ人が夢にまでみるのが、この賞と言われています。東芝のMFPの30年以上の歴史で初の快挙になります。同業他社もこの10年間A3MFPでは誰も受賞しておりません。

 

◆◆◆   リバース・イノベーションへの挑戦   ◆◆◆

(弊社)

 そのような構想に踏み入ったきっかけはどのようなものですか。

 

(須毛原総経理)

何故、これをはじめたか・・。 2年前、ちょうど、10年連続ナンバー1を成し遂げたときに、実は私の中でのすごい危機感がありました。 このままのやり方で、ナンバー1を維持し続けることが可能なのか、仮に一位を死守し続けたとしても、採算性の取れる事業として成り立ち得るのか。新しい商品を開発、市場に投入しても、3ヶ月後、6ヶ月後には、他社も同様な商品を市場に投入し、自分たちの商品は競争力を失ってしまう。価格はどんどん下がり、販売を伸ばしても収益を確保出来なくなってしまう。既存の商品の単なる機能の改善では戦えないのではないか。「そして、そもそもそれで楽しいのか・・」と。 それで、今までにない(ちょっと発想をかえた)商品案を企画したところ、担当部署や本社から「おもしろそうだ」という賛同者を得て、「どうせやるならデザインも中国で」という、会社全体の挑戦として発展していきました。

 

(弊社)

 イノベーションですね。

 

(須毛原総経理)

ちょうど、その時期に、私が受講していた社内研修会でイノベーションの講義がありました。 講義の中で、「我々がイノベーションに関して耳にするのは成功例しかない。 失敗例はあまりきかないが、実は企画の99.99%は失敗している。」というお話を聞きました。 イノベーションにかけるということは、99.99%のリスクにかけることになる。これはすごく不安です。 マーケットリサーチ等の事前準備は当然行いますが、聞き方も難しいし、なかなか情報が集まらないところもあります。この製品も当初の反応は7割方否定的でした。 また、これが実は最も実践的には大事かつ大変なのですが、新しいアイデアを実現するということは、様々な局面でひとつひとつ説得していくことが必要となります。最終的に実現へと持っていくのは、個人の力ではあり得ません。チームの力が結集して始めて商品という形に繋がります。“正しい”成功というのは皆の力で実現されるものです。今回の企画を通じて、このことを本当に学びました。 あとは、とにかく、やはりいい商品を作りたいという熱意ですね。 自分はやはりメーカーかなと思っています。

 

(弊社)

 日本の礎をつくったのは、やはり製造業でしょう。

 

(須毛原総経理)

物を作るという事は、本当に素晴らしい事だと思っています。 物を作るという事は価値を創るという事で、その価値がどんどん広がり,繋がっていくということは、すごい事だと思っています。 ところで、リバーシブル・イノベーションが最近さかんに叫ばれています。 東芝内でもリバーシブル・イノベーションの重要性が議論されています。   上海で企画開発した「龍」「鳳」も、当初は必ずしもそのコンセプトで作ったわけではありませんが、まさにリバーシブル・イノベーションの価値を持つと考えています。 過去連続して達成してきたシェア1位の成績の商品に安住することなく、チャレンジし続ける意味は大きいと思っています。 そのほかに「消えるトナー」を使った複合機の販売企画も進んでます。 これも、ある意味でイノベーティブな価値を持っていると思ってます。 やはり、今こそイノベーティブな発想、今までにない企画を発信することが必要だと考えています。 今後の中国市場の成長性を考えるなら、欧米向け商品のダウンサイジング的な発想での市場アプローチはすべきではないというのが私の考えです。

 

(弊社)

 御社で展開されている、非常にイノベーティブな販売企画は大変貴重なお話だと思います。 有難うございました。 ところで、御社では複合機の他に、どのような商品を取り扱っていらっしゃいますか?

 

◆◆◆   POS事業、サービス事業で日系流通業の発展へ取り組む   ◆◆◆

(須毛原総経理)

日本でTECのブランドでナンバー1シェアを確保しているPOSやバーコードプリンターも扱ってます。

 

(弊社)

 御社のホームページを拝見させていただきますと、サービス分野で物件紹介や人材派遣、HRコンサルティング、出展サポート、会社開設コンサル等の事業もあります。 HR専門の弊社(中智日企)からみても大変興味のある分野なのですが、御社ではどのように展開されているのですか?

 

(須毛原総経理)

言ってみればPOS周辺のサービス事業となりますが、流通業界のお客様が、初めて中国上陸されたとき、やはり判らないところがいっぱいあります。流通業界は結構厳しい業界で、店舗展開の時の収益性判断や、店舗開設までの煩わしい手続き等、様々な課題を抱えていらっしゃいます。こちらにこられた駐在の方で、戸惑った経験を皆さんお持ちだと思います。 当社には上海での長年の経験値が蓄積されています。私どもは、その蓄積した情報で、流通業界さんへお手伝い出来たらと考えています。

 

◆◆◆ その場その場で後悔しない生き方。 本当にやりたい挑戦か? ◆◆◆

(弊社)

 最後に、今後事業を進めていく上で、須毛原総経理の基本的な心構えなどをお聞かせいただけたら幸いです。

 

(須毛原総経理)

その場その場で後悔しない生き方をしたいですね。 先日、我々が年に一度開催する全国ディーラー大会(約300社が参加)を大連で開催しました。そのキーノートスピーチとして、約30分間のプレゼンをしたのですが、全て、中国語で且つ原稿を見ずにやりました。九年間も中国にいますから、中国語もある程度話しますが、何も見ないで30分間のプレゼンを中国語でやるのは、流石に、簡単ではないです。原稿を書いて、直して、自分の発音では通じそうもない単語を他の単語に変えて、その作業をスタッフと共に、繰り返して、プレゼンを創り上げます。最後に暗記して、何度も何度もリハーサルをして、プレゼンに望みます。 そこまでやる必要があるのか。日本語でも英語でも喋って通訳してもらった方がよっぽど簡単で意味も通じるのではないかという考えもあると思います。 でも私個人は、そこの努力を重要だと思いたい。 先ほど申し上げた社内研修会でのイノベーションの講義で講師をされた京大の教授に質問しました。 「99.99%の企画はイノベーションに失敗する。イノベーションに失敗すれば、社内でのその人の立場は当然危機にさらされます。それでも挑戦するか、しないかの判断はどこでおこなうでしょうか・・」と。 教授はこう答えました。「答えになるかどうかわかりませんが、それは本人が本当にやりたいかどうかだと思います。」 私はその通りだと考えています。

 

(弊社)

 私も自分自身が楽しくないのにやってる仕事は、多分受け入れてもらえないとおもっています。

 

(須毛原総経理)

結局は、何もしないリスクの方が、何かするリスクより大きいんですね。

 

(弊社)

 技術革新をはかることで、少なくとも現状が見えてきます。 その意味でも私は賛成です。

 

◆◆◆   異文化コミュニケーション   ◆◆◆

(須毛原総経理)

長年、海外畑を歩んで50カ国以上の方々とビジネスをして、本当に色々な人たちとお会いしました。 異文化コミュニケーションという言葉があり、お互いに「異なる」ところに目がいきがちですが、私はむしろ異ならない部分(コアの部分)に普遍性があって、それを大切にしたいと思っています。例えばキリスト教でいうゴールデンルールのようなもので、「人にして欲しくないことは人にしない」「自分がして欲しいことを人にする」等です。 そういう姿勢で、色々な方々と接していきたいと考えています。 又、国や立場が異なっても、肌の色、宗教、性別が異なっても、先入観なく客観的な判断を下して行きたいと思っています。 スタッフと付き合う時も同じで、日本人、中国人に拘らず、いいところと悪いところをちゃんと見ながら、やっていきたいと思います。

 

(弊社)

 本日は、新商品企画のお話、イノベーションのお話、異文化コミュニケーションのお話といろいろ貴重なお話を伺うことができました。 有難うございました。