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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第7回

『上海日野發動機有限公司 仙波 洋 総経理インタビュー!』     取材日:2013年7月15日


上海日野發動機有限公司
総経理 仙波 洋氏

  ● 「工会」活用が「人材定着」に奏功

  ● 賃上げ圧力には”KAIZEN"で対応

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

日野生産方式の全面導入のもとディーゼルエンジンの製造・販売を手がけ、確かなブランド構築に成功した上海日野発動機有限公司。今年は設立から10周年。景気後退や労働コストの上昇圧力などの課題に直面しながら、果敢に経営改革に挑んでいます。今回は、同社の「工会」対応とサラリーマネジメントにおける取り組みについて、仙波洋総経理に伺いました。

 

◆◆◆    【ディーゼルエンジン市場で攻勢】  ◆◆◆

(弊社)

本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきまして有難うございます。 御社は合弁会社として設立、ディーゼル・エンジンの領域で確かなブランド構築に成功しています。まずは、その辺りのお話をお聞かせいただけないでしょうか。

 

(仙波総経理)

 じつは2003年11月の設立以来、株主構成も変遷していますので、若干の説明が必要かも知れません。

 当初の合弁相手は上海柴油股莉ス有限公司(上海ディーゼル)でした。その親会社が上海電気集団です。やがて上海ディーゼルがグループから切り離され、上海汽車集団へと売却されると、合弁相手は上海電気集団へと引き継がれるわけです。08年のことでした。その後09年秋に立ち上がった広州日野(広汽日野汽車有限公司)がトラック生産を始めると、今度は広汽集団が上海日野発動機に資本参加することになります。結果として、現在の資本金構成は日野自動車が50%、広汽集団が30%、上海電気集団が20%となっています。

 

(弊社)

 中国のミキサー車市場で相当のシェアを獲得されていると伺いました。

 

(仙波総経理)

弊社は、中国市場の特色に対応する為、エンジンの一般売りという事業展開をしており、グループ会社の広汽日野はもとより、三一重工、安徽華菱、コベルコ建機等が主要顧客となっています。主力製品にはP11C、J05E、J08Eの三種があり、P11Cのミキサー車市場におけるシェアはざっと25%にのぼっています。コベルコ建機様向けJ05Eは日野自動車から生産委託されたもの。J08Eは台数は多くありませんが、バス用の製品として各社に納めているものです。

なお、「4兆円」を投じた当時の景気刺激策の影響もあり、2010年には販売台数が2万台を超えるという好実績を残しました。しかし、その後は中国経済の減速に伴い、今年度の販売台数は1万6千台弱を見込んでいます。

 

◆◆◆    【工会との良好な関係構築】  ◆◆◆

 

(弊社)

 中国には「工会」という特別な結社が認められています。御社ではざっとどのような位置づけがされていますでしょうか。

 

(仙波総経理)

弊社の工会は専属職員を有さず、主席1名を含む5名の工会委員、41名の社員代表によって構成されています。代表の選定にあたっては幹部の比率を20%としています。賃金や福利、労働環境、作業条件、勤務制度といった事柄に関するさまざまな要求が経営サイドに持ち込まれてきますね。

(弊社)

 総経理が中国に赴任されて3年半。これまで「工会」対応に戸惑うことはありませんでしたか。

 

(仙波総経理)

とくにありません。総経理として赴任当初はどんな展開になるだろうかと戦々恐々としていました。しかし、フタを明けてみると、(工会は)それほどシビアな待遇改善の要求を突きつけてくるわけではなく、ベースアップの要請についても幅を持たせた数字を提示してきました。正直、随分と、経営情況を踏まえた要求をしてくるものだなという印象を受けたものです。

もともと日野自動車本体にはユニオンショップ制が敷かれ、労使協調路線を歩んできた背景があります。こちらの工会も、そんな「お互いに発展していこう」という考えをベースにしているように感じています。

 

(弊社)

 作業環境についてはどんな要望が持ち込まれるのでしょうか。

 

(仙波総経理)

そうですね。ちょっと面白いと思ったのは社員食堂に関する要求がありましたね。食事の「質」の改善ではなく、「量」を増やせと(笑)。その後、人事部で「増量」に応じましたが、食堂を預かる従業員のおばさんまでが、いろいろ気配りをして、食欲旺盛な従業員には最初から量を多く盛り付けるなど対応をしているようです。

 

(弊社)

 なんとも微笑ましい光景ですね。とりあえず経営側と工会との関係は良好と見てよろしいでしょうか。

 

(仙波総経理)

ええ。弊社の離職率はせいぜい5%台です。低いレベルに抑えられているのも、工会のメンバーに負うところが大きいといえます。彼らには、従業員の事情をよくヒアリングし、フィードバックするように伝達しているのです。いわば経営側と従業員との間のより良きパイプ役を工会に担ってもらっているのです。

 

(弊社)

 企業によっては、経営層が従業員に監禁されたり、ストライキに発展したりするなど、何かと工会対応に苦戦しているケースも少なくないようです。

 

(仙波総経理)

経営側が工会に対応する際に必要なのは、できることとできないことをはっきりさせることだと思います。弊社は合弁会社ですから、中国側のステークホルダーの意向も配慮しなければならないなど、独資の会社と比べると意思決定がスムーズにいかないこともあります。しかし、面倒な法対応や現地独特の商慣習などは合弁パートナーに任せ、日本側は安全・品質や生産管理・原価低減に専念するという役割分担のなかで、合弁のメリットを十分に生かしていくのも一つの手だということです。

 工会対応も同じ。きちんと腹を割って従業員の考えを吸いあげていくことで、より良い経営につなげていくことが可能だといえるでしょう。

 

◆◆◆   【「賃上げ」圧力への対応】   ◆◆◆

 

(弊社)

 賃金制度の変更はリスキーなことかと思いますが、御社では如何でしたか?

 

(仙波総経理)

総経理に着任してから、私は給与テーブルを全面的にいじりました。ベース賃金や資格・等級といった面で制度が不備だったことから、従業員によっては業務に対するモチベーションが上がらずにいるのではないかと考えたからです。

 職位のレンジと昇給ピッチの関係を細分化された一覧表にし、それに基づいた考課、給与査定を行うなどの改革を行いました。幸いにして、昇格制度が明確化され、公平な改革が行われたのはよかったと工会からも好意的に受け入れてもらいました。

 

(弊社)

 賃金コストの上昇圧力が毎年増大しています。

 

(仙波総経理)

毎年2桁以上のペースで人件コストが上がっているのですから、確かに厳しいものがあります。弊社も、売上比率でざっと3年間で2、3%の上昇がありました。ただ、その「賃上げ」圧力を、まずは費用削減努力で吸収していこうというのが私たちが掲げる目標であり、あまりネガティブにはとらえていません。

 まずは“KAIZEN”を旗印に5%の生産性アップを掲げています。QCサークルにどうやって取り組むかなど、現場で取り組むべき課題は他にもいろいろありそうです。

 なお、就業規則を整備する過程で、罰金制度を設けるなどの措置をとる会社もあるようですが、弊社ではこうしたアプロ―チは一切していません。離職者に対して秘守義務のを守るように要請することはありますが、こちらも未だトラブルに発展したことはありません。

 

(弊社)

 生産現場のKAIZENを進めるうえでハードルがあるとすれば何でしょうか。

 

(仙波総経理)

そうですね。中国ですと、すべてが結果第一。たとえば自分達が取り組んでいる課題の出来、不出来はお構いなしに、とりあえず販売台数が伸びて、利益が増えたからいいじゃないかという話になってしまう。日本はプロセスを過剰重視するあまり、準備・分析等の為に多くの資料づくりに没頭してしまうという全く反対の弊害があるけれども、中国における作戦不足、結果の過剰重視もまた問題だといえそうです。中国の「結果優先主義」と日本の「プロセス管理」がうまく融合してくれるといいなと思っています。

 

◆◆◆   【「三遊間」の取りこぼしをなくせ】   ◆◆◆

 

(弊社)

 従業員一人ひとりに期待されたいことは?

 

(仙波総経理)

すでにいろいろな取り組みをしています。たとえば、年度の目標、重点項目、毎月のKPI、具体的実施計画、評価、反省といった事柄をシートにまとめ、各部門ごとに管理する活動を行っています。目標を明確にし、課題の進捗プロセスを「見える」化する為です。

喜ばしいことに、先日、その成果が手応えとして感じられる出来事がありました。日野本社の市橋(保彦)社長が、6月21日付で代表取締役に就任するや、上海日野視察にこられたのです。日本のトップ来訪となれば、日本人がまず応対するのが通例でしたが、私は敢えて課長クラスのローカルスタッフに各部門の課題推進状況の説明をさせました。結果は合格点。担当者はポイントをしっかりと捉え、受け答えをしてくれ、新社長にもなんとか有意義な視察だったと思ってもらえたのではと自負しています。

 

(弊社)

 最後に「人事」マネジメントのうえで提言があればお聞かせください。

(仙波総経理)

中国の組織では、ひとつの例えでいうと、「三遊間」に穴ができて取りこぼしがでてくる事態が放置されることが少なくないと感じています。どういうことかというと、各部門が、自分の守備フィールドを守ることだけに関心がとどまり、全体のマネジメントの達成、管理といった点に考えが及ばなくなる傾向があるのではないかということです。

組織効率を上げるためには、異なる部門間での交流が必要です。別に長い時間をかける必要はなく、朝会やブリーフミーティング程度の交流であっても、毎日、地道に続けることで成果が期待できるのではないかと思っています。

 

(弊社)

 本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき、「工会」、「KAIZEN」のお話、地道なマネジメント活動のお話等、いろいろなお話を伺うことができました。 有難うございました。

 

 

 【仙波 洋氏のプロフィール】

 上海日野発動機有限公司 総経理。東京出身。1983年に日野自動車入社。経営企画部、日本経済研究センター出向、商品企画部などを経て2002年調達部第一調達室長に就任、エンジン部品のソーシングを担当する。この間、中国での現地法人設立プロジェクトにも参加。05年6月より調達部部長。2010年2月より現職として中国に着任。

 

 【上海日野発動機有限公司様 会社情報】

上海日野発動機有限公司
上海市奉賢区環境東路179号(201401)
Tel: + 86-21-67108800 Fax:+ 86-21-2322-3000
URL:http://www.shanghaihino.com/

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