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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『全日本空輸株式会社 津田 正弘 上海・江蘇地区総経理/上海支店長 インタビュー!』2025/7/31

<strong><font style="font-size:19px">中智日本企業倶楽部・智櫻会 経営者インタビュー 第110回 </font></strong>

中智日本企業倶楽部・智櫻会 経営者インタビュー 第110回

<strong><font style="font-size:19px">“人”と“モノ”で繋ぐ日中の空の懸け橋 </font></strong>

“人”と“モノ”で繋ぐ日中の空の懸け橋

<strong><font style="font-size:19px">——全日本空輸株式会社 津田 正弘 上海・江蘇地区総経理/上海支店長</font></strong>

——全日本空輸株式会社 津田 正弘 上海・江蘇地区総経理/上海支店長


 
全日本空輸株式会社
津田 正弘 上海・江蘇地区総経理/上海支店長

1973年、兵庫県生まれ。大学卒業後、当時の日本電信電話株式会社(NTT)に入社し約8年間勤務する。その後、全日本空輸株式会社に転職し、グランドスタッフとしての現場経験を経て、ネットワーク戦略部にて国際線の事業計画策定に従事、国際線の事業計画や中国路線の新規開設を担当する。この間、出張ベースで中国各地を数多く訪れる。その後、オペレーション部門での人事・総務・労務などの業務を担当し、2024年4月より全日本空輸株式会社の上海・江蘇地区総経理/上海支店長に就任。現地での生活と仕事を通じ、日々新たな視点を得ている。

全日本空輸株式会社(以下、ANA)は、1952年に当時としては世界的にも珍しい「純民間航空会社」として創業しました。わずか2機の小型ヘリコプターと28名の社員で出発し、幾多の困難を乗り越えながら成長を遂げてきました。1986年には国際線に進出し、翌1987年には中国定期便を開設。以来、日中間の航空ネットワークを拡充し、中国における事業展開は、ANAの国際戦略において常に中核を成してきました。今回は、2024年4月より全日本空輸株式会社の上海・江蘇地区総経理/上海支店長に就任した津田 正弘氏に、中国事業の現在と未来、そしてANAの根幹を支える“人”の力についてお話を伺いました。

 

◆◆◆ 創業の精神と岡崎嘉平太氏の想いを継ぐ中国事業 ◆◆◆

ANAの中国事業は、第2代社長・岡崎嘉平太氏の尽力なしには語れません。「1972年の日中国交正常化に際し、岡崎は民間の立場から日中友好に貢献し、当時の周恩来総理より『その井戸を掘ったのは、岡崎さん、あなたです』との言葉が贈られたという逸話は、今なおANAグループ内で語り継がれています。岡崎は『民をもって官を促す(=民の力で官を動かす)』という信念を持ち、日中友好の橋渡し役となることを目指して活動してきました。周恩来総理とも深い親交を築き、その想いは『日中の懸け橋となる』という形で、今もANAのDNAとして受け継がれています。1987年4月16日、岡崎嘉平太の90歳の誕生日にあたるこの日、成田=大連=北京線の定期便運航を開始しました。これは、航空輸送を通じて日中間の交流を支える“架け橋”としての役割を果たし続けるという岡崎の想いを具体的に実現した出来事でもあります」こうした歴史的背景もあり、ANAは中国市場を極めて重要な位置づけとしており、現在に至るまで中国路線に注力してきたと津田氏は語ります。



18年前、グランドスタッフとして勤務していた制服姿の津田氏


15年前、上海を旅行時の津田氏

 

◆◆◆ コロナ後、中国からの訪日需要の急回復と日本からの訪中需要の停滞 ◆◆◆

コロナ禍を経て回復基調にある航空市場において、ANAも運航体制の再構築を進めています。「現在は段階的な復便が進み、2025年7月時点では、上海(浦東/虹橋)、北京、大連、青島、杭州、広州、深圳、厦門(貨物便)の計8都市9空港にて運航を行っています。特に目覚ましいのが、中国発の訪日需要の回復です。中国からの渡航は、観光やグルメといったレジャー目的が中心で、まさに爆発的な回復を見せています」と津田氏は話します。

しかし、便数の少ない地点については、中国のお客様が求める“日本滞在時間を最大化できるスケジュール”と、ANAの運航ダイヤとの間にズレがあるという課題も浮き彫りになっています。「現在のダイヤは日本発のお客様に最適化されたスケジュールが中心で、中国発の観光需要に十分に応えきれていない面があります。ダイヤ構造の見直しは、今後の重要なテーマです」と津田氏は指摘します。

一方で、日本発の中国路線における需要は、回復のスピードがやや鈍いと津田氏はいいます。「観光目的での渡航については、円安の影響やパスポート保有率の低さなどの要因により、依然として本格的な回復には至っていません。ビジネス渡航は徐々に戻りつつあるものの、かつて多く見られた駐在員の家族帯同といった渡航形態は減少傾向にあります」津田氏は、航空市場全体としては、日中双方でビジネスとレジャーの需要がバランスよく整うことが、安定的な事業運営において極めて重要だと強調します。「訪日需要の獲得はもちろんですが、中国市場が持つ大きなポテンシャルに改めて注目し、日本から中国への渡航需要についても積極的に掘り起こしていきたいと考えています」


 

◆◆◆ 差別化の鍵は“人"にあり――ANA’s Wayの実践 ◆◆◆

今年の新春賀詞交歓会で開催された中智日本企業倶楽部・智櫻会の経営者語録発表式では、津田氏は寄稿者代表の1人としてスピーチしました。「発表式では非常によい機会をいただきました。その際私がお話させていただいたのは、『航空ビジネスは非常にシンプルなビジネスモデルである』ということでした。航空事業を極めて単純に説明すると、“飛行機と空港と権益”があれば成り立つビジネスであり、ハードウェアによる差別化が難しい。だからこそ、ANAが重視するのが“人”による価値創出です。航空会社にとって最も重要な使命は安全であり、それを実現するパイロット、整備士、客室乗務員、地上スタッフのすべてが連携し、基本品質を形づくっています。

2023年の創立70周年を機に、経営ビジョンも刷新され、『ワクワクで満たされる世界を』という新スローガンのもと、社員一人ひとりの挑戦を後押しする体制を整えています。この思想を体現するのが、“ANA’s Way”と呼ばれる行動指針です。安全・安心を軸に、お客様視点、社会への責任、チームスピリット、努力と挑戦の5つの価値観が共有され、日常業務や研修制度に反映されています」

ANAの中国事業は、すでに進出から30年以上が経過し、当初は新卒だった現地採用スタッフが現在では管理職に育つなど、人材基盤が強化されています。「上海支店の在籍スタッフは現在145名ですが、このスタッフとは別に、上海には現在115名の上海ベースの客室乗務員が在籍し、全体で260名がANAの品質を現地で支えています。客室乗務員の採用は日本本社で一括して行われますが、面接には支店長らも関与し、価値観のすり合わせがなされています。育成においては、日本語教育や安全訓練、ANAならではの接客作法など、国内採用者と同等の教育を実施しています。深夜便では睡眠中のお客様を起こさないよう『歩く音にまで配慮する』ような繊細な接客態度は、まさにANAが大切にする日本流ホスピタリティの象徴であり、中国でも実践されています」

一方で、現地化をさらに進める上では、日本人駐在員が意思決定を主導する従来型の体制から、現地スタッフが主体的に意見を出しやすい風土づくりが課題とされていると津田氏は語ります。「日中の良さを融合した運営を目指し、中国のスピード感や合理性を取り入れながら、日本の丁寧さも残す――そのバランスがこれからの鍵になると思います」


「『人』日系企業経営者&管理者語録」の発表式


発表式でスピーチする津田氏

 

◆◆◆ 中国から世界へ――愛されるエアラインを目指して ◆◆◆

ANAの中国域内では、2024年度から「ヒト・モノの日中交流を通じた多様なつながりにより、夢と希望にあふれる将来を創造し、愛されるエアラインになる」という新ビジョンを掲げています。このビジョンの下、社員一人ひとりが「愛される存在」となることで、地域社会やお客様とのつながりを強め、ANAブランドを高めていくことを目指していると津田氏は語ります。「世界中の航空会社が競い合う中、ANAにとっての最大の差別化要素は、“人”であり、最大の資産といえます。ANAは航空格付け会社・SKYTRAXから世界最高評価である『5スター』を12年連続で獲得するなど、国際的にも高い評価をいただいており、6月24日に発表された同社の最新の“World Airline Awards”でも、World’s Best Airport Services(世界最高の空港サービス)、Best Airline Staff in Asia(アジアで最も優れたスタッフ)の2部門において最優秀賞を受賞しました」

 

◆◆◆ 「承前啓後」に込める思い――過去を継ぎ、未来を拓く ◆◆◆

津田氏が経営者語録に記した「承前啓後」という言葉には、ANAの企業文化が色濃く反映されています。「“承前”とは、過去の経験や知恵、そして安全文化を継承すること。“啓後”とは、それらを基盤にしながら、次代へと価値を創出していく意思を表しています。特に航空業界においては、一つひとつの手順や文化が命を守る責任に直結します。世代間の知識・意識の伝承が不可欠であり、ANAではOJT、1on1、タウンミーティングなどを通じてその風土を醸成しています。また、中国に来てから特に感じるのは、私たちは国境を越える『橋渡し役』であると同時に、世代をつなぐ『橋渡し役』でもあるということです。先人たちが築いてきた日中の関係や信頼は、偶然の産物ではなく、地道な努力と熱い想いの積み重ねの上に成り立っています。その想いを風化させることなく、次の世代にどう伝え、さらに発展させていくか——それこそが、『承前啓後』の実践だと考えています。今の私の役割は、日中間のさらなる交流を促進し、相互理解を深めていくこと。こうした積み重ねこそが、未来の可能性を広げると信じています」


津田氏のメッセージ

中智の感想:

津田上海支店長は学生の頃、航空機のパイロットに憧れていたそうです。社会人になってからも、空に対する憧れは変わることなく、ANAに入社するチャンスを得ます。航空会社の使命について、人と人、文化と文化をつなぐ“懸け橋”だという津田支店長の言葉が印象的でした。「承前啓後」の言葉どおり、過去を継承し、日中の未来を切り拓く、ANAと津田支店長の挑戦のご成功を心よりお祈りするとともに、引き続き全力で応援させていただきます!



2024年、上海支店への赴任後間もなく中智股份へご来社


2024年11月15日 中智智櫻会会員企業代表として「上海への投資、未来の共有」に出席(後方左から2人目)
ザ・プリンスパークタワー東京にて

※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」