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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第9回

『上海訊優貿易有限公司 加藤 洋一 董事長 兼 総経理インタビュー!』  2013年9月11日


上海訊優貿易有限公司
董事長兼総経理 加藤 洋一 氏

  ● 「中国で売る」ための人事・組織とは?

  ● 消費者目線”で現地化の積極推進を

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

上海訊優貿易有限公司は電子部品、電子材料の専門商社である三立化成株式会社の現地法人。液晶、半導体、プリント配線板等の供給を主とするさまざまなテクノロジーの提案を中国市場に向けて行なっています。中国が「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げた現在、「売るための人事・組織」はどうあるべきなのか、そのヒントとなる体験談や経営ビジョンを加藤洋一董事長兼総経理から伺いました。

 

◆◆◆    【ジョブホッピングに防止策はあるか?】  ◆◆◆

(弊社)

本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきまして有難うございます。さっそくですが、 加藤董事長は商社マンとして台湾、香港、大陸と、中華圏でのビジネスに長く携わってこられました。地域や都市によって雇用慣習や働く側の意識に違いはありますか。

 

(加藤董事長・総経理)

 中華圏はどこも共通しているのではないでしょうか。むしろ日本のほうが特殊だと考えたほうがよいでしょう。

 台湾の場合、大きな組織となると、大陸の「工会」に似た「福利会」というものがあり、従業員と会社とのパイプ役として機能しています。こうした組織を通して職場環境の改善などが図られることになりますが、一般的には福利に目が向けられることはあまりありません。日系企業は別として、台湾にある民族系企業はいたってアメリカ的なのです。

 働く側も企業への帰属意識は低く、工場労働者ともなれば仕事を選ぶときのモチベーションはハイリターン。ホワイトカラーが企業を選ぶ場合は、「やりがい」や「自分を育ててくれる」といった企業カラーなどがファクターとなるでしょうが、台湾と大陸で働く側の意識に大きな違いはないでしょう。

 

(弊社)

 ジョブホッピングも多いのでしょうか。対応策はありますか?

 

(加藤董事長・総経理)

 台湾も多かったですよ。通常、社員が離職したいという意思表示をしたときは、次の行き先がすでに決まっているものです。慰留は困難であり、意思表示がある前に察知することが大事でしょうね。

 社員に会社の魅力をアピールすることも必要です。弊社の場合は、商社で働くことの喜びを知ってもらい、理解してもらうように努めています。商社とは何なのか、なぜ私たちの会社ではこういう仕事ができるのか、日本からモノを買っているのかといったことを細かく説明しているのです。

 

 

◆◆◆    【“商社”のコンセプトは「産業格差の橋渡し」】   ◆◆◆

 

(弊社)

 中国(大陸)の人に「商社」の概念やその機能を説明するのは難しくありませんか。貿易会社と考えている人も少なくありません。

 

(加藤董事長・総経理)

 商社とは日本の経済成長に合わせてできた特殊な経営組織であり、むしろビジネスマネジメントに重点がおかれているといえます。

 トレーディングの成果によって手数料を受け取るコミッション・マーチャントというのは、単に商社の機能の一部分をとらえているに過ぎません。オーバーサプライとなった製品の「在庫機能」を担うことでメーカーの「生産調整機能」を果たしたり、蓄えた外貨をもって「海外投資」を行ったり、また、繊維業界の振興を日本が目指していた時代では、中小のリテール業者に対して手形決済など融通を利かすことで「金融機能」の役割を演じたこともありました。

 

 

(弊社)

 総合商社と専門商社の違いについてはいかがですか。

 

(加藤董事長・総経理)

 専門商社は扱うジャンルが限定され組織の規模が小さいわけですが、じつは総合商社も専門商社の集まりと見ることができます。「異国との産業・技術格差の橋渡し」というコンセプトを備えているという点では同じではないでしょうか。

 弊社上海法人は、液晶と半導体の中国市場、主に華北・華南地区をターゲットとした供給を行うことをミッションとしています。大陸は台湾や韓国とは異なり、用途開発や素材開発が進んでいないため、こうしたビジネスが成り立つのです。

 

 

◆◆◆    【組織活性化のためのコミュニケーション】  ◆◆◆

 

(弊社)

 上海に赴任されて以降、人事面でトラブルに遭遇したことはありますか?

 

(加藤董事長・総経理)

 人事政策上のトラブルは幸いありません。ただ、北京、黒竜江省、湖南省、浙江省など外地出身の社員を抱えていることで、当初は手続き面で戸惑ったものです。たとば「戸口(Hukou;戸籍)」の問題があります。これを理解するのが大変でした。

 日本と違って就業の際に保証人を添えることは物理的に彼らにはできませんから、私は社員の生活や家族環境を十分に把握するように実践しています。

 社員に会社との一体感をもってもらうことも重要でしょう。社員のケアをしておかないと会社は給与をもらうだけの場所となってしまいます。会社に来て楽しいという雰囲気づくりが必要ですね。そのために社員旅行も実施しましたよ。先日は、天目湖にもでかけました。

 

 

(弊社)

 楽しく仕事ができるなら社員としてもモチベーションが刺激されます。

 

(加藤董事長・総経理)

 コミュニケーションはやはり大事です。私は、会社を黒字にすることがミッションであると同時に、日本の文化、経済の橋渡しをしていきたいという自身のビジョンを社員に伝えています。私もじつに楽しく仕事をしているように見えませんか(笑)。

 なお、「商社は人なり」といわれるように、究極的には商社の活力は個人に行き着きます。そのため、社員には、会社の業務が楽しくできるための商品知識、仕事の知識を得てもらうために、日本へトレーニングに行かせています。事業を推進していくのは人であることを理解してもらいたいという配慮からです。

 そして、信頼できる現地人材が中間管理職に就き、彼らがコアになって、本社と現地法人との間のパイプ役を担ってこそ、現地法人がうまく回っていくといえます。

 

 

◆◆◆    【業務環境に応じて勤務形態をフレキシブルに】  ◆◆◆

 

(弊社)

 商社の人事部にはどんな特徴がありますか。

 

(加藤董事長・総経理)

 商社の人事は大変ですよ。日本の人事制度が海外法人では通用しないからです。国によって通貨も違えば、法律、雇用制度までが異なってきます。中国でも深センと上海では制度が異なってくるのですから想像に容易いことでしょう。

 そこで、現地法人の人事は現地の人材に任せるにしても、本社では出向者の人事管理のためにきめ細かな配慮を行う必要がでてきます。

 総合商社の管理部門ともなると、人事、総務、法務とそれぞれスペシャリストが業務を担当し、現地事情を把握するために、彼らは各地を巡回し、ヒアリングに努めることになります。いまでは、銀行、メーカーなども「出向協定書」等の就業規則を整備していますが、元はといえば、こうした制度やノウハウは商社にしか存在しなかったものです。

 

 

(弊社)

 「人事」もタフなら、前線はさらにシビアな労働環境に置かれているという業界イメージがありますが、就業形態はどのようになっているのでしょうか。

 

(加藤董事長・総経理)

 商社の場合、一つの会社にいろいろな業種があります。業種ごと、担当地域によって就業形態も異なり、勤務形態をフレキシブルに運用していくことが必要になってきます。

 その理由の一つに「時差」の問題があります。とくに欧米企業を相手にすれば、日本と夜昼が逆になります。深夜でも、平気でかかってくる電話に対応しなければならないのです。

 弊社では、時差の問題はありませんが、我々が納めた装置、設備のアフターサービースを行うエンジニア2名が無錫に夜間でも待機しています。そこで、祝日出勤した場合は代休をとってもらうなど、勤務形態に融通を効かせるように対応しているのです。

 

 

◆◆◆    【“消費者目線“に立ち雇用リスクをチャンスに】  ◆◆◆

 

(弊社)

 台湾と同じく、大陸も大きな産業シフトを果たそうとしています。

 

(加藤董事長・総経理)

 チープレイバーを活用した組立産業によって産業活性化が図られた時代は終わり、中国国内市場をターゲットとした産業振興、新たな投資の創出が今日のトレンドとなっています。日本が30年かけて達成した産業シフトを中国は10年でなしとげたというのが実感です。

 そこで重要になってくるのが、中国市場に合った製品を開発し売り込んでいくという視点です。中国人のニーズを感知するのはやはり中国人。となると、中間管理職やエンジニアはすべて中国人にしなければいけないでしょう。

 

 

(弊社)

 現地化の推進が求められているのですね。

 

(加藤董事長・総経理)

 「消費者目線」からの人材登用が必要であるということです。女性を積極的に登用していくことや、攻めるエリアによって異なる人材を確保することも大事でしょう。

 日本でも女性を重要なポジションに就かせるケースが増えてきたのは、食料品、化粧品、アパレルといった領域では女性のほうが「消費者」として感性が鋭いことによります。中華圏では日本よりさらに女性の登用が進んでおり、取引先のメーカーの部長や管理職が女性だったりすることもあるくらいです。

 また、寒冷地と温暖地で身にまとうものが違うように、エリアによって消費者が欲しいものが違ってきます。すると、地域のニーズに合わせた商品を開発しなければならず、外地出身者を雇うことが、リスクというよりも、チャンスになるのではないでしょうか。これまで上海、北京、広州、深センを拠点に考えていた人材雇用のあり方も自ずと変わってくるはずです。

 いずれにせよ、これまで13億という市場をターゲットとした経験をもつ企業はどこにもなく、未知のチャレンジであるといえそうです。

 

(弊社)

 本日は中国市場での商社活動における、人事側面の貴重なお話をうかがう事ができました。本日はお忙しい中、大変有難うございました。

 

 

 【加藤洋一(かとう・よういち)氏のプロフィール】

 福島県出身。1971年、横浜市立大学商学部卒業後、兼松江商(現兼松(株))に入社。以降、長きにわたりエレクトロニクス関連の国際貿易業務に従事する。中華圏でのビジネスにも豊富な経験をもち、台北に1978年以降、2回、計11年間駐在したほか、1996年から3年間、香港に現地法人副社長兼深セン事務所長として赴任している。2010年、三立化成株式会社の上海現地法人である上海訊優貿易有限公司董事長・総経理に就任し現在に至る。

 

 【上海訊優貿易有限公司  様 会社情報】

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