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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第12回

『万宝至馬達(上海)有限公司 新地秀樹 董事・総経理インタビュー!』  2013年12月19日


 
万宝至馬達(上海)有限公司
董事・総経理 新地秀樹 氏

  ●  克服したい組織の「壁」と異文化ギャップ

  ●  現地人材にキャリアパス設け一体感を

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

世界の小型モーター市場で圧倒的なシェアを誇るマブチモーター。グループ創業60周年を目前に控え、主要な海外販社である万宝至馬達(上海)有限公司も新たなステージに向けた挑戦を始めています。自動車電装機器関連のニーズ拡大を追い風に、今後も二桁成長を目標に掲げる上海マブチ。内販拡大に向けた人事面での取り組みについて、新地秀樹 董事・総経理に現状や課題、方針について伺いました。

 

◆◆◆    【中韓で悟った異文化ギャップ】  ◆◆◆

(弊社)

本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきまして有難うございます。さっそくですが、御経歴から質問させていただきます。昨今風運急を告げるアジアですが、 新地総経理はかつて12年も韓国に赴任されていたのですね。

 

(新地董事・総経理)

 ええ。駐在を始めたのはちょうどソウル五輪の開催で国中が活気にわいていた頃であり、その後、大田(テジョン)万博の誘致もあったりと、エポックメイキングな出来事が続いていた頃です。

 

(弊社)

 韓国のビジネススタイルに馴染めないところはありませんでしたか。

 

(新地董事・総経理)

 もちろん勝手が違いました。お互いにじっくりと意見交換を重ねながらビジネスの接点を見つけていく日本式のスタイルがなかなか通用しなかったですね。たとえば、韓国では、大手企業ともなると部品サプライヤーに対して頭ごなしに指示をしてくる傾向があります。それが私は腑に落ちず、相手が顧客であったにも関わらず幾度となく抗議をしたものです。

 また、職場内も毎日が緊張の連続でした。韓国の縦社会のあり方を直接目の当たりにしてきたのです。駐在員である私はまだ良かったですが、現地スタッフは苦労の連続であったと思います。もう少し褒めてあげればいいのにと思うこともしばしばで、私がいた時は、長続きするスタッフは少なかったように記憶しています。

 

(弊社)

 韓国でもジョブホッピングが頻繁にあるのですか。

 

(新地董事・総経理)

 大企業にいても、やがては自分でビジネスを始めたいと思っている人は多いですね。あと、スピードが一番重要で、すぐにでも結論がほしいという点は中国と韓国は共通しており、お互いの立場を理解しながら、時間をかけて解決していく日本のやり方のほうが特殊でないかと思うほどです。日本の企業でも、業務処理をスピードアップできるよう、業務のあり方やシステムを見直し始めたところが多くなっていますよね。やはり、スピードが重要だということを、皆さんが感じ始めているためだと思います。 なお、韓国駐在を終えたばかりの私に「早く日本の感覚を取り戻せ」とはっぱを掛けていた上司から、今度は上海に行けと指示されたのは奇妙な巡りあわせですね(笑)。

 

◆◆◆    【変遷する主要マーケット】  ◆◆◆

(弊社)

 御社グループの発展の系譜を見ますと、常に先手をとるかたちで新興国に進出されています。

 

(新地董事・総経理)

 為替レートが1ドル360円の時代から世界を視野に入れていた創業者は、じつに先見性と進取の精神にあふれる方でした。会社理念である「国際社会への貢献とその継続的拡大」の中に、創業者の想いがぎっしりと詰め込まれていると思います。海外で安くモノをつくることだけを念頭に置いて海外進出を考えていたのではなく、マーケットが未成熟で予測がつかない国・地域であっても、そこに会社をつくり、人を雇い、そして従業員が裕福になれば、弊社のモーターが搭載された製品を買ってくれるはずだという発想が根底にあったのです。

 

(弊社)

 御社(上海マブチ)の位置づけはどのようなものでしょうか。

 

(新地董事・総経理)

 アジアの生産拠点は、大連、蘇州、ならびに広東地区、台湾、そしてベトナムに2カ所あります。これら拠点で製造される自動車電装機器、音響・映像機器・家電や光学・精密機器などを用途とするモーターを、華南地区を除く中国国内エリアに向けて販売、もしくはそのコーディネイトをすることが弊社の役割となります。重慶にも子会社を置き、内陸部のクライアントもカバーしています

 

(弊社)

 御社はもともとプラモデルのモーター部品を製造されていたという印象が強いのですが、いまや製品は幅広いジャンルに行き渡っているのですね。

 

(新地董事・総経理)

 玩具市場も大切な市場のひとつですが、既に、メインの市場ではなくなりました。一般の玩具の場合は、モーター購入のポイントが価格重視になってしまいましたからね。

 次の屋台骨となった音響・映像機器関連の市場についても、あいにくディスクを回すモーターの代わりにメモリが使われる製品が多くなり、また、カーオーディオ製品も含め、価格対応などで厳しさを増しています。

 いま伸びているのは、パワーウィンドウをはじめとする自動車電装機器関連の市場です。これらの領域で使われるモーターには品質がとりわけ重視されていることもあり、模倣業者に苦しめられる部分もありますが、マブチブランドが優位であると思っています。

 

◆◆◆    【駐在員を「課長」に就かせるな!?】  ◆◆◆

(弊社)

 ところで、御社で働く社員の内訳はどのようになっていますでしょうか。

 

(新地董事・総経理)

 駐在員が4名、現地人材が22名という陣容ですが、中国人社員の出身地はほぼ上海エリアに集中しています。かつて他地域の人材を雇ったこともありますが、程なく退職してしまいました。辞めた本人は環境に溶け込みづらかったとこぼしていました。

 たしかに地方出身者のほうがやる気あふれる人材が多いといわれます。しかし、住宅補助等のコスト負担増、すなわち、給与への反映を言われることもありますし、他の社員とのコミュニケーションや安定性という点でもリスクも想定しなければならないと思い知らされたものです。

 そのほか、予期しない出来事で退職していくスタッフもいます。人材が流出するリスクは常に存在しているといえそうです。

 

(弊社)

 経験者の中途採用が基本方針となっているのでしょうか。

 

(新地董事・総経理)

 一概にそうともいえません。他社でセールス経験があるとアピールしてくる応募者はたいがい高い待遇を求めてきます。しかし、弊社の場合、モーターという部品特性に十分な理解がなければ戦力とみなすわけにはいかないのです。

 したがって、未経験であっても、白紙の状態で新卒者を雇い、天塩にかけて育てていくほうが相応しいのではと思うこともあります。肝心なのは育成した人材にいかに長く勤めてもらうかです。

 

(弊社)

 組織内の「壁」を撤廃することが必要ということでしょうか。

 

(新地董事・総経理)

 駐在員と現地スタッフが同等の意識で業務にあたれる職場が理想ではないかと私は思っています。これまで、言い訳に終始しがちなスタッフを怒鳴ったこともありますが、相手の立場を全部否定するようなことがあってはならないと反省したものです。やはり社員がアクションをとった判断の根拠やプロセスについてよく理解してあげるべきでしょう。

 

(弊社)

 社員のモチベーションを高めるために取り組んできたことはありますか。

 

(新地董事・総経理)

 インセンティブを与えることは確かに効果的ですが、目先の給与だけで動かれ、各自が「個人商店」になってしまえば目的を履き違えてしまいます。

 そこで、まずはキャリアパスを設ける取り組みをいたしました。ガラスの天井を撤廃する意味で、課長職のポストに駐在員が就かないようにしています。駐在員を無条件に管理職に就けてしまっては、その駐在員が駐在している限り、どんなに優秀な現地スタッフが現れても、例えば副課長などという、中途半端な役職にしか就けてあげられないためです。優秀な現地スタッフには、どんどんと偉くなってほしいと思っています。

 

◆◆◆    【社内ルールづくりは現地人材の眼で】  ◆◆◆

(弊社)

 御社グループがちょうど60周年を迎えます。上海マブチとしてはどんな目標を据えていいますか。

 

(新地董事・総経理)

 売上高でグループ内の販社では下位に甘んじていた弊社も、いまや上位にランクされ、重要な販社として評価されています。

 今後もオールマブチの力を結集して、二桁成長に弾みをつけつつ、グループにおけるプレゼンスをさらに高めていけたらと思っています。

 

(弊社)

 そのためには現地人材により力を発揮してもらうことがカギとなってきます。

 

(新地董事・総経理)

 駐在員が特別な身分にあるわけではありません。全体の業務の流れについては現地人材に任せ、マネジメントが苦手な彼らのアシストを日本人が担うなど、社員同士が一体感をもって取り組んでいくことが大切です。また、本社と現地スタッフの橋渡しをするのも、駐在員の大切な役割のひとつ、そして本社からお叱りを受けるのも、現地スタッフではなく駐在員。これで良いと思います(笑)。

 なお、弊社のナンバー2のポストにある中国人の営業部長は、営業マナーなどがバランスよく社内に浸透していくように、いわば日本スタイルの啓蒙役をこれまで担ってきました。いくら事務所の責任者と言え、日本式の流儀を、私が現地スタッフに押し付けるのは適切ではありません。社内のルールづくりや、次の幹部候補の選定と育成については、彼が中国人の眼から判断し実行に移していってもらえたらと期待しています。 

 2015年には私も入社30周年を迎えます。働くことが楽しいと社員に思ってもらえる職場づくりを心がけるとともに、社員が自ら成し遂げたのだと手応えと矜持をもってもらえるような、確かな成果が得られることを目標にしたいと思います。

 

(弊社)

 本日は、長年の海外事業で培った異文化マネジメント等、人事問題に関連する大変勉強になるお話をお伺いしました。お忙しい中、大変有難うございました。

 

 

 【新地秀樹(しんち・ひでき)氏のプロフィール】

 東京生まれ。1985年にマブチモーター株式会社に入社。海外営業部配属を経て1988年にソウル拠点に赴任。現地代理店の育成などを手がけ、足掛け12年近くの駐在の後、2000年に帰任。その後、中国市場での拡販の責を負うや04年に万宝至馬達(上海)有限公司(上海マブチ)総経理に就任。08年秋に本社勤務となるものの10年より2度目の上海駐在を開始し、現在に至る。

 

 【万宝至馬達(上海)有限公司  様 会社情報】

万宝至馬達(上海)有限公司 
上海市長寧区古北路666号嘉麒大厦1901室(200336)
Tel:021-6208-5666 Fax:021-6208-8466
URL:http://www.mabuchimotor.cn

万宝至馬達(上海)有限公司様
万宝至馬達(上海)有限公司 新地 董事・総経理様

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