聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第13回
『三井金属(上海)企業管理有公司/三井金属貿易(上海)有限公司
関 和文 董事・総経理インタビュー!』 2014年1月10日
● 管理性会社の機能を最大限に発揮
● 従業員の「メンタルヘルス」に組織で支援
(弊社インタビュアー)(以下弊社)
世界有数の非鉄金属メーカーである三井金属が、中国事業の管理統括を目的として設立した三井金属(上海)企業管理有限公司。中国グループ12社に向け、総務や法務、人事、財務・税務など、さまざまなコーポレート業務の支援を行っています。今後は事業拡大だけなく、 「“エコ”の三井金属」を旗印に中国の公害対策や環境保全にも貢献していきたいとする同社グループ。今後の事業目標や、従業員の「メンタルヘルス」対策など人事面での取り組みについて関和文総経理に伺いました。
◆◆◆ 【卓越した「環境技術」とそのノウハウ】 ◆◆◆
(弊社)
御社は世界有数の非鉄金属メーカーとして多彩な事業をグローバルに展開されています。
(関董事・総経理)
もともとは亜鉛や銅の製錬、鉱山開発を主要事業としてきましたので、どちらかといえばドメスティックな企業だったといえます。しかし、80年代から海外進出が本格化したほか、「マテリアルの知恵を活かす」をスローガンに幅広い製品群への展開を果たすことになり、今日では事業領域も金属・資源から電子材料、機能材料、各種素材関連や自動車機能部品など様々な分野に及び、積極的にグローバルな事業運営を行っています。なお、電子回路基板のプリント配線板材料として使われる銅箔や自動車のドアロック部品は世界トップのシェアを誇っています。
(弊社)
昨年末、イタイイタイ病をめぐる環境対策が40数年ごしで全面解決に至りました。いまや環境技術は御社にとって大きなセールスポイントですね?
(関董事・総経理)
製錬所はかつて、排煙は出る、重金属をふくんだ液体は出る、土地は汚すといった具合に環境を悪くするビジネスでした。公害対策で苦い経験をすることで、弊社は卓越した環境技術とそれを経済ベースに乗せる豊富な運用ノウハウを蓄えてきたといえます。
HVやEVで使われるニッケル水素蓄電池やリチウムイオン電池の材料供給、製錬所や工場での排ガスや排水の処理、貴金属リサイクル、土壌改良、節電や効率化、あるいは自動車・バイク用ガソリン排ガス浄化触媒など、環境問題が深刻な中国で弊社が貢献できる分野は数多くあります。
◆◆◆ 【シェアードサービス提供で業務効率化】 ◆◆◆
(弊社)
御社は管理性会社として、中国でどんな役割を果たしているのでしょうか。
(関董事・総経理)
弊社のミッションはまず、中国に進出している各事業会社(現在12社)が事業戦略を達成するための支援として、総務や法務、人事、財務・税務といったコーポレート領域におけるシェアードサービスを提供していくことです。
私は経理・財務畑を長く歩んできた背景があり、2008年に上海に赴任すると、まずは連結決算をきちんとすることから取り組みました。中国の会計基準は日本とは違っており、合弁などの形態をとる会社がいくつかあったこと、そして本社とのコミュニケーションの問題等から、それまで連結決算がうまく行っていなかった経緯があったからです。
資金管理については、CMS(Cash management System)といいまして、簡単にいえば、余っているところのお金を足りないところへ自動的に回していける仕組みをつくりました。そうすることによって銀行からの借入を減らし、金利削減効果を高めたわけです。各社にとっても、資金繰りの悩みが解消され、事務負担を減らせたのは有意義なことでした。
(弊社)
人事面での取り組みについてはいかがでしょうか。
(関董事・総経理)
1、2年かかりで財務・税務の領域がある程度整理されてからは、人事に関わる諸規則や評価システムを導入いたしました。ただ、人事の方面は、トラブルなどを表沙汰にしたくないという事情も関係してか、なかなか各社の情報を共有しづらいという側面もあります。難しいところです。
また、設立して間もない会社に我々がもっているノウハウを提供しても、現地を任せられたマネージャーが優秀であればあるほど、やがては人材採用や育成、ローテーションも含めて、自分たちなりの体制を志向していきたいということになるかも知れません。
(弊社)
各社がそれぞれ独自のものを作り上げていけば、全体として歪みがでてこないとも限りません。
(関董事・総経理)
「個々の最適化は全体の最適化につながる」というのが資本主義の原則である以上、事業部や各事業会社が独自で頑張っていくのは間違ったことではありません。ただし、需要と供給がマッチしづらい現状があったとしても、バランスの見極めが大事でしょう。
◆◆◆ 【「即戦力」に期待するより人材育成を】 ◆◆◆
(弊社)
現地人材の採用にあたっては、どんな方針で臨んでいるのでしょうか。
(関董事・総経理)
私は基本的に「即戦力」など存在しないと考えています。外見は「即戦力」らしく見せているだけの人は、意識を持って改善に努めなければ、価値が伸びづらく、人材資源として長く続かないというのが実情ではないでしょうか。
そこで、弊社では、人を育てるという観点から、むしろマインドセットをするうえで癖がない、日本で留学や就業経験のある人材の確保を基本方針としています。 日本語を話し、日本文化に理解があり、日本のこと、三井金属のことを好きになってくれる中国人に弊社のDNAを引き継いでもらいたいわけです。そして、定期的な集合研修を職種別、階層別に実施し、事業方針の社内徹底を図るとともに、グローバル人材育成に向けたプログラムも取り入れていく予定です。
(弊社)
対外的なイメージアップを図る必要もありそうです。
(関董事・総経理)
イメージアップというのは社風と同じように一石一石、積み重ねていくものです。そして、日本からの赴任者をふくめて、上の立場に立つ人間の高い意識、真摯な態度、相手を尊重する気持ち、そして具体的な行動がまず大切な一歩です。そのうえで企業の理念やたしかなビジョン、ありたい姿をもち、それらを社員全員に共感を得て共有化してもらわなければなりません。そうしないと、素晴らしい人事制度や社員のモチベーション向上に役立つ評価基準・待遇といったツールがあったとしても、それらは絵に描いた餅で終わってしまうことになりかねません。
目標や理念を具体化しながら、たゆまない努力を続けていくことの意義を説いた例として、イチローが小学時代に書いた作文があげられます。彼は小学生の時から、一流のプロ野球選手になるというビジョンを実現するために、いま何をすべきか、一年後、三年後にはどうあるべきかを逆算して目標を具体化していたそうです。企業も同じように、理念と事業目標、そして戦略をもち、それを達成するための具体策として人事制度を見える化していくなど、戦術を立てる必要があるわけです。
(弊社)
経営の現地化の進み具合はいかがでしょうか。
(関董事・総経理)
グループには、すでに中国人が総経理、副総経理に就いている会社もあります。彼らによって民族系の大手顧客を開拓してきた情況を見ますと、現地人材を積極的に登用していく必要性を思い知らされます。
そのうえでは、コンプライアンス、内部統制への配慮も欠かせません。欧米企業のトップに現地人材が就いているケースは多くありますが、決して社員に好き放題にさせているというわけではなく、社内システムは大変厳しいものです。権限と責任は常に表裏一体です。一方、日本企業は、稟議や規則など書面上は整備しても、実質的な内部統制がまだまだ甘いというのが実情でしょう。
◆◆◆ 【「メンタルヘルス」対策に組織で取り組む】 ◆◆◆
(弊社)
ところで、御社では社員の健康管理のために取り組んでいることはございますか。
(関董事・総経理)
日本からの赴任者は中国拠点12社でざっと50人近くにのぼります。彼らを対象に従業員支援プログラム(Employee Assistance Program) を導入いたしました。
具体的には、長崎大学病院精神科の教授、臨床心理士や内科医などが月に1回上海に診察で足を運んでおり、その際にメンタルテストやセミナーなどを実施しているほか、随時、メールやテレビ会議を通して従業員の健康相談に応じています。専門的な診察や治療が必要な場合は適切な病院・クリニック(日本・中国)の紹介も行います。薬品投与をふくめた処置やアドバイスは専門家からでないと得るのが難しいものです。
医療費負担の問題やプライバシーの確保、あるいは病気が発覚した際の社員の不安にどのように対処していくべきかなど、いろいろ課題はあるものの、次の会計年度ではこうしたメンタル面からの従業員支援をより本格化させ、ローカルスタッフにも適用していきたいと考えています。
(弊社)
社員がメンタル面で異常を来たすケースは頻繁にあるのでしょうか。
(関董事・総経理)
メンタル面での問題から睡眠が十分にとれず、身体面での異常をきたすケースも少なくありません。メンタル面とは関係なく先天的な要因から、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーといった症状が表に出ることもあります。ナルコレプシーというのは、日中も眠気がとれないなどの症状を指します。脳に負荷がかかり過ぎることで、緊張すると脳の活動が逆にオーバーヒートしてしまうかのように眠気を催すのです。そのほか、昨今では、仕事から離れれば何ら問題も見せない「新型うつ病」というのもありますから厄介です。
また、気管支に疾患があるわけではないのに胸焼けがしたり、咳が続くことがあります。これは逆流性胃炎や逆流性食道炎による症状であることも多く、ガスター投与ですぐに改善します。
精神疾患より深刻なのは、「大丈夫です」と気負い過ぎたことで循環器系の病気にかかってしまうことでしょう。甚だしきにいたっては心筋梗塞や脳梗塞等の発作で突然死に至ることもありますので注意が必要です。
(弊社)
ふだんから社員の健康をケアしていくことが大切なのですね。最後に、新しい会計年度の開始を2カ月後に控え、今後の事業目標についてお聞かせください。
(関董事・総経理)
管理性会社としての本来のコンセプトにもとづいて、経営管理のシェアードサービスを引き続き提供していきます。
一方、私は三井金属貿易(上海)有限公司の総経理も兼任していますが、折しも上海自由貿易区が開設されたことで、保税区企業としての同社のファシリティ―がより大きな作用を発揮していくことが期待されています。同社を活用することで、輸出入業務や仕入販売、営業拠点として新規に進出する企業へのフォローをスムーズに行えるほか、金融・外為管理の自由化によって人民元でのクロスボーダー取引が可能になれば、CMSの運用効果もさらに高まっていくことでしょう。
なお、弊社のコーポレ-トカラーは「エコ」を想起させる緑が用いられています。中国の環境ビジネスは非常に有望です。従来の市場が伸びていくというだけでなく、これまでにないビジネスチャンスも次々に生まれてくることでしょう。「エコの三井金属」というグループ全体のイメージを積極的に売り込んでいく役割が弊社に課せられていると思っています。
(弊社)
本日は、海外事業でのシェアド・サービス事業や、駐在地でのメンタルヘルス対策等、従来とは少し変わった観点からの貴重なお話を伺うことができました。お忙しい中、大変有難うございました。
【関 和文 (せき・かずふみ)氏のプロフィール】
三井金属(上海)企業管理有限公司、三井金属貿易(上海)有限公司 董事・総経理。1986年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、三井金属鉱業株式会社に入社。主に財務・経理畑を歩み、アメリカ駐在、自動車機器事業部韮崎工場管理部経理課長、本社部品事業本部管理部部長補佐などの役職を経て、08年に三井金属(上海)企業管理有限公司に赴任。2012年より現職。
【三井金属(上海)企業管理有限公司/三井金属貿易(上海)有限公司 様 会社情報】
三井金属(上海)企業管理有限公司
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