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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第15回

『那电久寿机器(上海)有限公司    永冨 鉱司 董事 总经理インタビュー!』  2014年3月18日


 
那电久寿机器(上海)有限公司
董事 总经理 永冨 鉱司 氏

  ●  「強い現場力」 なくして真の「現地化」はなし

  ● 「見える化」した報酬制度で従業員マインドを強化

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

自動車業界向けのウェルディングコントローラーの製造、販売を業容とする那電久寿機器(上海)有限公司(ナ・デックス上海)が近年、強化を進めるのがFAやECも絡めた工場ライン全般に向けたソリューション体制です。製造業全般にも間口を広げて事業拡大を図るなか、技術者の増員と「現場力」の底上げに取り組んでいます。永冨鉱司 董事・総経理に伺いました。

 

◆◆◆  【リーマン・ショックの荒波からの出発】  ◆◆◆

(弊社)

永冨総経理が上海に赴任された2008年は、北京五輪が開催されるなどエポックメイキングな年です。

 

(永冨総经理)

リーマン・ショックで未曾有の不景気に見舞われた年でもありました。業績が低迷し相当タフな一年だった印象が強いですね。私は上海駐在の内示を受けた際、1週間ぐらい寝られないくらいでしたが(笑)、ようやく意を決して乗り込むや、程なくして今度は大きな逆風にさらされることになってしまいました。

 

(弊社)

事態打開の突破口になったのは何だったのですか?

 

(永冨総经理)

ローカル系をターゲットに営業アプローチをかけました。日系完成車メーカーの現地調達ニーズがまだ少ない時代でしたから、間口を狭くしてしまうとスポット溶接機のニーズも限られていたからです。折しも中国政府が4兆円の経済刺激策を講じたことを受けて、第一汽車が生産ラインを拡大することとなり、同社の溶接ラインを入札で受注することとにも成功しました。

その後、業績が上向いた時点で、ウェルディングシステム、FAシステム、エレクトロニクスコンポーネント(EC)の3つを柱にした日本本社の事業戦略の移植を図り、ロボット事業も手がけるようにしました。増資を行い、従業員も従来の20名から70名までに増やしており、自動車業界を軸にヨコ展開をしている最中です。

(弊社)

FA関係の市場ポテンシャルはまだまだ大きいように思います。

 

(永冨総经理)

人件費削減のために基幹となる工程を自動化したいというお客様のニーズは少なくありません。ざっといえば静電気除去装置などEC分野を「切り込み隊長」にしてお客様と交流するなかで、ウェルディングシステム、FAに橋渡ししていくというのが、業務開拓の流れとなるでしょうか。中国で調達するシステムと日本から入れるシステムをコーディネイトしながら提案していくこともあります。

 

 

◆◆◆  【「現場力」の底上げに挑む】  ◆◆◆

(弊社)

人材の採用や育成についてはどんな政策を講じられてきたのでしょうか。

 

(永冨総经理)

人事関係では相当苦労いたしましたね(笑)。陰で廃材を勝手に売り飛ばすなどの不正を働くスタッフがいたため、会社の安全、秩序維持のためのリスク回避策についても思慮を巡らせました。

地元上海の従業員と外地出身のワーカーとの間に「壁」が存在していたのも頭痛の種でした。たとえば、経理系の上海人は外地から来たワーカーの賃金を極力低く抑えこもうという発想で凝り固まっていたのです。現場の人材などぞんざいに扱って辞められても、いつでも交換が効くといった具合です。

しかし、弊社では、現場の従業員が担う業務の特徴として個人のスキルが大きなウェイトを占める性質があります。現場の実力がつかないことには、受注があってこなしていけないわけで、スキルや経験が身についた従業員に抜けられてしまうのは痛手でした。

そこで、現場に携わる従業員の給与体系の見直しに着手いたしました。具体的には、ワーカーのスキルや能力を測るテストを実施しています。ビスの締め方やハンダ付け、電線加工などを行わせ、作業スピードや完成物の見栄えなどを点数化し、これを能力給として給与に反映させるようにしたのです。

結果として、従業員たちが抱えるスキル面での課題や目標が明白になり、率先して仕事を覚え、技術を磨いていこうという意欲を彼らに持ってもらえるようになりました。軌道に乗るまでには2、3年を要しましたが、いまでは従業員の定着率も向上し、勤続年数が7年を超える人も数名います。

 

(弊社)

マネージャークラスの人材も育っているのでしょうか。

 

(永冨総经理)

私が抜擢した技術課長が成功事例として挙げられるでしょうか。彼の前職はホテルのボーイであり、技術とは全く無縁の人間でしたから、会社としても当初は雇いたいという意向がありませんでした。しかし、当人の意欲と情熱がひしひしと伝わってきたことから、門前払いをするのは気の毒ということで、しばらく様子見で通訳として働いてもらうことにしたのです。

昨今は省エネ、環境などの領域でビジネスマッチ。

するとどうでしょう。結局、彼は真面目な性格なうえに技術への興味が人一倍強かったんですよね。飲み込みがとても早く、あれよあれよという間にスキルを積んでいったのです。いまでは前線の指揮に立ち、顧客向けの技術説明会で堂々とプレゼンテーションを行うほどです。

じつは、これとは対照的に、「日本語検定一級を取得したから給与を上げてほしい」と要求してきた従業員が別にいましたが全く取り合いませんでした。現場に役立たない形式的なものをアピールされてきても、それは無意味であるというのが私のポリシーだったからです。

 

◆◆◆  【給与制度では「見える化」を徹底】  ◆◆◆

(弊社)

従業員の出身地が多岐に渡ることでリスクを感じられることはありますか。

 

(永冨総经理)

現在、山東、陝西、四川、重慶など従業員の出身地はさまざまです。弊社のお客様には、国慶節や春節など長期休暇のあいだに設備を導入したいというケースが少なくなく、生産現場で遠方の出身者を多く抱えることのリスクはたしかに有ります。安定操業に差し支えが生じないように、割増手当の支払いのほかにも、振替休暇を設定するなどの配慮が必要になってくるほか、ふだんから従業員との対話を心がけ、休日中の勤務の可否について事前に意見交換することが大事かと思います。

もっとも、従業員を地元の人に一極集中させることにもリスクがあるのですよ。上海の人は他の地域への赴任を嫌がりますよね。そんな辞令を出したら、とたんに辞められてしまうことを覚悟しなければなりません。むしろ転勤などにも柔軟に対応できる外地の人を雇い、育てるという視点も必要なのではないでしょうか。

(弊社)

雇う対象が上海人であれ外地出身者であれ、労働コストの高騰が顕著です。

(永冨総经理)

まさしくその通りで、毎年15%から20%の水準でベースアップが続いていけば、あっという間に日本の賃金水準を追い越してしまいます。そのようななかで、給与制度については「見える化」して、ガラス張りのものにし、他の従業員がいくらもらっているかも気にせずに済む環境をつくっていかなければと思っています。

賞与についても、純利益の10%を還元するというように董事会で取り決めました。裏を返せば、給与が上がれば純利益が圧迫され、賞与としてもらえるキャパシティが小さくなるわけで、従業員が賞与を多くもらいたいと思ったら純利益そのものを増やしていくように頑張らなければならないというからくりです。採用制度にしろ賃金規定にしろ、人事制度を定めるうえでは、緊張感をもって業務に従事してもらうべく、アメとムチの双方を備える必要があるでしょう。

 

◆◆◆  【求められるトップの意識の「現地化」】  ◆◆◆

(弊社)

御社では今後も人員の増強をされていくのでしょうか。

 

(永冨総经理)

100名くらいまでの増員は視野に入れています。サプライヤーさんとの協力関係は従来通り維持していきますが、当社で完結できるソリューション体制を整えられれば、セル単位ではなく大きな自動化システムなどの引き合いを格段に増やせると想定しているからです。外注業者を使って右から左へと横流しし、加工機も持たず、技術者もおらず、提供するのは工場のスペースと日程管理のみ――そんな体制ではお客様に迷惑をかけてしまいますから、会社の実力強化の重要性を見越して、今年も設備投資をしているのです。

(弊社)

製造業の東南アジアシフトが進んでいますが、御社ではむしろ中国事業は拡大のトレンドにあるのですね。

 

(永冨総经理)

ええ。じつは日本のナ・デックスでは行っていない上海発の試みもしています。自動車の試作です。じつは自動車市場の拡大を受けて、完成車メーカーは各社とも新車種の試作が目白押しなのです。弊社でも、パーツを組み合わせ溶接もすべて自社で行い、データをお客さまに渡すまでのプロセスに携わっています。

新規事業に携わる一方で東南アジア市場にも視野を広げています。自社製品の品質安定化を中国で実現し、日本の本社や関連会社、その他の海外拠点と連携を取りながら、グループ全体で売上拡大を図っていくわけです。 「世界中の車にナ・デックスの技術が使われるようにする」「海外拠点の売上比率を全体の50%にする」というのが本社の理念、目標なのです。

 

(弊社)

その目標が達成するかどうかは「現場力」強化の可否にかかってきそうですね。

 

(永冨総经理)

その通りです。休憩時間などの際に、従業員に直接中国語で語りかけるなどしているうちに、彼らの内面的なものを引き出し、適材適所の人材配置に役立っていくことも少なくありません。変に総経理風を吹かせたり、日本に帰りたいとばかり言っていたら中国の方に失礼ですし、従業員もついてきてくれないでしょう。

ちなみに弊社では運転手は雇っていません。私は上海での運転は全く問題ありませんね。むしろ右ハンドルの日本での運転が危うくなってしまいました。どうやら完全に「現地化」してしまったようです(笑)。

 

 

(弊社)

 本日は、リーマンショック以降の逆風の中、とりわけ人事面で苦労されたお話や工夫話など、多岐に渡る貴重なお話を伺うことができました。お忙しい中、大変有難うございました。

 

 

 【永冨鉱司(ながとみ・こうじ) 氏のプロフィール】

 愛知県一宮市出身。1985年、株式会社名古屋電元社(1992年に株式会社ナ・デックスに社名変更)に入社。技術畑を歩み、関連会社への出向などを経て、02年より上海法人の設立プロジェクトに参画する。生産管理分野での経験と実績を買われ、2008年に那電久寿機器(上海)有限公司総経理として赴任、現在に至る。

 

 【那電久寿機器(上海)有限公司 様 会社情報】

那電久寿機器(上海)有限公司
上海市莘庄工業区申富路815号
Tel (021)54427877 FAX (021) 54427043
http://www.nadex.co.jp

 

那電久寿機器(上海)有限公司 永冨総经理様1
那電久寿機器(上海)有限公司 永冨総经理様1

那電久寿機器(上海)有限公司 永冨総经理様2
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