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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第20回

『上海美津濃有限公司  北 良雄 総経理インタビュー!』2014/8/18


 
上海美津濃有限公司
北 良雄 総経理 氏


  ● 熟練工を育ててコスト上昇圧力を克服

  ● 公正な労務管理で社員のやる気を引き出す

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

上海に進出して20年、ミズノグループの中では海外で唯一の直営工場としてスポーツアパレルからゴルフ、野球用品と幅広く生産し、世界のミズノブランドを支える上海美津濃有限公司。労働コストの上昇やワーカー不足など、経営環境の厳しさが増す中国でいかに生産性を上げていくか、たゆまない努力を続けています。同社・北良雄総経理にお話を伺いました。

 

◆◆◆  【野球少年 スポーツへの夢を抱いてミズノへ】  ◆◆◆

(弊社)

北総経理は理工学部出身でおられますが、ミズノに入社され一貫して人事総務畑を歩まれるというユニークな経歴をお持ちですね。

(北 総経理)

小学生のころから高校まで野球部に所属していたこともあり、ミズノに入社するきっかけになりました。入社時は営業を希望していたのですが、人事総務に配属され、その後は一貫して人事総務畑を歩むことになりました。

(弊社)

現職に就かれるまでに海外勤務の経験はあったのでしょうか。

(北 総経理)

全くありませんでした。入社以来、営業やものづくりには関わったことがありませんでしたから、現職への就任を言われた時は、中国で労務管理をするのでしょうかと思わず確認すると、総経理としていくのに、経営をするに決まってるやろと怒られてしまいました(笑)。

 

◆◆◆  【中国で活躍する「世界のミズノ」】  ◆◆◆

(弊社)

御社は上海に進出し、ちょうど20年になります。その間中国でのスポーツウェアの生産、中国スポーツ市場への参入と、製販両面にわたり前進を続けてこられた訳ですが、現在の中国ではどの様な製品を製造しておられますか。

(北 総経理)

94年に中国に進出し、スポーツアパレル、一般に布帛(bubo:中国語で織物の意)と言われるものやニット関係、水着等を製造してきました。

スポーツ用品ではゴルフクラブ、野球用品の製造に力を入れています。ゴルフ部品ではアイアンのヘッド、カーボンシャフトを製造しており、ウッドのヘッドは組み立てのみ行っています。野球用品はグラブ、プロ野球や社会人、高校野球で使用いただく硬式ボールを製造しています。

(弊社)

製品の内販と輸出の内訳はどの様な状況でしょうか。

(北 総経理)

スポーツアパレルは中国向け4割で輸出が6割程度、ゴルフ用品は中国向け2割で輸出が8割くらいでしょうか。野球は中国ではほとんどその市場が無いので、ほぼ100%が米国、日本への輸出向けとなっています。

 

◆◆◆  【コスト上昇圧力は、生産性の向上で克服】  ◆◆◆

(弊社)

近年の人件費の高騰など、中国での経営環境は大きく変化してきており、いわゆる「チャイナ+1」の動きや「日中間の政治的流動」の中で、製造業の中国離れが言われています。中国での生産と販売をともに追求される御社はこのような流れにどのように対応されていますか。

(北 総経理)

ご承知のように中国での生産は、人件費の上昇により経営が厳しくなっています。特に汎用品生産はASEANにシフトしていることから、生産量は減少しています。

アパレルでは私どもでは、むしろ手のかかる製品、短納期の製品など難易度の高い製品をこちらで生産するようにシフトしています。

また、野球のボールの場合、牛革を縫って作るわけですが、牛革は伸び縮みがそれぞれ違うので、すべてを機械生産にするとかえって不良品が増えてしまい、どうしても熟練工による手作業が必要になります。また野球グラブでは日本と同じ品質の製品を作れるようになるまでに10年かかりました。もしこれから東南アジアに工場を移転したとしても、熟練工が育ち日本と同じ品質の製品を作れるようになる頃には、今の中国と同じコスト上昇の問題に直面しているのでないでしょうか。日本での「名工」の技を、上海で育てるように人的交流を図るなどの工夫を行っています。

そのほかに、日本へ回帰するという選択肢も考えられますが、どうしても労働者の確保が課題になります。

(弊社)

生産性を高める為にどの様な工夫をされているのでしょうか。

(北 総経理)

ワーカー一人ひとりの技能向上を図っています。具体的には、自分の作業だけでなく全体の作業工程を理解してもらうようにしています。中国では日本のように野球が普及していません。従って中国の従業員の方は野球を知らないので、自分たちが何を作っているのか、その中でどの様な作業を担当しているのか理解してもらうことが技術の向上に不可欠です。

そして技能手当てを設定し、本社から毎年技術者を派遣してもらい、ワーカーの技能レベルを判定してもらっています。例えば野球のグラブの出来映えを、3段階程度の等級に分けて判定し、等級に応じた手当てを支給しています。

(弊社)

御社の従業員構成はどの様になっておられるでしょうか。

(北 総経理)

全体として1000人弱。内訳はアパレルが半数、ゴルフと野球が2割、間接部門が1割弱となっています。男女の比率は、男性2:女性8で地元の方の比率が高く9割となっています。

(弊社)

地域密着型の従業員構成ですね。

(北 総経理)

1000人の従業員の中には、親子兄弟などひとつの家族から複数の方に働いて頂いている例もあります。定着率も高いですよ。勤続10年以上になる従業員も多くいます。

(弊社)

中国で長く経営をしていると、定年退職も出てきますね。

(北 総経理)

昨年から毎年20人から30人の定年退職者が出てきています。賃金の上昇や採用難の状況を考えると、減った人数を単純に補充するという事はできず、今までより少ない人数で仕事をこなしていく必要が出てきます。そこで、退職者の再雇用や、ワーカーのレベルを底上げして生産性を高めるなどの対策を講じています。また、昨今の世代変化(80后、90后)、生活レベルの向上などで、若い世代が工場現場の仕事をやりたがらなくなっている事も、対応しなければならない課題の一つです。

(弊社)

総経理は入社以来一貫して人事畑を歩んでこられましたが、労務管理において日中での違いを感じられた事はお有りでしょうか。

(北 総経理)

拠り所となる法律が違うので、戸惑うところがあります。日本でやってきた事がそのまま使えないと実感しています。また、地域密着型の人員構成や国柄の違いもあり、「育児休職」の割合が日本より比較的高いというのがこちらに来て印象的でした。

(弊社)

労務管理の面でどの様な点に気をつけていますか。

(北 総経理)

信賞必罰を徹底するため1年かけて就業規則の見直しを行いました。抜け道を見つけて怠ける人間が得をしたり、逆に真面目に働いてくれている従業員が不合理な目にあわないよう、就業規則の整備を行ないました。確かに、お金で解決すれば手間がかかりませんが、公正さが失われてしまいかえって管理が難しくなり、秩序が保てなくなります。そこで時間はかかりますが、就業規則に従って対処し、場合によっては、訴訟になることを恐れず毅然とした態度を示すようにしています。

 

◆◆◆  【中国のスポーツ市場】  ◆◆◆

(弊社)

中国を「市場」として見た場合、中国国民の健康志向の急速な拡大があるように思います。

(北 総経理)

ところが、弊社だけでなくスポーツ業界全体が苦戦しています。近年中国メーカーの参入が増え、マーケットは供給過剰状態となっています。特にゴルフの苦戦が目立ちますね。確かに富裕層の方々を中心にゴルフ人口は徐々に増加してきていますが、一般層にはまだまだ浸透していません。それに追い打ちをかけるように近年では環境問題から新規のゴルフ場建設が難しくなっている事や、接待ゴルフが減っていることも影響しているようです。

そこで今までの様な、例えば展示会で半年分の注文を受けて大量に生産するようなマスで大量生産するようなビジネスモデルは中国では通用しなくなっていると感じています。効率は悪くなりますが、小さなロットに対応するようにしています。

また、厳しい状況と認識していますので、従来からのスタイルを変えた生産・販売プロセスを考えています。中国に進出した当初は、市場が急速に拡大している時期でもあり販社を分けていましたが、製販一体として効率的な業務プロセスに移行することを目指し1月1日付けで合併する予定です。

 

◆◆◆  【社会に貢献する企業を目指して】  ◆◆◆

(弊社)

ミズノグループ様では、CSR方針に非常に力を入れ、世界的にCSR活動を展開されているそうですが、上海ミズノ様では、今までのCSR活動や今後の方針についてお考えがありましたらお話しください。

(北 総経理)

環境問題などは、今後の中国で重要な問題となることは間違いないと考えています。それに先んじて2004年にISO14001(環境マネジメントシステム)とISO9001(品質管理システム)を取得しました。

CSR基準を設け、ミズノと関連のある他社工場(当社と直接取引のある会社、日本本社と直接取引のある会社を含めて)に対しても、当社の職員を派遣し、「CSR監査」を行い、必要に応じて改善をお願いしています。

社内に対しては、当然ながら法令順守を徹底しています。現地スタッフに対しては法令上どの様になっているか常に確認する事を周知徹底し、運用でうまくいっている事で良しとしないよう伝えています。徐々に浸透しているようですが、まだまだ煙たがられていますね。

今後の計画として昨今の環境問題に対する規制の強化傾向から安全、安心を含め環境問題の対応(グリーン調達、材料の現地化など)を進めていきたいと考えています。

(弊社)

最後に読者の皆様にコメントをお願いします。

(北 総経理)

駐在員の方の間でゴルフやランニングを始める方が増えていると聞いていますので、その際にはご用命いただければ幸いです。

皆さん、中国でもゴルフを楽しんでください。(笑)

 

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 【北 良雄(きた よしお) 氏のプロフィール】

 上海美津濃有限公司 総経理。
滋賀県出身。早稲田大学理工学部卒業後、1978年に美津濃株式会社に入社。東京勤務を経て、1980年から大阪本社勤務。入社以来一貫して人事総務畑を歩む。2008年に大阪本社人事総務部長兼淀屋橋再開発室長、2010年に株式会社ミズノアベール社長を経て、2011年より上海美津濃有限公司の総経理に就任。

 

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 【上海美津濃有限公司 様 会社情報】

上海美津濃有限公司
上海市青浦区朱家角镇沈砖路505号,邮编:201714
Tel:(86) 21- 5983-5888
Fax:(86) 21- 5983-1227
http://http://www.mizuno.com.cn/

 

上海美津濃有限公司  北 良雄 総経理 1
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北 良雄 総経理1

上海美津濃有限公司  北 良雄 総経理 2
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北 良雄 総経理2

  

朱家角の上海美津濃有限公司 工場にて
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