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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第24回

『上海松下半導体有限公司  西村一弘 総経理 インタビュー!』2015/4/22


 
上海松下半導体有限公司
西村一弘 総経理


  ●  率先垂範----従業員を動かす

  ●  優れた品質を創るのは優れた人

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

あらゆる機器に用いられる半導体集積回路の組立て及び検査生産を行う上海松下半導体有限公司。海外勤務未経験でありながら総経理に就任し、日中文化の違いに戸惑いながらも、品質を創るのは人であるという理念のもと、5S活動を通じた全社活動、ユニークな安全事故防止への取り組み、独自の社員教育制度により、世界で勝ち残る半導体組立生産拠点に自立・成長を目指す上海松下半導体有限公司の西村総経理にインタビューしました。

 

◆◆◆  【時代のニーズに合わせた半導体を生産】  ◆◆◆

(弊社)

まずは、御社の概要をお聞かせ下さい。

(西村 総経理)

弊社は、パナソニック セミコンダクター ソリューションズ株式会社(以下PSCS社)の中国現地法人にあたります。PSCS社全体では去年の売上げが約1900億円、全世界でおよそ8500名の従業員が在籍しています。日本に6拠点、海外に6拠点あり、そのうち中国は上海と蘇州の2拠点で、上海の拠点が弊社となります。弊社についてご紹介させて頂くと、前年度の売上げがおよそ24億元、売上げの半数近くが香港、台湾を含む中国域内、3分の1がシンガポール及び韓国などのアジア地域、約10%が日本となっています。   

(弊社)

御社では主に、どの様な半導体を製造されていますか。

(西村 総経理)

まず、半導体の製造工程には、拡散工程と呼ばれるシリコンウェハに素子を集積し形成する前工程と、組立工程と呼ばれるウェハ上のチップを個々に切断、パッケージングする後工程があります。前工程は日本国内の工場や外部会社への委託で行っており、弊社では後工程にあたる組立工程を行っています。工場が設立された当初はAV分野の半導体製造からスタートし、その後パソコン用半導体へ移り、現在は主に家電用と自動車用半導体を製造し、自動車用半導体が売上金額ベースでは全体の半数近くを占めています。

(弊社)

時代のニーズに合わせてうまくビジネス展開をされていますね。自動車用半導体は主にどの様な用途で使用されるのでしょうか。

(西村 総経理)

元々得意であったAV分野向けの半導体の流れを受けて、ラジオやカーナビ等に用いる半導体が中心でしたが、最近では、センサーやパワー制御といった半導体へ切り替わってきています。近年、環境意識の高まりから中国でもハイブリッド自動車や電気自動車が増加していますが、これらの自動車に搭載されているバッテリーの残量をコントロールする半導体も弊社で作っています。バッテリーはそのままだと、満充電になっても充電を続けてしまいます。もし、100%充電されているにもかかわらず、半導体が90%と誤認識してしまうと、110%まで充電しようとして、それが火災の原因となります。このように、バッテリーの残量をコントロールする半導体がとても重要で、自動車バッテリー用半導体は人の生命にかかわるため「ゼロ・ディフェクト(欠陥品ゼロ)」が求められる非常に厳しい世界であり、モノ作りの品質要求が非常に高いものとなっています。

 

◆◆◆  【ピカピカ活動で工場も心もピカピカに】  ◆◆◆

(弊社)

西村総経理は、2006年に松下電器産業株式会社の半導体社魚津工場の工場長に就任され、2011年2月から現職に就かれました。日中双方の工場管理を経験されている訳ですが、人事労務の面から日中の違いは感じられますか。

(西村 総経理)

実は、現職に就く以前は海外勤務の経験が無く、上海へ出張に来たのも延べ日数で1週間程度しかありませんでしたので、就任当初はカルチャーショックを受ける事が多かったですね(笑)。

(弊社)

具体的にはどの様な事に文化の違いを感じましたか。

(西村 総経理)

特に5Sに関してでしょうか。恥ずかしい話ですが、最初に工場を見た時、ゴミのポイ捨てやトイレの落書きがあるなど、5Sがきちんと出来ていませんでした。そこで現地の総経理に就任して最初に行ったのが5Sの推進活動です。まず、工場を徹底的に綺麗にしようという事で、「ピカピカ活動」と名付けました。ピカピカ活動を推進するためマスコットを募集して、ピカピカちゃんと名づけ、交通カードの裏のデザイン画に採用するほか、職場間で競争させるなどして5Sの推進活動を行いしました。一般の中国人の方にピカピカと言っても通じないと思いますが、弊社の従業員は、全員がピカピカの意味を理解し、実践出来るまでになりました。

(弊社)

従業員の皆さんはすぐに理解してくれましたか。

(西村 総経理)

ところが、一部の責任者や従業員から、「私たちは掃除をする為に入社した訳ではない。」、「労働契約書にそんな事は書いていない。」という反発の声が上がりました。日本では考えられなかった反応で、その時に日中文化の違いを感じましたね。

(弊社)

その様な反発が上がった時、どの様にして従業員に納得してもらいましたか。

(西村 総経理)

なにより、率先垂範が大切ではないでしょうか。5Sの推進を言いながら、自分の部屋が整理できておらず、服装が乱れていると皆聞く耳を持ちません。そして、何のために掃除をするのかというコンセプトを明確に伝えることも大切だと思います。5Sは全ての生産活動の基本になり、業務の効率を高め、品質を高め、コストダウンにも繋がります。そしてなにより皆が気持ちよく働ける職場を作る事ができれば、自分も気持ちいいよね。という事を繰り返し語りかけました。そうすると、最初は活動を回転するトルクが重かったのが、徐々に積極的になってゆき、1年後には、汚れの取りやすい掃除道具を持ってくるなど、従業員自ら率先して行ってくれるまでになりました。今では工場に来られるお客さまからも、綺麗な工場だと言って頂いています。

 

◆◆◆  【人の管理は信賞必罰が大切】  ◆◆◆

(弊社)

逆に中国のスタッフから学ばれた事もあったそうですが。

(西村 総経理)

安全に関する取り組みについて教えてもらいました。ちょうど、安全事故や交通事故が発生し、どの様にすれば事故を減らす事ができるか対策を考えている時期に、ある従業員から、事故を起こした従業員やその部署の責任者に対して、処罰や、業績評価に反映させるべきだとの提案がありました。私は、当初ネガティブにとらえ、その様な事をすれば逆に安全事故が起きても隠ぺいするのではないかと心配しましたが、実際にこの制度を採用してから、今まで700日間以上無事故が続いています。もちろんこれ以外にも安全に関する啓もう活動などの取り組みの効果もあると思います。この事から、中国での人の管理は、ダメな事はダメ、良い事は良いと明確にし、メリハリをつける「信賞必罰」が大切だと学びました。この経験は、給与制度などを作る上でも参考になりました。

 

◆◆◆  【製品を作るのは機械だが、品質を創るのは人】  ◆◆◆

(弊社)

現職に就かれ、実際に経営を見る中で、人事制度に関して改善すべき点や改革すべき課題は感じますか。

(西村 総経理)

間接部門の人事制度を改善する必要性を感じています。先の全人代で、製造大国から製造強国への転換方針が示されましたが、今後も人件費の上昇が予想される中、製造業であっても、開発や営業といった間接スキル人材のウェイトや重要度が増してくるものと思われます。その際の評価基準や間接部門の従業員の生産性を高める教育訓練制度といったものを真剣に検討する必要が出てくると思います。

(弊社)

パナソニックでは、パナソニック行動基準というものを22カ国の言語で作成し、全社員でグローバルな共有を図っているそうですが、これはどの様なものでしょうか。

(西村 総経理)

「行動基準」は、経営理念実践の指針を、わかりやすく具体的に表現したものです。「行動基準」は1992年に最初に制定され、以降2回の改定を経た後、2008年10月1日、社名変更・ブランド統一を機に、社名から松下の名前が消えるが、松下の経営理念は絶対に風化させてはならないという想いから、「パナソニック行動基準」として改定されました。世界22カ国の言語で作成されており、中国語版もあるので、弊社でも入社した全ての従業員に交付し、毎日の朝会で「綱領」「信条」「私たちの遵奉すべき精神」を読み上げるなど、経営理念の浸透に努めています。私もノートに挟んで常に持ち歩き、何かあった時に読み返して、行動の指針としています。

(弊社)

パナソニックでは、「事業は人なり。ものをつくる前に人をつくる」という経営理念のもと、創業時から人材育成の重要性を認識されているそうです。

(西村 総経理)

製品を作るのは設備や機械ですが、品質を創るのは人だと常に言っています。我々の扱う半導体は、本当に微細な数十ミクロンを加工するものなので、実際の加工は機械が行います。しかし、本当に正しく製品が出来ているかを見極めたり、今日は何かいつもと違うなあと感じるのは人であり、このことが品質を創り込むには重要なポイントになります。特に、「ゼロ・ディフェクト」が要求される自動車関連の半導体を扱う上では、品質を創るための人材育成がとても大切になります。

(弊社)

また、去年ご回答頂いたヒアリング調査でも、人材のトレーニングに重点を置いているとご回答頂きました。そこで、社員教育について、どのような取り組みをされているかお聞かせ下さい。

(西村 総経理)

職制と職能に分け、職制では、工場長や部長職を含めたいわゆる幹部職に対する教育、課長候補職やその下の係長クラスに行う人材育成と、職能レベルでは、技術、品質管理、ITなどマトリックスで進めています。会社の幹部職については、会社の優秀層はパナソニック全体の優秀層であるという考えから、パナソニック全体の教育カリキュラムがあります。しかし、責任者クラスの教育については、我々の業務内容や業態にマッチしたカリキュラムが少なく、今まで十分な教育が出来ていないと感じていました。そこで、今回中智さんに、課長候補者を対象にマネジメントの研修をお願いしました。研修に参加したメンバーからも大変いい勉強になった、今後の業務に活かしたいという感想を聞いて、有意義な内容であったと感じています。また、その下の階層については、毎年9月から3月までの半年間をかけて「昇格昇給研修」というものを行っています。研修の間には、全員が課題テーマを決め、取組みを推進して、最終のテーマ発表をした上で、合格者だけ昇格昇給させるなど、研修と評価、処遇とも連動させ、従業員のやる気を引き出す工夫をしています。

 

◆◆◆  【パナソニック創業100周年に向けて積極的な環境活動を行う】  ◆◆◆

(弊社)

「企業は社会の公器」の考えのもと、パナソニックではグループを挙げて、CSR活動を積極的に推進しておられますが、中国でもこの様な活動をされているのでしょうか。

(西村 総経理)

中国地区全体でパナソニックグループ環境活動というものを行っています。具体的には植樹活動と小学生を対象に子供環境教育を行っています。2009年からスタートし、ちょうどパナソニック創業100周年を迎える10年後の2018年までに、100万本の植樹、100万人の子供たちに環境教育を行うことを目標に掲げています。今年は4月16日にパナソニック中国公益林プロジェクトの拠点である内モンゴルダラタ旗中和西林場で植樹の活動を行いました。

(弊社)

最後に、これからの中国での展望をお聞かせ下さい。

(西村 総経理)

これからの成長分野である自動車関連の製品を開発し、事業化していきたいと考えています。その為にはやはり品質がとても重要ですから、品質を創るための人材教育にも力を入れていく必要があると考えています。そして、今まではパナソニックの商品を我々の工場が受けて生産していましたが、今後は外部に門戸を広げ、他社様からのご依頼を受けて対応させて頂く事もしていきたいと考えています。

(弊社)

本日はお忙しい中、長時間のインタビュー有難うございました。経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏は、率先垂範や人材教育の重要性を説いていますが、この事は国や文化を問わず経営管理の基本なのだと深く実感しました。

 

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 【西村 一弘(にしむら かずひろ) 氏のプロフィール】

上海松下半導体有限公司  総経理
1962年京都市生まれ。1987年に静岡大学工学部電気工学科修士課程を卒業し、同年、松下電器産業株式会社松下電子工業に入社。2003年に砺波工場技術部グループマネージャー、2006年に魚津工場工場長を経て、2011年から上海松下半導体有限公司総経理に就任し現在に至る。2013年には、上海市の社会的・経済的発展、文化交流に突出した貢献のあった外国人の企業経営者等に対して贈られる上海市白玉蘭記念賞を受賞。

 

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 【上海松下半導体有限公司 様 会社情報】

上海松下半導体有限公司
上海市漕溪路258弄25号
Tel(021)6482‐1608
FAX(021)6482‐9206
http://www.semicon.panasonic.co.jp/jp/

 

上海松下半導体有限公司  西村一弘 総経理
上海松下半導体有限公司  西村一弘 総経理

上海松下半導体有限公司  西村一弘
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