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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第34回

『福島県上海事務所 十二所 謙 所長 インタビュー!』2016/3/21


 
福島県上海事務所
十二所 謙 所長


  ●  風評払拭に向けた正確な情報発信に取り組む

  ●  福島は今が最悪の状態、これ以上悪くなる事は無い

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

今年で東日本大震災から5年を迎えた福島県。上海事務所の十二所謙所長に、復興の現状と今後の取り組みについて、中国へ進出している県内企業に対する支援等とあわせて伺いました。

 

◆◆◆  【福島県内進出企業の支援と風評の払しょくに取り組む】  ◆◆◆

(弊社)

福島県上海事務所の活動内容についてお聞かせ下さい。

(十二所所長)

当事務所は、経済成長著しい上海市をはじめとする中国との経済交流を促進することにより、福島県の地域経済活性化、産業振興を図ることを目的として、2004年7月に福島県唯一の海外事務所として設立されました。

(弊社)

主にどの様な業務を行っていますか。

(十二所所長)

重点活動項目として、①福島県内企業の中国進出支援及び展開支援、②中国人観光客の福島県への誘客、③福島県産品の中国に対する販路開拓の促進の三つを定めています。また震災後は、「福島県の正確な情報発信」を基本とし、重点活動を行っています。

(弊社)

県内からの進出企業は、どの様な業界が多いですか。

(十二所所長)

現在、当事務所が把握している限りでは、およそ150社の県内企業が中国に進出しています。業界は地域によって異なり、華東地区はアパレル業やサービス業が多く、華南地域は製造業が多くなっています。

(弊社)

在中国の県内企業からは、最近どの様な相談が寄せられますか。

(十二所所長)

既に進出されている企業だと、経営コストに関する悩みが多いですね。毎年大幅な上昇が続く人件費や家賃の値上がりで年々経営環境が厳しくなってきています。また、これから進出を検討される企業では、テナント料が高くて出店を躊躇する企業が多いですね。
この様な状況もあり、製造業から他業種への転換を検討される企業も増えています。例えばアパレルの製造だけだと厳しいので、販売、越境ECや異分野へ進出される企業もあります。ほかに事業縮小の相談も受けますが、撤退の相談はそれほど多くありません。

(弊社)

経営コストの上昇で、経営の厳しい企業が増えているようですが、福島県内企業の中国進出支援及び展開支援として具体的にどの様な取り組みをされていますか。

(十二所所長)

総領事館、ジェトロ、商工クラブなどの関係機関と連携し、現地情報の収集・発信を行っています。収集した情報は、HPで公開し、各種レポートを作成して情報提供を行っています。
そのほか、県人会のネットワークを活かしながら、中国進出県内企業を訪問し、企業の実態把握を行うと同時に、企業のニーズを吸い上げ、法務・労務・会計などをテーマに定期的なビジネスセミナーを開催しています。
昨年10月には中智さんに労務に関するセミナーを開催していただき有難うございました。また今後もセミナーにご協力お願いします。

(弊社)

こちらこそセミナーに呼んでいただき有難うございました。テーマに応じ、各専門のコンサルタントが在籍していますので、HRに関わるテーマであれば、どの様なテーマでもご遠慮なくご相談下さい。
次に、福島県を訪問する中国人観光客についてお聞かせ下さい。

(十二所所長)

残念ながら2011年の東日本大震災以降、原子力災害の影響もあり中国人観光客が福島への旅行を敬遠する状況が継続しています。中国政府からの渡航自粛勧告に加え、福島県に対する想像以上の風評が影響していると思います。新潟や宮城県を訪れると、多くの中国人観光客を見ますが、福島県内ではほとんど見られない状況です。

(弊社)

そのような中で、中国人観光客の福島県への誘客に関する取り組みについてお聞かせ下さい。

(十二所所長)

今、我々に出来る事は、福島の現状を正確に伝え、風評払拭に努めることだと考えています。除染作業が着実に進んでおり、県内の空間放射線量は、現在大幅に低下し、福島市やいわき市、会津若松市など、ほとんどの県内地域で東京など日本国内の主要都市だけでなく海外の主要都市と比べても遜色のないレベルまで低下しています。

(弊社)

原子炉の建屋が爆発する映像の衝撃が強かったこともあり、まだまだ福島は危険なのではないかという印象を持つ方は少なくないと思います。しかし、今日頂いた資料を見ると、福島県内の放射線量は上海やシンガポールより低い値を示しています。この様な客観的なデータを示していただくと、安心しますね。
ところで、農業の復興状況はどうなっているでしょうか。

(十二所所長)

やはり農業も福島県産に対する風評が非常に強いですね。福島県の代表的な農産品である桃と和牛の価格は、震災以降低迷しており、全国平均より低い価格での出荷が続いています。少しでも風評を無くすため、食品の安全・安心に向けた取り組みとして、農地の除染や、県産農林水産物のモニタリングを行っています。モニタリングでは、先進各国と比べても非常に厳しい基準を設定し、基準を超える農産品の出荷を制限しており、流通している農林水産物の安全性を確保しています。ちなみに去年のデータでは、玄米、野菜果実、畜産物、栽培きのこの基準超過は0件でした。

(弊社)

非常に厳しい検査体制を築いておられますね。逆に福島県産の農産物は日本一安全ではないかとさえ思えてきます。

 

◆◆◆  【震災から五年、今も続く復興への取り組み】  ◆◆◆

(弊社)

ところで東日本大震災の当時、十二所所長は何をされていましたか。

(十二所所長)

3.11の震災当時は、保健所に勤務していました。金曜日の午後でお客さんも帰り、一息ついた14時16分、机に掴まっていないと投げ出されそうになるほどの大きな揺れに突然襲われました。すぐに災害対策本部が県庁内に設置され、次の日から被災状況の把握と被災者保護のため徹夜の作業が続きました。地震と津波の被害は甚大なものでしたが、災害はそれだけに止まりませんでした。震災から3日後、福島第一原子力発電所で爆発があったらしいとの情報が入ってきました。そこからは、被ばく者の対応に追われることとなりました。

(弊社)

被災者支援の状況はどの様なものでしたか。

(十二所所長)

原発事故から一週間くらいは放射能汚染を恐れて民間のトラックが県内に入って来ず、食べ物やガソリンが不足する状況が続きました。とくにガソリンが不足したのはとても困りましたね。被爆者の対応では、原発事故後に避難指示区域の住民の方々が福島市などの内陸部や県外へ避難しようと移動してこられました。しかし、体に放射性物質が付着したまま避難所や県外に移動すると、汚染を広げてしまう恐れがあるので、まずは一カ所に集まってもらい、線量検査を行い、スクリーニングという放射性物質を水で洗い流す作業を行ってから移動して頂きました。

(弊社)

大変な状況が続きましたね。現在も避難所生活をされている方が多数おられるそうですが。

(十二所所長)

未だに約10万人の方々が避難生活を続けています。全ての住民が帰還できる日まで復興は終わりません。

(弊社)

十二所所長と中国の関わりを教えて下さい。

(十二所所長)

大学在学中の1991年から1年半ほど上海復旦大学に留学していました。当時の上海は今の様な高層ビルはほとんど無く、日本料理店は市内に1件しかありませんでした。雑然とした街並みでしたが、見た事もないものが売っていたりして散歩するのが楽しかったですね。ちょうど帰国直前に地下鉄1号線が開通し、記念に乗ったことを覚えています。そして帰国後、93年に県庁に就職し、国際関係の部署にいた時は中国と関わる業務にも携わりました。

(弊社)

震災復興支援で大変なご苦労をされた後、2014年に現職に就かれましたが、これまでで一番印象深いエピソードを教えて下さい。

(十二所所長)

今年の3月9日~11日の3日間、上海テレビで福島県の紹介番組が放送されたことですね。人気キャスターの呉四海さんや夏磊さんをレポーターに迎え、福島観光の魅力と食の安全性を伝えて頂きました。これで少しでも福島県の安全に対する不安が解消される事を願っています。

 

◆◆◆  【福島は今が最悪の状態、前向きな気持ちで福島の安全情報を発信】  ◆◆◆

(弊社)

今年の3月11日には、在上海日本国総領事館において、「3.11ふくしま復興の誓い2016」が催され、福島の復興に向けて決意を表明されました。県事務所として今後の復興へ向けた抱負をお聞かせ下さい。

(十二所所長)

福島は今が最悪の状態、これ以上悪くなる事はないと前向きな気持ちで、中国へ進出している県内企業への支援のほか、福島観光の誘客や県産品の販路開拓・拡大のため引き続き福島県の安全情報を積極的に発信していきたいと考えています。ぜひ個人旅行や社員旅行で福島を訪れて頂きたいと思いますが、難しい場合は、東京や大阪のアンテナショップで福島県産の果物や野菜を買って頂くだけでも有難いです。

(弊社)

本日は長時間のインタビュー有難うございました。福島県の復興に協力できる事があれば、積極的にお手伝いさせて頂きたいと思います。又、今回のインタービュー記事は、いつもと異なり中文に翻訳し、中智の媒体で中国人の社員達にも、福島のことを宣伝させていただくつもりです。
最悪状態から一刻も早く復興できるよう、中智日企倶楽部も、応援いたします。

 

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 【十二所 謙(じゅうにしょ けん) 氏のプロフィール】

 福島県出身。茨城大学人文学部卒業。大学在学中に上海復旦大学に留学。94年に福島県庁に入庁。国際交流課、地域振興課、県北保健福祉事務所、経営金融課などに勤務。東日本大震災の当時は、保健福祉事務所で被爆者の対応に従事する。2014年から福島県上海事務所所長に就任し現在に至る。

 

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福島県政府上海事務所  十二所 謙 所長
十二所 謙 所長1

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インタビュー風景

福島県政府上海事務所  十二所 謙 所長
3.11ふくしま復興の誓い2016