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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第38回

『課長塾IN上海 メイン講師 新 将命 氏 インタビュー!』2016/7/25


 
課長塾IN上海 
メイン講師 新 将命 氏


  ●  経営の原理原則は、国や文化を超えて共通する

  ●  海外で成功する企業の条件

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

伝説の外資トップとして、長年の経験と実践をベースに、実際に役立つ“実論”の提唱を眼目とした、独特の経営論・リーダーシップ論により「リーダー人財開発」の使命に取り組んでおられる新将命氏。中智上海と日経BP社が共催する「課長塾IN上海」のメイン講師を務める同氏にインタビューしました。

 

◆◆◆  【経営の原理原則は、国を問わず通用する】  ◆◆◆

(弊社)

海外初開催となる「課長塾IN上海」初日の講義を終えられて、率直な感想をお聞かせ下さい。

(新将命氏)

今回の「課長塾」では、日本人と中国人が4:6の割合で中国人の方が多く、皆さんどんな反応をされるのか想像がつかなかったのだが、驚くほど日本と変わらなかったという印象です。皆さん受講態度が真面目、非常にマナーが良く文化的で、価値観の差もあまり感じませんでした。経営の原理原則は、国を問わず通用するものだと改めて感じました。
ただし、残念だったのは、スピークアウト(自己主張)も日本人と変わらず控え目だった点です。中国人は日本人より自己主張が強いと聞いていたが、日本人と一緒なので少し遠慮していたのかも知れませんね。しかし、指名すると皆さん積極的に発言していました。

(弊社)

新先生は今年、80歳の傘寿を迎えられます。しかし年齢からは想像できないほどパワフルですが、お元気の秘訣を教えてください。

(新将命氏)

元気の秘訣は3つあります。ひとつめは、いつまでも若い心でいる事です。例えば年齢を聞かれた時、“I am seventy-nine years young”と答えるようにしています。“old” ではなく“young”と答えれば年をとらないと自分に暗示をかけています。年は傘寿、心は三十ですな(笑い)。
ふたつ目は、いくつかの納得目標を持ち、追い続ける事です。自分がやってみたいと思う目標を私は、納得目標と呼んでいるのですが、例えば今年は本を3冊書くとか、3回海外旅行に行くという目標を掲げています。目標を追いかけている間は年を取りません。
みっつ目は、なるべく若い人と付き合うことです。「老人は、過去を語り、若者は未来を語る。」という言葉があるが、老人ばかりの同窓会に出ても、みんな想い出話か孫の話、血糖値や血圧の話ばかりでつまらないね(笑い)。だから若い人と話して生気を貰うように心がけています。今日も皆さんからの気を随分貰いましたよ。
更にひとつ付け加えるとすれば、一日40分歩く事ですね。人は足から年をとると言いますからね。これが私の元気の秘訣です。

(弊社)

「仕事以外のテーマ」を持つ事を勧めておられますが、先生にとっての仕事以外のテーマは何でしょうか。

(新将命氏)

ひとつ目は、本を書くことです。今月も新書を出版しますが、これまでの人生で45冊くらい楽しみながら書きました。今月も新書を3冊出版予定です。
ふたつ目は、“Holes in the day”つまり仕事の穴を活用して、月に2回くらいは歌舞伎やオペラなどを観劇しています。自分の仕事と全く関係の無い事をやると、心の琴線が震えて刺激になり、ダレそうになった気持ちがシャキッとなります。
みっつ目は、先ほど話した年に3回の海外旅行です。

 

◆◆◆  【姉の言葉が外資系企業を選んだ原点】  ◆◆◆

(弊社)

大学卒後、外資企業へ就職されました。外資企業を選ばれた理由を教えて下さい。

(新将命氏)

これには原体験があります。戦時中、私が小学生の頃に、7歳年上の姉から「日本はもうじき戦争に負けるわよ。戦後は狭い日本に閉じこもってないで、世界を舞台に国際人として活躍しなさい。」とよく煽られました。姉の影響もあって、英語を使って海外で働きたいとい思うようになったことが原点としてあります。
ふたつ目の理由として、日本の昇進制度が挙げられます。年功序列という言葉がありますが、当時の日本は“年功”序列ではなく“年齢”序列でした。功績がなくても年を取れば部長になれ、どんなに優秀でも30歳の若造は虫けら同様というのは、私の性分に合わないと思いました。そう考えると、あまり年齢に関係なく実力で遇してくれるのは外資だったんですね。
みっつ目の理由は、海外で働く機会があった事ですね。いまでこそ誰でも海外旅行に行くことが出来ますが、当時は簡単に海外へは行けなかった。
よっつ目は、得意の英語が使える環境だったことですね。そこで、大学卒業後に、日本企業にも数社受かったのですが、外資企業であるシェル石油に就職しました。これは誠に良い決断だったと思います。もし、私が日本の企業に就職していれば、45歳で社長にはなれなかったでしょう。

(弊社)

その後、一貫して外資系企業でキャリアを積まれてこられましたが、外国企業で働くことの文化や価値観の違いによる戸惑いはありましたか。

(新将命氏)

幸いに私が就職した企業においては、企業文化の面で違和感を感じませんでした。強いて挙げればアメリカ企業では、短期の業績が重視され、日本企業のように長期的な視点であまりモノを見ないという傾向がある点でしょうか。

(弊社)

外国人社員との付き合い方に関してはどうでしょうか。

(新将命氏)

やはり違いは違いとして認め、リスペクトする事が大切ですね。違いがあるからけしからん!ではダメで、良い悪いという次元で捉えるのではなく、違いを尊重したうえで、どういう違いがあるのかをきちんと相手に説明する。そして双方が納得できる融和点を一緒に探求することが大切です。

 

◆◆◆  【海外で成功する五つの条件】  ◆◆◆

(弊社)

先生は、日本で苦戦するグローバル・エクセレントカンパニー4社の日本法人トップとして業績を改善されました。

(新将命氏)

フィリップスやホールマークなど、当時日本で業績がふるわない会社を4社それぞれ4年間で業績を改善した成功例があります。何をやったかというと、講義の中で紹介したフローチャートに従って、人財育成を原点に置く「経営の原理原則」を頑なに実行しました。

(弊社)

在中日系企業の多くが経営上の困難に直面しています。日本企業が海外で成功するためのアドバイスをお願いします。

(新将命氏)

日本企業が海外に進出して成功するための条件のうち80%は、進出前の事前学習で決まります。つまりその国の歴史、文化思想、商習慣、さらにどの地域に進出するかなど事前にきちんと学習してから進出する事ですね。とりあえずやってみて、試行錯誤するやり方ではうまくいきません。
駐在員について言うと、赴任していく限りは、その国の基本的な言葉は学習しておくべきです。まったく中国語ができずに、中国でいい商売をやる事は現実的に難しいと思います。ビジネスレベルまでは必要ないと思いますが、簡単な会話くらいは出来るように学習しておくべきです。
また、少なくとも4、5年はいるというコミットも大切です。以前、ある大手総合商社のイギリス支社で研修を行った時、懇親会の席であるイギリス人社員が日本人駐在員を指さし、「彼らはみんな回転ドアですよ。」と言うのです。つまり、ロンドンに赴任して2、3年でグルッと回って日本に帰ってしまうという意味です。
帰任後に、新しくイギリスの事情が分からない駐在員が来て、また一から教えなければならない、と苦笑していました。やはり海外に赴任すれば、5年や10年はその国に腰を据えて長期的にコミットする姿勢が必要だと思いますよ。そうでないと回転ドアになって中途半端に終わってしまいます。
そして、自分の片腕になる社員、ゆくゆくは後継者となる人材を発見し育成しなければならない。後継者の育成をやらない会社には、優秀な人材は入らないし、入っても途中で辞めてしまいます。
最後に、日本本社と良好なコミュニケーションが出来なければならない。総経理の中には「本社の人間に中国の何が分かるのか。本社の奴らは黙ってろ!」と言う人がいるが、これではダメです。かつてジョンソン・エンド・ジョンソンの社長をしていた時、営業所長や支店長でうまくいく社員は、みんな本社とのコミュニケーションがうまかった。本社をうまく味方に引き入れることが大切です。

 

◆◆◆  【優秀な人材を引き留めるには】  ◆◆◆

(弊社)

中国では、日本の様な終身雇用が定着しておらず、教育にお金をかけて育てた人材が辞めてしまう事もあり、人材への投資に消極的な企業も少なくありません。この点について、ご意見をお聞かせ下さい。

(新将命氏)

優秀な人間を引き留めるには、相応の給料を払う事も大切ですが、「この会社は長く働いていると楽しみな会社だ。会社の成長と共に自分も成長できて将来の夢がある。」と感じさせるが事がより大切です。つまり企業理念と自分自身の成長機会の共有です。ある意味、青臭い話に聞こえるかも知れませんが、これをやると、少しばかり良い待遇のオファーがあっても出て行かない社員が確実に増えてきます。
そして、横並びの年齢序列ではなく、正しい年功序列(年齢と功績)を重視する人事制度も大切です。将来、会社の経営を担ってもらいたい“人財”には、思い切った給料を払うべきです。そして、現地法人のトップに就くことのできる可能性を示すこと。そのための条件をきちんと説明すれば、優秀な社員は腰を据えてやる気が出てきます。そして一番重要なのが権限移譲です。かつてアメリカの会社に勤めていた時に、日本人は副社長止まりだとか、よしんば社長になっても、アメリカ本社の指示通りにやるだけのリモコンだという恨み節を何度となく聞いたことがあります。優秀な現地社員に対しては、思い切った権限移譲をしてやらないと、現地社員はやる気を無くして辞めてしまいます。

(弊社)

これからの目標をお聞かせ下さい。

(新将命氏)

既に、経済面で日本と中国は切っても切れない関係になっています。同時に、日本企業にとって日本国内だけでは今後の成長は難しく、海外進出が必須の経営課題となっています。そう考えた時に、最も将来性のある国が中国です。日系企業もその中国で経営を担う人財を育てていかなければならない。これは国家的にも意味のある仕事だと思います。そうした点で、老齢ながら“seventy-nine years young”の気持ちで私が役に立てれば光栄です。

(弊社)

最後に、中智日本企業倶楽部に対するコメントをお願いします。

(新将命氏)

企業が成功する最大の条件である人材育成と在中ビジネスのサポートを行い、日中の懸け橋となる能力を持っている会社はそう多くはありません。中智上海と倶楽部の活動を高く評価し、敬意を表します。是非これからも頑張って下さい。

(弊社)

長時間の研修後で大変お疲れにもかかわらず、熱のこもったインタビュー有難うございました。これからも、中智上海は日系企業が中国で勝ち残るための人材育成に力を入れていきたいと思いますので、引き続き、新先生のお力添えをお願いします。

 

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 【新 将命(あたらし まさみ) 氏のプロフィール】

1936年東京生まれ。国際ビジネスブレイン代表取締役社長。早稲田大学卒業後、シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどグローバル・エクセレントカンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から住友商事などのアドバイザリー・ボードメンバーを務める。7月25日から3日間で行われた「課長塾IN上海」ではメイン講師として、2日間にわたり経営の原理原則を徹底指導する。


 

インタビュー風景
インタビュー風景

新 将命 氏と受講生の記念写真
新 将命 氏と受講生の記念写真

  

新 将命 氏

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新 将命 氏と日本企業倶楽部

新将命氏と中智日本企業倶楽部

新 将命 氏の新著

新 将命 氏の新著