聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第46回
『今、中国で求められる人材戦略-大手5社から聞く!』2017/9/25
● いまだに残る「中日の壁」をどう破るか?
● 中国発「グローバル人材」の育て方
(弊社インタビュアー)(以下弊社)
今回の人力資本論壇「日系企業分科会」では初めてパネルディスカッション方式が採用されました。「経営と人」をテーマに、中日の壁をどう打ち破るか、中国発のグローバル人材の育て方について、中智と大手日系企業の代表者がディスカッションを行い、日系企業成功の道とボトルネックを探りました。
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◆◆ いまだに残る「中日の壁」をどう破るか? ◆◆
(中智馮部長)
中日の壁について、まず岩永さんは、どうお感じになりますか。
(岩永本部長)
市場における壁は、当社の業界では高くありませんが、競争の激しさを壁と感じることはあります。制度面では、グレーゾーンの取り扱いに差を感じます。日本ではグレーゾーンはダメだという事になりますが、中国では、グレーゾーンにはよいものがあると考えます。また心理面では、意思決定のスピード感に対して壁を感じます。
(谷口コメンテ―タ)
岩永さんは、そのような違いについて、日本側がついてこいよという考えですか、それとも中国側はもっと慎重にやれよという考えですか。
(岩永本部長)
前者の考え方です。当社は日本で長い歴史があり、何をするにも石橋を叩いて渡る古いタイプの会社でした。ところが最近変わってきて、「領域を超えて未来へ」をスローガンに積極的に海外展開を図っています。現在、売上げの3割が海外、従業員数では海外の方が多くなっています。
江蘇王子製紙では、総経理は中国人が勤めており、それを日本人駐在員がサポートする体制にしています。これにより、トップダウンにより意思決定のスピードがあがり、日本人駐在員がガバナンス面を担保する体制がうまく機能しています。
(谷口コメンテ―タ)
なるほど。それが唯一の解ではないと思いますが、トップを中国人の方にするのが、こちらでの事業をうまく運営するための一つの手段ということですね。
(中智馮部長)
次に、富士フイルムの姚さんは、中日の壁についてどう感じていますか。
(姚部長)
壁は幾つか感じていますが、そのうち一番気になっているのが、権限移譲の壁です。上海の欧米企業では、駐在員はごくわずかで、総経理も中国人という企業が少なくありません。当社でも現地化を進めていますが、なぜ日系企業では現地化がなかなか進まないのか。おそらくコンプライアンスやリスクマネジメント上、大切なポジションは日本人という考えがあるのではないでしょうか。「権限委譲したら不安、権限委譲しなければ大変」それが日系企業のジレンマに思えます。中国に駐在する日本人は必要かもしれませんが、その役割は何か、統括管理をすればよいのか、これから考えていかなければならない課題だと思います。
(中智馮部長)
ご来場の皆さまの8割は日本人駐在員の方ですが、駐在員の役割は何でしょうか?森川さんに伺いたいと思います。
(森川高級総経理)
駐在員の役割を考える前に、まずは会社の事業運営や経営がどう進むべきかがあり、各ポジションの役割がデザインされます。その目の前の役割に相応しい人材は誰なのだろうと考えます。例えば候補者がAさん、Bさん、Cさんといたとすると、中国人か日本人か、またはアメリカ人かなどは考えず、誰が一番そのポジションに相応しいか公平公正に適材適所を考えることが正解だと思います。もちろん、日系企業ですから、日本本社との連絡業務は日本人にアドバンテージがあると言えます。しかしそれ以外にも重要なポジションはたくさんある訳ですから、そこは、国籍に関係なく役割に合った人材を見定める事が大切です。そうやって選んだ時、結果的に日本人が多ければ現地のスタッフをもっと育てていけばよいのではないでしょうか。
私が心配するのは、現地化する事が目的になり、いびつな形になることです。私どもとしては、それはやりたくないなと。
(谷口コメンテ―タ)
私が記者をしていた20年前から、現地化の課題はありました。当時は、日系企業だから日本人がトップにいて、少しずつ下から仕事を任せてゆき、だんだん上に上がっていく。いよいよ総経理が中国人になる頃には、日本人駐在員が一人もいなくなる。という画一的なイメージで語られていましたが、皆さんの話を聞くと、日系企業だからどうという訳ではなく、適材適所で人材を選び、日本人が中国人に使えることもあるし、部分的に適したポジションに配置されることもあるという、理屈としてはその通りですが、今まであまり考えられなかった事がいよいよ起きているし、起こさなければならない時なのだと感じました。
(中智馮部長)
続いて、鄭さんは日中の壁についてどう感じますか。
(鄭統括本部長)
先ほどから駐在員の話題が出ていますが、私はこれまで幾つかの日系企業で働いた経験から、中国人の立場として、駐在員をどういう基準で選んだのか理解できない場合がありました。本社は中国の子会社をどういう位置付けにして、どういう人材を送るのか、異なる文化の中で仕事をする訳ですから、どういう人材を選ぶかが非常に大切だと感じます。そこが間違うと、中国人社員からすればやはり日系企業は中国の企業ではないと感じ、長い目で見れば優秀な人材が去っていくのではないでしょうか。
(中智馮部長)
来場の皆さまの会社では、駐在員を中国に派遣する際に、相応しい人材かどうか現地との相談はあるでしょうか。続いて境さんはいかがでしょうか。
(境総経理)
壁と言うよりも、距離感を感じます。当社では今年の5月に中智さんの協力を得て日本本社の新入社員研修を中国で行いました。これは、日本にいる社員があまりにも中国の事情を知らなさすぎるという距離感を感じたことがきっかけです。
この研修の様子は日経ビジネスで取り上げて頂きましが、記事のサブタイトルに「最初は中国になんか来たくなかった」というある女性新入社員の言葉が書かれていました。ところがその彼女は2週間の上海での研修を終える頃には、中国に赴任したいと言うようになりました。これは中国への印象が好転したというより、中国に対するネガティブなイメージが変わったのだと思います。
ほかには、社内報で中国特集を組んでくれるよう提案しました。普通なら現地の駐在員が写真と文章を送って、「中国でこんな事が起こっていますよ」というレベルの事しかやりませんが、今回は、中国に来た事のない女性広報員に来てもらい、中国にある13拠点全てを回りインタビューしてもらいました。中国の工場の食堂でご飯を食べて感じた通りに書いて下さいと。社内報は作業員から社長、会長まで全社員が読みます。それが中日の壁に風穴をあける事になればと期待しています。
◆◆ 中国発「グローバル人材」の育て方 ◆◆
(中智馮部長)
続いて、中国発グローバル人材の育て方について皆様のご意見をお聞きします。まずは、パネリストの中で海外経験の一番豊富な森川さんからお願いします。
(森川高級総経理)
キヤノンアジアマーケティンググループでは、ローリングストーン政策を採用しています。中国の人はとても頭がいい、学習能力も業務処理能力も高い。しかし、ひとつ可哀想だな、日本人と比べてなんとかしてあげたいと思う点が、経験です。経験が人を育てます。この会場にいる駐在員の皆さんは、少なくとも2カ所以上で働いた経験があるはずです。
色々な経験を積むと、自分の物差しが増え、さまざまな判断基準が身につき最終的な意思決定がより濃いものになります。このような考えから、できる限り中国やアジアの皆さんに色々な機会を提供するため、よりグローバルな展開を進めています。
現在、中国だけで3名が国際赴任しています。アジア全体では、最近は社長クラス、副社長クラスもどんどん転勤しています。例えばインドの副社長がフィリピンに、香港の社員がインドに転勤することが当たり前のように行われています。中国国内でも、ここ五、六年力を入れており、40人くらいが転勤しています。
(中智馮部長)
中国の社員は、職位や勤務地の変更はあまり好まず、また法律上も労働契約で約束した職種以外への配置転換は、本人の同意が必要になるなど、各会社はちょっとしたポジションの異動でも心配しています。御社はどの様に対応していますか。
(森川高級総経理)
キーワードは、“制度と風土”だと思います。転勤制度では、どこか地方に行かされて損したよと思われないような、それなりに手厚い待遇を制度として考えています。
ただし、これだけでは動いてくれないので、良いケースを作ってあげます。「あの人は色々動いて、いつのまにか部長になったよ。」と、動く事によってメリットがあるという事を形で見せてあげる。そうすることで、それがどんどん伝わって、私も私もと手を挙げる社員が増えてきました。“制度と風土”をうまく循環させることで今に至っています。
(中智馮部長)
今まで人事については制度を強調することが多かったですが、森川さんのお話しで会社の社風、文化をきちんと作ることが大切だと分かりました。
江蘇王子製紙では、“one oji”という取り組みをされているそうですが、どの様な取り組みかご紹介ください。
(岩永本部長)
当社の総経理は中国人とお話ししましたが、その上に中国総代表として、譚というカナダ国籍の中国人が務めています。これにより、意思決定にスピード感が出て活気が生まれました。その譚総代表が掲げたスローガンが、“one oji”です。現在、14社のグループ会社が中国で展開中ですが、従来ほとんど交流がありませんでした。しかし、それでは王子グループとしての力が発揮できないということで、“one oji”というスローガンを掲げ、第一段階として、まずは上海市内に展開している8社を一つのオフィスに集め、パーテーションを無くし、端から端まで見渡せる作りにしました。現在は次の段階として、シナジー効果を出す事を目的に、管理部門のグループ間統合を進めています。
(谷口コメンテ―タ)
会社を飛び越えた人事異動は考えていますか。
(岩永本部長)
当然考えています。さきほど森川さんから“制度と風土”のお話しがありましたが、中国の人は会社を移りたがりません。日本人なら転勤や転部は簡単に受けるのですが、中国人にとっては、たとえオフィスが同じであっても、全く別の会社に移動すると感じるようです。移った先の待遇は変わらないと説明するのですが、信用できないと言われます。私もそこにいるから大丈夫というのですが、なかなか想いが伝わりません。
円滑に進めるためには、制度面でインセンティブを与えないと難しいのかなと感じています。
(中智馮部長)
時間も迫ってまいりましたので、グローバル人材について、キヤノンさんの4Qについてご紹介いただきたいと思います。
(森川高級総経理)
弊社は、中国やアジア全体での採用活動の際に、4つのQを常に念頭に置いています。皆さんご存じのとおりIQは知能指数、EQは感情指数、あと二つはAQ、GQというものがあります。AQとは逆境指数、ストレスに耐えられる精神力、GQとはグローバル指数で、グローバル的な感覚をいい、言葉ができるかどうかではなく、幅広い考え方や柔軟な発想ができるかどうかです。この4つを軸に採用基準活動を行っています。その中でも、特にEQを重視しています。
(谷口コメンテ―タ)
グローバル人材について富士フイルムさんや新日鉄住金軟件さんでは何かお考えはありますか。
(姚部長)
弊社の場合、グローバル幹部候補者向け研修GLS(Global Leadership Seminar)と地域ビジネスを担う幹部候補者向け研修RLS(Regional Leadership Seminar)という二つのカテゴリがあり、国籍、性別、出身を一切問わず、人材であればどの国においても富士フイルムグループの人材として大切に扱われます。中国人は国内の転勤も難しいのに、どの様に海外に赴任させるか。これについては、キャリアパスの設計、将来のビジョンを示しています。また富士フイルム中国の場合、コア人材に対しては、福利厚生や制度面のサポートを充実させながら、社員個々人の自己成長を応援しています。
(鄭統括本部長)
弊社はグローバル人材を育てる段階まで至っておらず、去年にようやくセグメント長レベルが中国人になったところです。彼らは10年や15年前に日中の経済格差が大きかった時代に、日本の仕事を経験し、日本の仕事のやり方を覚え、現在40前後で一つの部門を立ち上げるまでになっています。それよりいま心配しているのは、若い人材です。有名大学の新卒者がなかなか採用できないのが現状で、ランクを下げて採用しても、なかなか新卒者が定着してくれません。彼らの生声を聞くと、特に当社のようなIT業界は中国企業がかなり成長してきています。そうすると、日系企業の場合、技術以外に日本語を勉強しなければならず、今の優秀な若者からするとあまり魅力がないのではないか。将来、我々の様な日系企業から優秀な人材がいなくなるのではないかというのが課題です。したがって、社内を英語化する方向に転換することも検討しています。
(中智馮部長)
優秀な人材をどう採用するか、どうコア人材を留保するかは頭の痛い問題です。優秀な人材が辞めると言った場合、森川さんはどう対応しますか。
(森川高級総経理)
まず、辞表を出して辞めますと言われた時には、もう遅いと思います。そこで引き留めて残るくらいなら、彼ら彼女らは覚悟を決めて辞表を出さないでしょう。
それでは会社は何をすべきか、当社の取り組みを紹介します。当社では2年に一度、アジア全社統一で従業員満足度調査を行っています。社員が何に満足して何に不満を抱いているのか年齢別、部門別、等級別にきちんと分析します。
もう一つは、離職する際に、本当の理由を聞き出すことです。当然に皆さん、家族の事情やキャリアパスを理由にしますが、別の本音があると思います。それをしっかり聞き出します。それだけではなく、社員の本音を普段から聞くことも大切です。
社員から辞めると言われない様にするにはどうすればよいか、給与やベネフィットは別として、例えば今の仕事で煮詰まっているようであれば、別の機会を与えてあげればいいし、こういう教育制度を充実して欲しいという声が強ければ、教育制度を変えていけばいいと思います。この様に予防線を張り、先手を打って早め早めに社員のモチベーションをコントロールする事が大切だと考えます。
(中智馮部長)
もっと皆さんのお話しを聞きたいところですが、残念ながら時間となりましたので、本日はこれにてパネルディスカッションを終了させていただきます。
本日は「経営と人材」について、少しでもご参考になれたでしょうか。中智日本企業倶楽部中智智櫻会は、これからも引きつつき、日系企業の人材戦略についてこの様な交流会を設けていきたいと思います。本日は有難うございました。パネリストの皆さまも長時間本当に有難うございました。
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以下ご紹介いたします。(中文)(企業名ローマ字順)