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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第52回

『衛材(中国)投資有限公司 兼古 憲生 董事長 インタビュー!』2018/5/31


 

衛材(中国)投資有限公司
兼古 憲生 董事長


  ●  現地マネジメントによる迅速な意思決定を実現

  ●  本社のグローバル戦略を担う中国人社員たち

 

(弊社インタビュアー)(以下中智)

hhc(ヒューマンヘルスケア)を企業理念に、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に取り組むエーザイ株式会社。グローバル展開初期から中国に進出するなど、中国市場を重視しています。中国法人では、ほとんどの経営判断を、本社決裁を経ずに行える体制を確立し、既に現地化の段階からグローバル化の段階を迎えています。今年の6月、「HRoot awards2018」 において、2018年大中華区最優秀人力資源団体として表彰されました。その中国法人のトップとして、長年現地化・グローバル化を推進されてきた衛材(中国)投資有限公司の兼古憲生董事長にインタビューしました。

 

◆◆◆  研究者15人の小さな研究所からグローバル企業へ   ◆◆◆

(中智)

本社であるエーザイ株式会社の沿革と事業内容についてご紹介ください。

(兼古董事長)

当時輸入品頼みだった日本の製薬業界で新薬の自主開発を志し、1936年に創業者の内藤豊次が合資会社桜ヶ岡研究所を東京で設立し、研究者15名の小さな研究所からスタートしました。その後、41年に日本衛材株式会社を設立、44年に合資会社桜ヶ岡研究所と日本衛材株式会社の対等合併により、日本衛材株式会社となりました。55年には社名を日本衛材株式会社からエーザイ株式会社へと改名し現在に至ります。従業員数は全世界で約1万人。その中、日本国内が約5千人、中国が2番目に多く約2千人となっています。

(中智)

グローバル展開のきっかけをお聞かせ下さい。

(兼古董事長)

当社は創業80年とグローバルに展開する製薬会社の中では比較的新しい会社です。もともとは日本国内をメインに事業展開をしていましたが、1990年代にアルツハイマー型認知症治療剤と胃潰瘍の薬剤を開発し、欧米と中国でグローバル販売を本格的に開始しました。

 

◆◆◆  権限委譲による迅速な意思決定を実現   ◆◆◆

(中智)

早くから中国事業を意識されていたようですが、中国との関わりを教えてください。

(兼古董事長)

中国との関わりは、1972年に北京大学に対して、肝がんの検査薬を提供したのがきっかけです。本格的な中国事業は、91年に中国の東北製薬と医薬品の製造販売を目的とした合弁会社の設立に始まります。96年には独資として蘇州に工場を設立し本格的な生産販売を開始し、2010年には蘇州で貿易会社を設立しました。14年には、中国統括会社である「衛材(中国)投資有限公司」を設立し、ローカルマネジメントによる迅速な意思決定を可能とする体制を確立しました。15年には遼寧省のジェネリック医薬品会社を買収し、この会社と合わせて3つの会社を統括管理しています。

(中智)

御社のグローバル戦略における中国の位置づけを教えて下さい。

(兼古董事長)

中国は世界第2位の医薬市場であり非常に重視しています。当社における中国事業は、日本・米国に次ぐ規模を有する中核事業であり、全世界での売上総額のうち約10%を中国が占めています。これは大手製薬会社の中でも比較的に高い割合です。今年は蘇州の新工場が稼働し、従来の蘇州工場と合わせると当社グループ全体でも1,2の生産量を誇る規模の工場となります。

(中智)

現地日系企業の多くが、経営課題の一つとして迅速な意思決定を挙げています。御社は統括会社の下、中国市場における迅速な意思決定を可能にする体制を確立されていますが、どの様にして迅速な意思決定を可能にしているのでしょうか。

(兼古董事長)

エーザイでは、世界を日本、米国、ヨーロッパ、中国、アジアの5つのリージョンに分け、大幅な権限移譲を行い、基本的に独立した経営を行っています。本社に報告すべき事項や決済を経なければならない事項は事前に決められており、各リージョン内で完結する事項は、原則として本社の決済を経ずに、各リージョンが決定することができます。今年1月に竣工した蘇州の新工場建設は中国側で決断したプロジェクトです。当然、現地で決定できる分、責任も全て負わなければならず、結果責任が問われます。

 

◆◆◆   グローバルに活躍する中国人社員   ◆◆◆

(中智)

かなり現地化が進んでいるようですね。

(兼古董事長)

中国法人の従業員約2千名のうち、日本人駐在員は6名で総経理も中国人社員が務めています。日々重要な経営判断は中国人経営層が行っており現地化を進める段階はすでに終え、中国人社員からグローバルな役割を担える人材を育てる段階を迎えています。
これまでグローバルに働くのは日本人社員と欧米人社員が中心でしたが、中国人社員の中からもグローバルに活躍する社員が出てきています。例えば甲状腺の抗がん剤「レンバチニブ」のグローバルプロダクトマネジャーは中国人で、現在アメリカに赴任しています。また工場のグローバル責任者も中国人社員です。欧米の製薬会社と比べても、現地社員他グローバルに活躍するチャンスは多いと思います。

(中智)

中国人人材の質は、日本やアメリカと比べていかがですか。

(兼古董事長)

人材の厚さで言えば、中国は日本に次いで多く、アメリカより豊富だと感じています。実は新薬の開発ができる国は少なく、日米欧州を除けば中国くらいです。中国には古来より漢方があり、もともと中国人は薬に対する強い思い入れがあります。さらに国家としても医薬業界を支援しており、製薬会社の人材が育ちやすい環境にあると感じます。医学部を出て製薬会社に就職する人が多いのは日本と大きく異なります。

 

◆◆◆  現地化しても、日本的な企業文化を大切にする  ◆◆◆

(中智)

現地化が進む中で、日本的な良い企業文化が薄れてしまう心配はないのでしょうか。

(兼古董事長)

中国はビジネス環境の変化が速く、経営においても迅速な意思決定が求められます。その様な環境もあってか、一般的に中国人社員は意思決定をする際、一部の事象だけを捉えて迅速に判断する傾向があります。それに対して日本人社員は、あらゆる可能性を考慮しながら慎重に判断する傾向があり、それぞれ長所と短所があると思います。
当社は日系企業ではなく、グローバルな製薬会社であると認識していますが、日本をルーツとする企業である限り、日本的な考え方も理解して行動する必要があります。そこで、馮艶輝総経理の発案で、彼女が自ら感じた日本本社の意思決定原則を中国語に翻訳し、「管理基本原則」として中国人社員に配っています。そこには、「考え抜けば考え抜くほど良い決定が出来る。」、「悪魔は細部に宿る。」など日本本社の企業文化を反映した項目も加えられています。

(中智)

現地化が進む中で駐在員の役割について、どのようにお考えですか。

(兼古董事長)

中国の製薬業界はこれまで安定成長を続けており、社員の中にも安定した産業だというイメージが強くあります。しかし欧米や日本では、常にイノベーションを起こし続けなければ存続できない業界です。新薬を開発できなければ業績は下がり、逆に新薬を開発すると一気に業績が拡大することもあります。
しかし、中国人社員はまだそのような厳しい時期を経験していません。我々駐在員は、今のような安定成長が続く状況は例外だということをきちんと理解してもらい意識づけてゆく役割があります。
また、中国の売り上げが好調で、中国の目標が達成できれば良いのではなく、グローバルに会社全体を見てもらうことを期待しています。中国人社員がグローバルに活躍する為のサポートも駐在員の重要な役割の一つだと考えます。

(中智)

報道によると、今年5月から輸入抗癌剤の免税が実施されますが、業界や御社への影響や期待をお聞かせ下さい。

(兼古董事長)

中国では、抗がん剤は大部分が輸入品なので税金が免税になり、その分薬価が下がれば患者様にとってメリットになるものと期待しています。

 

◆◆◆   hhc(ヒューマンヘルスケア)の実践   ◆◆◆

(中智)

兼古董事長は、中国駐在経験が豊富ですが、一番印象に残った出来事を教えてください。

(兼古董事長)

中国に初めて赴任したのが2005年で2010年の上海万博の頃まで駐在していました。その後日本へ帰任し、14年に中国リージョン独立支援のため再び中国に赴任し現在に至ります。
その中で一番印象に残っているのが、最初の中国駐在の際に病院を訪れたときの経験です。上海の大きな病院を訪れると、朝早くから診察に長い行列が出来ていました。5分の診察を受けるのに何時間も待たなければならない。また地方の病院を訪れると、慢性的に医薬品が不足している状況を目の当たりにし、必要な医薬品を必要とする人々に届け、医薬品へのアクセスを改善しなければならないと強く決意しました。
今でも時間を作っては、中国各地の病院を訪問しています。最近では、ウルムチの病院や、西安市郊外の病院など、交通アクセスの良くない地域の病院にも積極的に足を運んでいます。製薬会社として、医療問題の解決にどの様に役立てるか、常に考えています。

(中智)

御社は、CSR活動に積極的に取り組んでおられるそうですが、取り組みについてご紹介ください。

(兼古董事長)

エーザイでは、hhc(ヒューマンヘルスケア)を企業理念としています。hhcの意味するところは、社員一人ひとりが患者さまに寄り添い、患者さまの目線でものを考え、言葉にならない思いを感じ取ることが重要だということです。そして企業理念であるhhcに基づき、患者様への様々な貢献をめざした「hhc活動」等を全世界で行っており、その中から優秀な活動を選び、内藤CEOが代表して表彰する、「hhc Initiative」を、毎年エーザイ本社で開催しています。昨年は中国の活動が表彰されました。

(中智)

どの様な取り組みが評価されたのでしょうか。

(兼古董事長)

中華料理では、大皿に盛り付けられた料理を各自が自分の箸で取る習慣がありますが、これが肝炎や、胃がんの原因となるピロリ菌に感染するリスクを高める原因になっています。そこで、エーザイ中国の社員たちは、感染に対する意識向上のために取り箸をキャッチコピーにした「取り箸普及プロジェクト」を立ち上げ、社員に向けた教育活動や、上海の病院と提携して、患者様向けに取り箸普及の教育活動を展開しました。

(中智)

直接に自分の箸を使って料理を取ることに、その様なリスクがあるとは知りませんでした。最近では、中国のレストランでも取り箸を置いている店が増えていますが、この様な危険性が徐々に認知され始めているのかも知れません。

(中智)

最後に、今後の展望をお聞かせ下さい。

(兼古董事長)

中国において、肝がんが世界の患者数の半数を占めるなど、がんは重要な疾患となっています。当社でもがん領域を戦略領域の一つと位置付けて開発に取り組んでおり、がん根治の実現が近いといれる中、今後のがん治療におけるスタンダードな処方となる薬剤の開発を実現し、中国だけでなく世界の患者様の命を救うことができれば幸いです。

(中智)

長時間ありがとうございました。専門性が高く、外からは神秘的なイメージのある製薬業界ですが、中国法人を率いる兼古董事長のインタビューでは、謙虚で穏やかな雰囲気の中に、決断力と自信の強さを感じました。
現在多くの日系企業が現地化に取り組んでいますが、思うように進んでいない企業も少なくないようです。衛材(中国)は現地化の先のステージとして、グローバルに活躍できる社員の育成に取り組んでおられます。遠くない将来、他の日系企業でも、御社の様に中国人社員がグローバル戦略を担う光景が見られることでしょう。中智智櫻会もこれより先は、グローバル人材サービスを強化するようにアレンジしてまいります。

 

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 【兼古 憲生(かねこ のりお) 氏のプロフィール】

北海道大学卒業後、89年にエーザイ株式会社へ入社。営業職として6年間東京で勤務後、社費派遣で慶応義塾大学MBAを取得。その後、本社営業部門のプランニング、グローバルプランニングを経て、2005年に中国へ赴任。帰国後は本社プランニング部長に就任するも、中国リージョン独立の陣頭指揮をとるため2014年に2度目となる中国に赴任し、現在に至る。

 

兼古 憲生 董事長
兼古 憲生 董事長

兼古 憲生 董事長
兼古 憲生 董事長

兼古 憲生 董事長
兼古 憲生 董事長

  
中智との記念写真
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