ホーム > クローズアップ > 聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第54回

聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第62回

『出光電子材料(上海)有限公司 明田川 正敏 董事長・総経理 インタビュー!』2019/6/28

<strong><font style="font-size:19px">急成長する有機EL市場、高まる人材獲得競争の戦略を聞く</font></strong>

急成長する有機EL市場、高まる人材獲得競争の戦略を聞く

<strong><font style="font-size:19px">―― 出光電子材料(上海)有限公司 明田川 正敏 氏</font></strong>

―― 出光電子材料(上海)有限公司 明田川 正敏 氏


 

出光電子材料(上海)有限公司

明田川 正敏 董事長・総経理

 

大学院卒業後、89年に出光興産へ研究員として入社。95年から新素材をもとに新規事業の開拓とマーケティングを担当する。2013年に電子材料の開発センター所長、17年に出光電子材料(上海)有限公司の董事長・総経理に就任し現在にいたる。

 

◆◆◆ 石油に代わる収益の柱として期待される有機EL事業 ◆◆◆

出光電子材料(上海)の親会社である出光興産は、2019年4月に昭和シェル石油と経営統合し、出光昭和シェルとして新たな船出を切った。

その出光興産は、遡ること108年前の1911年、辛亥革命と同じ年に出光佐三が、北九州で石油販売業を行う出光商会を創業したことに始まる。

その後、順調に事業を拡大するも、第二次世界大戦の敗戦により国内外の事業を失う。しかし戦後、出光興産として再出発し、日本国内第2位の石油元売り企業にまで成長を遂げる。

出光興産の社風を示すエピソードとして、1953年に当時経済制裁下のイランとの直接取引により世界で初めて石油を輸入したことは、「日章丸事件」として知られている。また、冷戦下のソ連や中国の大慶油田から初めて石油を輸入するなど、創業時から「独立自治」の理念を掲げ、ビジネスにおいて独自のスタンスを貫いてきた。

創業時から石油をメインとして扱ってきた同社だが、環境保護意識の高まりによる再生可能エネルギーへの世界的なシフト等から、石油製品需要の減退を見越し、将来的に利益の半分を石油関連製品以外とする目標を掲げている。「その中で、電子材料は石油に代わる事業の柱として期待されています。」と明田川総経理は誇らしげに語る。

有機ELディスプレイは、その視認性の高さから液晶に代わる次世代ディスプレイや照明として注目が高まっている。「出光は、世界最高レベルの性能を持つ有機EL材料を提供しており、主にスマートフォンやテレビ等のディスプレイに使用されています。最近では、有機ELの見やすく、曲がったディスプレイの設計がし易いという特性から、自動車のディスプレイ用途の需要も期待されています。」と明田川総経理は説明する。業界の予測では、現在スマートフォンのディスプレイに使用される有機ELの割合は約26%だが、22年には46%まで上昇することが見込まれている。


中国企業からの需要拡大に対応するため、14年に上海に代表処を置き、17年には現地法人を設立して本格的に活動を開始する。「当社ではお客様と直接に取引は行っておらず、本社の中国における営業、技術サポート業務を現地で支援することが主な役割です。」と明田川総経理は説明する。また出光では急速に拡大する需要に対応するため、成都に最新鋭の工場を建設中で、今年中に竣工し来年からの本格稼働を目指している。

 

◆◆◆ 中国の大学から直接日本本社に採用も ◆◆◆

大学院で半導体材料の研究をしていた明田川総経理は、1989年に出光興産へ研究員として入社する。「入社当時、研究員として合成ダイヤモンドを使った新たな製品を研究していました。ところが、バブル崩壊による不況の影響で、多くの研究テーマが中止され、私の研究テーマも無くなってしましました。」わずか入社から4年で研究テーマの消滅という不運に見舞われる。その後、研究技術をビジネス化する業務を担当する事になる。「開発した素材をお客様に提案し、新たな事業を開拓する企画とマーケティングを合わせた仕事です。当時扱っていた素材の一つに有機EL材料がありました。」それ以来、これまで新素材の事業企画とマーケティングを担当してきた。「石油の会社で、石油と関係ない仕事をずっとしてきました。」明田川総経理は笑いながら話す。


そんな明田川総経理に転機が訪れる。17年に中国で現地法人を設立する際、総経理として中国へ赴任することになった。初めての海外駐在だった。

「中国人社員は意思をはっきり持っている人が多いので、曖昧な指示をするとダメですね。目的を明確に示して指示を与えてあげると、自分で考えて動いてくれます。」と明田川総経理は、中国人社員の特徴についてそう語る。

「駐在員は日本で仕事をしていた時のように雰囲気で仕事をするのではなく、社員達に対し合理的な説明をしてディスカッションをすることが大切です。言われた事を黙ってやれという態度では動いてくれません。」と明田川総経理は言う。

有機EL業界は近年急速に拡大しており、人材の獲得競争も激しい。人材獲得の取り組みについて尋ねると、「様々な産業大会で、依頼があれば講演してアピールしています。また、優秀な人材をリクルートするため、日本への留学生だけではなく、中国国内の大学から直接に優秀な学生を日本本社で採用するケースも増えています。」と明田川総経理は言う。また将来的には、中国国内にR&Dセンターを作り、そこを受け皿に優秀な技術系人材を獲得することが理想的であるという。


インタビューコメント、同社が求める社員像について尋ねた。「当社は、『人間尊重』を理念とし、会社にとって一番の資産は人間であると考える日本的な会社です。人事評価においても個人の業績よりも、皆のために何をしたか、全体に対しどのような貢献をしたのかを重視します。ちょっと古いと思われるかも知れませんが、そのような考え方を理解して良いと思ってくれる人に来ていただきたいと思っています。」

【中智からのコメント】

出光電子材料(上海)有限公司のオフィスを訪れた際、まず目についたのが、「人間尊重」と達筆で書かれた扁額でした。インタビューの終了後、明田川総経理は創業者である出光佐三の揮毫によるものだと教えてくれました。人を資本として大切にする「人間尊重」の理念は、創業時から今も同社が大切に守り続けている理念です。日本と比べて中国では一般的に社員の離職率が高い傾向にありますが、同社の離職率は非常に低いことを、明田川総経理と同席した蔡維経理が誇らしげに語っていたのが印象的でした。「人間尊重」の理念は、ここ現地法人においても大切に守られていました。