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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『日本貿易振興機構上海事務所 小栗 道明 所長 インタビュー!』2020/08/04

<strong><font style="font-size:19px">ニューノーマル下の日中ビジネスへの提言 </font></strong>

ニューノーマル下の日中ビジネスへの提言

<strong><font style="font-size:19px">——日本貿易振興機構上海事務所 小栗 道明 氏</font></strong>

——日本貿易振興機構上海事務所 小栗 道明 氏


 

日本貿易振興機構上海事務所

小栗 道明 所長

 

1994年に立教大学法学部卒業後、JETROに入構。1999年~2004年にJETRO北京事務所、2004年~2006年にJETRO広州事務所、その後日本で本部企画部海外地域戦略主幹などを経て、2015年より現職に就任し、2020年8月に5年間の任期を満了し帰任。

 

◆◆◆ 時代と共に深化し続ける、JETROの役割 ◆◆◆

日本貿易振興機構(以下、JETRO)は、2003年10月、関連法規に基づき、前身の日本貿易振興会を引き継いで設立された。世界70カ所を超える海外事務所ならびに本部(東京)、大阪本部、アジア経済研究所および国内事務所をあわせ約50の国内拠点から成る国内外ネットワークを活用し、主に対日投資の促進、農林水産物・食品の輸出や中堅・中小企業等の海外展開支援を行っている。

中国との関係は1957年の香港事務所の開設に始まる。その後、1982年に北京事務所を開設し、85年に上海事務所を開設する。現在ではそのほか、大連、広州、青島、武漢、成都にも事務所を設けている。

JETROの役割は、時代とともに変遷してきたと小栗所長はいう。「設立当初から現在まで変わらず、日本企業が中国へ進出する際のお手伝いを行っていますが、時代と共に変化している業務もあります。例えば90年代から2000年代前半にかけては、日本政府のODA予算により、日本から技術専門家を招いて中国企業に対する技術支援も行っていました。2000年代前半からは、中国企業の日本進出支援や知的財産権保護の日中協力を行っています。また、私が所長に就任してからは、イノベーションやスタートアップ分野の日中企業の連携に力を入れてきました。」


 

◆◆◆ 疫病の最前線に立って日系企業を支援 ◆◆◆

今年は年初から新型コロナウイルスが流行し、在中日系企業の経営にも大きな影響を与えたが、疫病流行期間中のJETROの取り組みを小栗所長にたずねた。「まずは、日系企業に対し正しい情報を伝える事に最も力を入れて取り組みました。2月3日の段階で上海日本商工クラブと相談し、メールマガジンの発行を決め、4日から新型コロナ対策メールマガジンの発信を開始しました。加えて日本からの問い合わせに対応していました。さらに日系企業の状況把握のため、1月31日から2月10日にかけて、上海日本商工クラブのプラットフォームを活用して防疫状況、出張の扱い、事業への影響についてアンケートを実施しました。」

2月10日から上海で事業再開が認められてからは、日系企業の復工復産支援に向けた対応に取り組む。「2月12日には、上海市主催の外資企業予防防疫及び復工復産に関する座談会が開催され、上海日本商工クラブの竹田理事長らが代表して出席し日系企業からの要望を伝えました。2月27日には、許昆林上海市副市長と日系企業代表との円卓会議を開催していただき、14日間隔離の取り扱いやマスクの調達難、日本語で受診可能な発熱外来の不在など、日系企業が直面する課題について改善を要望しました。これを踏まえ、上海市政府各部門で調整していただいた結果、日本語で受診可能な発熱外来病院の指定、マスクの調達支援などが実現しました。」上海市政府の強力な支援のおかげで、在上海の日系企業は円滑な復工復産を実現できたと、小栗所長は市政府の支援に対し感謝を述べた。

 



  

コロナ流行時期に最前線に立って日系企業への支援の為、奔走されました。(一部の日程表を掲示)


 

◆◆◆ 日系企業の進と退 ◆◆◆

中国市場の現状について、「14億の巨大なマーケットを持ち、中間層が拡大しており、日本のサービスや製品が受け入れられる成熟したマーケットになりつつあります。新型コロナウイルス流行の影響もあり、一部で撤退や縮小の動きが出てきていますが、中国市場で成長が期待される分野では引き続き新規投資が行われています。」と小栗所長は語った。

対中投資に関して小栗所長の心配は、実は中国の外にあるという。「米中貿易摩擦等の影響を受け、日本国内では中国経済の先行きに対する不安感が高まってきています。ある日本人総経理が、中国市場で積極的にチャレンジをしたくても、日本本社の了解を得られず、貴重なビジネスチャンスを逃してしまうのではないかと、心配を漏らしていたのが印象的でした。」

近年、上海ではコスト上昇や環境規制の強化から、製造型企業を中心に地方への移転が増えている。「日系企業においても、上海から地方へ移転する企業が出てきていますが、移転先は主に南通、常州など華東地域に留まっています。個人的には、合肥や武漢、重慶や成都などより大胆に内陸部へ進出しても良いのではないかと考えているのですが。」と小栗所長はいう。

日系企業が華東地域にとどまる大きな理由は意外なところにあると小栗所長は話す。「人材面の問題もさることながら、日本本社からは、日本人駐在員の生活環境を心配する声がよく聞かれます。」

日本政府は外資企業の誘致に積極的に取り組んでおり、日本進出に関心を持つ中国企業が増えてきている。日本政府の対日投資窓口機関としてJETROでは中国企業の対日投資支援も行っている。「JETROの対日投資・ビジネスサポートセンター(IBSC)では、日本での拠点設立や提携先日系企業の紹介など事業拡大のための一貫したサービスを、ワンストップで提供しています。そのほか、新型コロナウィルスの影響を踏まえ外国企業、在日外資系企業の皆様が困っている事があればいつでも相談していただけるよう、専用ホットラインを開設しています。」


 

◆◆◆ シンガポールへのホームステイが少年の世界を変える ◆◆◆

小栗所長は幼少期を静岡県浜松市で過ごす。「当時の浜松市は田舎で、外国人と触れあう機会はほとんどありませんでした。中学3年生の時にシンガポール人の学生をホストファミリーとして受け入れ、私も彼の家へホームステイしたのが、外国人の方との初めての交流経験でした。この経験を通して、世界の広さや国を超えて理解し合う事の楽しさを知り、日本と海外を繋ぐ仕事がしたいと強く思うようになりました。」

夢をかなえるため、大学卒業後の94年にJETROへ入構する。「入構2年目に初めての海外出張で上海へ訪れた際、その街の熱気と人々の活気にすっかり魅了され、それ以降、中国に関わる仕事がしたいと強く思うようになりました。幸運にも翌年には語学研修生として、はじめに北京その後瀋陽の大学で計1年間中国語を学ぶ機会をいただきました。」語学研修から帰国後、しばらく中国とは関わらない業務に従事していたが、99年に北京事務所へ赴任してからは、これまで一貫して中国と関わる業務に従事してきた。

疫病流行期間中、小栗所長は日本へ帰国せず上海に留まり、市政府に対する要望の提出や中国メディアへの対応、疫病に関するウェブセミナーの開催、そして4月23日に開催した中智交流会での講演と、在中日系企業のために身を粉にして働いてこられた。その経験から得た気づきを小栗所長に聞いた。「先日、磯俣大使とお会いした際、この5年間の思い出について尋ねられ、私は上海市を中心とする華東地域の政府のビジネス環境(営商環境)を改善しようとする意識が高くなったことと答えました。その姿勢が疫病との戦いの中でもよく現れ、真剣に外資企業が困っていることに耳を傾け、解決するために一生懸命働いてくれました。また、一人ひとりが防疫に積極的に協力する中国国民の意識の高さと、居民委員会を中心とするコミュニティーの大切さを改めて感じました。まさに、社会をどの様に統治するのかが、新型コロナウイルスの流行で問われているのだと思います。」

 



  

 

◆◆◆ 日中経済のこれから先の10年に対する展望 ◆◆◆

「先日、ある中国人経営者の方が、これから10年の日中関係は一番良い時期になるだろうと言われました。私も期待を込めてそう思いますし、そうしていかなければならないと思います。日中交流の歴史を振り返ると、84年に日中青年3,000人の交流が行われ、その当時の人材がこれまでの日中関係を支えるかなめとなってきました。しかし、日中の人口からすれば3,000人は僅かな数にすぎません。昨年は900万人以上の中国人が日本を訪れました。これからの10年、日中関係は限られた人々ではなく、一般国民のレベルで日中の繋がりを深く強くできるチャンスだと思います。それをしっかりと実現していくため、日本に帰任後も、できる限りのお手伝いができれば幸いです。」と小栗所長はこれら10年の展望を語った。

インタビューの最後に、日本人ビジネスパーソンに対するアドバイスを尋ねた。「以前、外国人ビジネスパーソンから、日本人は海外に対しては上に見るか下に見るかしかないと指摘され言葉を失った経験がありました。日本人が中国を対等な目線で見て、パートナーとして連携し発展していくことが大切です。日中は対等な目線でビジネスの連携ができる関係であり、その中で様々なビジネスが進展する事を期待しています。」


21年間の日中経済支援に感謝
またいつの日か、中国で再会できることをお祈りします。
【中智からの感謝の言葉】

中智日本企業倶楽部・智櫻会は2013年設立以来、ジェトロ上海からご応援、ご相談、ご支援をいただき感謝致します。特に小栗様には、日中にとって前例のない新型コロナの流行時期に、多大なご支援をいただき、いつも最新情報、そして会員企業からのお問い合わせに対し速やかに解決していただきました。ここで中智会員企業に代わり深く御礼申し上げます。仕事の場だけでなく、プライベートの場でも、日中友好のテーマであれば、いつも小栗様の姿が見られました。上海に多大な貢献をされた小栗様は、この8月中旬に帰任されることになりました。この際、中智智櫻会から会員を代表して出光電子材料の蔡様と講師を代表して安田様も一緒に、深く小栗様のお話を伺うことができ、大変光栄でした。小栗様は勇気と献身的な精神にあふれ、10年あまり日中に関わり仕事をされ、日中経済の発展に大きな功績を創られました。引き続き日中ビジネス発展の架け橋として、日中関係が友好な時には応援し、日中関係が不調な時にも、両国のことを皆さんに理解していただくため、お力添えいただくことを期待致します。東京から中国そして上海へのご支援をお願い申し上げます。