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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『小林製薬(中国)有限公司 紀本 慎一郎 董事長 インタビュー!』2020/11/12

<strong><font style="font-size:19px">小さな池の大きな魚戦略と四自原則で変化に強い組織に~ </font></strong>

小さな池の大きな魚戦略と四自原則で変化に強い組織に

<strong><font style="font-size:19px">——小林製薬(中国)有限公司 董事長 紀本 慎一郎 氏</font></strong>

——小林製薬(中国)有限公司 董事長 紀本 慎一郎 氏


 

小林製薬(中国)有限公司

 董事長 紀本 慎一郎 氏

 

慶応大学卒業後、日系大手日用品メーカーへ就職、その後同社の上海法人で長年マーケティングを担当する。2013年に小林製薬へ中途入社し日本本社で2年間の勤務を経て、上海小林日化へ副総経理として赴任、18年に董事長へ就任し、同7月に小林製薬(中国)設立にともない同社の董事長へ就任し現在に至る。

 

◆◆◆ 多様な商品構成が新型コロナの影響を最小限にとどめる ◆◆◆

小林製薬の歴史は、1886年に創業者・小林忠兵衛が、名古屋市に雑貨や化粧品の店として「合名会社小林盛大堂」を創業したことに始まる。同社は医薬品だけにとどまらずオーラルケア・スキンケア・栄養補助食品・芳香消臭剤といった幅広い領域において製品を提供している。

中国へは1998年に上海で合弁会社を設立し本格的な進出を果たす。その後、2002年に同社を完全子会社化し、独資に変更し「上海小林日化有限公司」とする。2018年には、統括会社として小林製薬(中国)有限公司を設立する。「中国でのさらなる事業拡大を見据え、現地グループ会社の経営管理強化と資金需要への機動的な対応が当社の役割です」と、紀本董事長は管理公司設立の目的を説明する。

小林製薬は、「国際ファースト」を経営戦略として掲げており、海外事業を強化している。「海外子会社の中でも、中国は米国に次ぐ二番目の売上規模を誇ります。特徴的なのは、中国ではM&Aではなく自前で売り上げを伸ばしていることです。中国では使い捨てカイロの暖宝宝や、発熱時の熱を下げる冰宝貼が人気です」と、紀本董事長はいう。両商品とも中国市場で圧倒的な人気と知名度を誇っており、カテゴリーNo.1ブランドとなっている。


新型コロナの流行は商品の売り上げ構成に変化をもたらしたと紀本董事長は話す。「2月から芳香剤の売り上げが爆発的に伸びました。トイレ用芳香剤は1-6月の前年比実績で約1500%となっています。これは多くの企業が在宅勤務を継続していたため、自宅にいる時間が長くなったことで、少しでも快適に過ごせるよう芳香剤のニーズが高まったことによるものと考えられます。中でも日本から輸入している高級な芳香剤がよく売れるようになりました」

反対に売り上げが下がった商品もあったと紀本董事長は話す。「当社の主力商品のひとつである冰宝貼の売り上げが前年比で半分近くにまで減少しました。これは、新型コロナの流行当時、各地の薬局では発熱対策商品の販売を自粛し、発熱の症状がある場合には病院へ行くよう指導していたことが影響したようです。主力商品の売り上げが落ちましたが、芳香剤や洗浄剤等の売り上げが伸びたおかげで、1-6月全体の売り上げ実績では前年比102%と、前年並みの水準を確保する事ができました」


 

◆◆◆ ECの売り上げがリアル店舗を超える ◆◆◆

新型コロナの影響は、販売チャネルにも及んだ。「今年に入り、ECとリアル店舗の販売割合が6:4と、初めてECの売り上げがリアル店舗を超えました。特に新型コロナの流行以降、リアル店舗とオンラインの融合が進んでおり、それも含めたECの強化に取り組んでいます」

同社は、越境ECにも力を入れている。「当社では、越境ECをテストマーケティングとして位置付けています。中国で販売許可の下りていない商品をいち早く越境ECで販売し、売れ行きの良い商品を中国国内販売するようにしています」

日本のインバウンド需要について、「これまで日本国内の売り上げのうち1割近くがインバウンドによるもので、そのうち8割が中国人観光客に購入していただいていました。新型コロナの影響でインバウンド消費が消滅しましたが、将来を見据えて日本国内で販売する商品も、中国人の嗜好に合わせた商品開発を進めています」と紀本董事長は話す。


 

◆◆◆ 経営スピードを上げる「小さな池の大きな魚」戦略と、「四自原則」 ◆◆◆

紀本董事長は、長年日系の大手日用品メーカーの上海法人でマーケティングを担当し、2013年に小林製薬へ入社する。入社後、日本本社で2年間勤務した後、15年に上海小林日化へ副総経理として赴任、18年に董事長へ就任し、同7月に小林製薬(中国)設立にともない同社の董事長へ就任する。紀本董事長が上海法人へ赴任した15年以降、毎年順調に売り上げを伸ばしている。

中国ビジネスを成功に導くには、経営のスピードが重要だと紀本董事長は語る。「中国では市場の変化が速く、次々に新しいビジネスが生まれており、スピードを重視する必要があります。日本本社では、従来からシンプル、クリア、スピードを行動規範としており、これが中国ビジネスに求められる要素とうまくマッチしているように思います」


中国市場は巨大で発展のスピードが速く、常に新しい挑戦に直面している。同社は、競合の多い「大きな池」ではなく、「小さな池の大きな魚」を釣る戦略をとっている。小規模だが潜在力の高い市場を目指すことで、過当競争を避けつつ高いシェアの獲得と高い利益率を確保している。

また経営スピードを上げるため、社員達に対して自ら考え実行することを求めている。「社員達に対しては、仕事をするにあたり四自原則を徹底することを求めています。四自原則とは、自考、自決、自実、自責をいい、問題解決に際しては指示を待つことなく、自ら考え、自ら決断し、自ら責任をもって率先して実行しなければならないという意味です。逐一上司に相談してから実行していては、市場の変化のスピードについていくことは出来ません」。その様な企業文化の中で、従業員は安定しており、特に課長職以上の管理職の離職はほとんどないという。


 

◆◆◆ インバウンドで人気の医薬品を中心に本格的な国内販売を開始 ◆◆◆

ユニークな商品を武器に中国市場で順調に売り上げを伸ばしている同社だが、中国国内メーカーの台頭に危機感を持っていると紀本董事長は話す。「どのカテゴリにも中国現地ブランドの商品があり、年々品質が向上しブランディングもうまくなってきています。中国国内メーカーの追い上げに対抗するため品質をより向上させるのか、価格を抑えるのか、または全く新しいカテゴリに進出するのか、常に継続的に事業拡大するための戦略を練っています」

インタビューの最後に、今後の展望について質問した。「医薬品を将来の成長カテゴリとして重視しており、今年からインバウンドで良く売れている商品を中心に、中国国内での販売を開始しました。将来的には、中国で企画開発から販売まで、現地で完結できるような体制作りを進めていきたいと考えています」


中智からの感想:小林製薬は現地化が進んでおり、中国語を社内公用語としています。紀本董事長ご自身も、中国語が堪能で中国事情や業界の動向をよく把握されています。中国速度と言われるように、中国市場は世界的に見ても非常に変化の激しい市場です。その中国速度に対応するには、現場で考え判断する能力が求められますが、特に中国市場の開拓を目指す多くの日系企業にとって課題となっています。小林製薬様は、自考、自決、自実、自責の四自原則を現地社員に徹底する事で、中国速度に合わせた経営を実現されています。



中智との記念撮影