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【判例】従業員の賃金から給与を控除できるか?(2015年4月1日)

【判例】従業員の賃金から給与を控除できるか?(2015年4月1日)

案例:

 某企業の社員張氏は、会社で技術管理に従事している。同社の出勤チェック管理制度の規定によれば、社員の遅刻或いは早退につき、1回あたりに100元の罰金とされている、朝出勤は8:30からと規定されており、1分の遅れでも遅刻と見なされる。だが、張氏の家は会社から離れている遠い場所にあり、そして朝出勤時間帯は出勤ラッシュであることから、よく渋滞に巻き込まれる。張氏の入社当初には、時間通りの出勤を我慢していたが、後にはよく遅刻することになった。会社は毎月張氏の給料から500元程度を罰金として差し引いているが、張氏の1ヶ月給料は2,000元程度しかない。罰金を差し引かれるケースが多くなるにつれ、張氏は会社の出勤チェック管理制度が過酷である、給料から罰金を控除することは、合理的でない給与控除であると考える。但し、会社側は出勤チェック管理制度の制定は、企業の雇用自主権である、企業の社員としてそれを守らなければならないと認識していることから、双方の争議が起きた。

争点:

  1.本案例では、会社の出勤管理制度の罰金関連の規定は合法か?

 2.会社は張氏の給与から直接に罰金の控除ができるか、それができるとすれば、給与から控除できる金額限度はどの程度か?

解説:

 

 現在、中国では多くの企業が社員雇用管理において、出勤管理制度に罰金規定をよく利用している、同現象は中国国有企業でとりわけ深刻である。これより、企業の社員に対する罰金処罰には、法的根拠があるかについて説明する。

 多くの企業は社員に対する罰金処罰が出来ると認識している。その法的根拠として、主に1982年に国務院による「企業従業員賞罰条例」を指す。同条例の第十二条規定では、「従業員に対する行政処分には、警告、過失、重大過失、降格、免職、執行猶予、除名がある。前述した行政処分を加える同時に、1回きりの罰金を課することが出来る。」同項から見れば、企業は社員に対して処分を加えることが出来る、そして罰金処罰を加える権利をもつ。同項は罰金の制度的根拠となる。

 だが、同項では従業員に対して罰金処罰を加えるには前提となる条件があり、それは企業は社員に対して「行政処分」を加えることである。行政処分は本来一種の行政権利であり、これは当時中国の事情に直接に関係する。1982年頃、中国大陸では主に国有経済が主体であり、当時の国有企業の主な特徴は政府と企業との区別がつかず、国有企業と政府は共に一定な行政管理権をもっていた点であり、同行政管理権により、国有企業は自社社員に対して行政処分を加え、罰金処罰することが出来た。そこで、同項の適用範囲には限度があり、国有或いは公営企業及び当該企業の従業員のみに適用する。

 90年代、国有企業制度改革後に政府と企業が切り離され、企業は社会へ向かい、独自に市場化経営を実施しなければならないこととなった。国有企業制度改革の完成に伴い、現在、中国の企業は管理上において基本的に政府との切り離れが果たされている、元の行政管理権も、政府と企業との分離により消滅してしまった。従って、今日の中国国内企業には雇用管理権があるが、行政管理権は持たない。行政管理権を持たなければ、社員に対する行政処分を加えることは出来ないことである。

 現在、すべての企業の如何なる規定制度に罰金という処罰方法においても明確な法律根拠(中国では罰金に対する如何なる禁止規定がないことにしても)は設けられていない、罰金関連を直接に規定することには法律的リスクがある。但し、一部の地方政府は企業が従業員の規定違反行為に対する罰金処罰を加えることを許可していることから、地方政府による規定(条例)が設けられている場合は、地方政府の規定に従って実施することになり、法律的リスクはない。例えば、深せんの地方条例では、企業が従業員に対する罰金処罰を加えることが許可されていることから、深せん現地の企業は関連制度に、従業員が規定違反行為を犯した場合は、どの程度の罰金を課するか、そして給与から控除するなどと規定されている。

 地方政府は特別な政策規定を設けていない場合は、近代的雇用管理において罰金という方法で従業員に対する管理及び考課を行うことには法律的リスクがある。企業が従業員の給与から罰金を控除する行為は、一種の非合理的給与控除行為であると認識されがちである。一旦、非合理的給与控除行為であると判断された場合は、企業が一方的に給与から控除した分を全額で従業員に返還せねばならない以外に、「労働契約法」第八十五条の規定に基づき、労働者は労働保障行政部門に検挙し、企業側に非合理的に控除された金額の50%~100%の賠償金を請求することが出来る。

 それでは、企業側は決して従業員の給与から控除することが出来ないか?答えはそうではない。「給与支給暫定規定」第十六条の規定に基づき、「労働者本人の事由により企業側に経済的損害をもたらした場合は、企業側は労働契約の条項に従って当事者の労働者に関連経済損害賠償を請求することが出来る。経済損害の賠償につき、当事者の労働者本人の給与から控除することが出来る。但し、毎月給与から控除した分は労働者当月給与の20%を超えてはならない。給与から控除した後に余剰給与分は現地最低賃金基準を下回る場合は、最低賃金基準での給与給付とする。」即ち従業員個人の事由により会社に損害をもたらした場合、会社側は労働契約の条項に従って関連経済損害賠償を当事者の社員に請求することができる、関連損害賠償は給与からの控除ができるが、最高で当月給与の20%を超えてはならない。それ以外に、法定の給与控除代行のケースを除き、企業側は如何なる理由で従業員の給与から差し引くことはできない。

 そこで、企業側にして見れば、罰金という方法で雇用管理を行うことは、すでに近代的企業管理とは掛け離れ、新たな管理方法を考慮すべきである。例えば、業績給与考課を通し、従業員に対する日常作業管理を果たすことは考えられる。