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【判例】別テナントへの配置転換を労働者が拒否した場合、どのように問題を処理すべきか?

【判例】別テナントへの配置転換を労働者が拒否した場合、どのように問題を処理すべきか? (2016年4月1日)

案例:

 黄氏は2011年8月上海市の某化粧品会社へ入社し、美容コンサルタントの職に就いていた。黄氏と会社側は、勤務場所を浦東区成山路にある浦東商場5階のテナント内とすることで合意していた。2012年4月、浦東商場5階は全面改装されることとなり、各テナントは「賃貸終了通知」を受け取った。通知を受け取った後、会社側は黄氏を川沙地区の浦東商場へ配置転換する旨を人づてで伝えたが、黄氏は勤務先が遠いことを理由としてこれを拒否した。会社側はこれを受けて、黄氏が出勤しない場合は解雇すると伝えた。

 黄氏はすぐさま労働仲裁委員会へ申し立てを行い、会社側へ在職期間中の賃金と経済補償金、未消化年休分の賃金の支払いを求めた。仲裁庭で黄氏は、元の職場は住んでいる場所から近かったが、もし川沙に勤務するとなると通勤と退勤で4時間以上かかり、とても受け入れることはできないと主張した。これに対し使用者側は、黄氏の業務態度が真面目なのは認めるが、浦東新区には川沙店以外にテナントが無く、配置転換できないと述べた。

争点:

 他店舗への配置転換が出来ない状況で、労働者が配置転換を拒否した場合は、どのように問題を処理すべきか?

判決:

 仲裁庭は、本案件で黄氏は、会社側の設立した浦東成山路にある浦東商場五回のテナントで業務に従事することを会社側と約定していた。黄氏の就業場所が突然閉鎖されたことにより、労働契約締結時の前提であった客観的状況に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が困難となり、就業場所の変更に関する双方の話し合いが不調に終わったため、労働契約の履行が不可能になったものである。このような場合、「労働契約法」第40条規定により、使用者側は労働者へ経済補償金を支払った上で、労働契約を解除するのが一般的であるとし、会社側へ黄氏に対し在職期間中の賃金及び経済補償金、未消化年休分の賃金の支払うよう命じた。

分析:

 就業場所が固定されていることが多い事務員や美容コンサルタント、販売員などの就業場所は、往々にして第三者の影響を受けるものである。「労働契約法」第17条によると、労働契約には必ず就業場所を記載しなければならないから、会社側は労働契約の就業場所欄に「本市」もしくは「上海市」と記載して、労働者が配置転換を拒否した際のリスクを避けることが望ましい。しかしながら、仲裁庭はこの種の案件を受けた場合、往々にして配置転換の要因とその程度を総合的に判断するものである。

 使用者の立場からすると、商業施設の都合や突発的な事故によるテナントの撤去により、やむを得ず配置転換をしなければならない場合もあれば、テナント契約の期間満了や経営不振による閉店など主体的に配置転換をする場合もある。もし使用者側の経営不振による閉店であるならば、まず労働者の意向に沿った、合理的で合法な配置転換を試みるべきである。さもなくば配置転換にかこつけた「解雇通告」と疑われ、より重い責任を負う事となる。

 調整結果から、労働者が配置転換を受け入れるということは、すなわち労働契約を継続するということである。もし労働者と使用者の間で合意に達しなかった場合は、双方が労働契約を解除しようとしているのか、使用者が解雇しようとしているのかを客観的に判断しなければならない。また、勤務先の店舗やテナントの変更の場合は、労働者の通勤が困難であるか否かが一つの目安となる。例えば市中心部のいくつかの行政区域で調整し、通勤時間がほぼ変わらないか短くなる場合においてのみ、就業場所の調整が妥当であると見做される。郊外地区で交通手段が無く、会社側が通勤手段を提供出来ない状態で、労働者側も調整に参与した場合には、合理的な就業場所の調整を行ったとは見做されない。これは、面積が非常に広い行政区域内で、別の地域に配置転換する場合も同じである。一般的に、就業場所の移転は労働者に不便をもたらすものである。問題なのは、「客観的に見て重大な変化が生じたことによる労働契約の解除」条項の運用主体は使用者だという事である。

 ゆえに、実際の運用においては、使用者がこの条項を利用して、経済補償金の支払いを避けつつ労働契約を解除するケースが起こりうる。例えば使用者が、労働者が新たな就業場所で就業できないことを明らかに知りながら、解雇権を行使せず自主的に離職するよう仕向ける場合がそれに該当する。しかし、「労働契約法」第40条3項に規定する主体は使用者であり、この条項を労働者に適用するには法的根拠を欠く。とはいえこの問題は、「労働契約法」第38条を見れば解決する。労働者は「労働契約法」第38条の規定を以て、使用者へ「労働契約に基づく労働条件及び労働者保護規定を履行していない」ことを理由として労働契約解除権を行使し、経済補償金を得ることが出来る。また、理論上は別の方法を採用することもできる。これは「推定解雇」と言い、使用者は解雇権を行使していないけれども、使用者が実際に解雇権を行使したものと見做し、労働者へ経済補償金を支払わせるものである。

 実際の運用においては、労働者側が、元店舗の収益は高かったが新店舗の収益はこれに劣り、インセンティブ等の報酬が減少することが予測されるため、例え勤務先がより近くなったとしても配置転換を拒否する、というケースが考えられる。この場合、配置転換後のインセンティブにどのような変化が生ずるかは予知できないので、労働者がこれを理由として配置転換を拒否したときには、相応の責任が発生する可能性がある。