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【判例】特殊な労働関係における労災をどのように認定するか?

【判例】特殊な労働関係における労災をどのように認定するか? (2016年3月2日)

案例:

 陳氏はコンクリート技師として、全国各地で工事を担当していた。ある日、知り合いの紹介で、彼は王氏と名乗る請負親方と知り合い、彼の手筈で大規模建築現場に入った。2013年8月5日、陳氏は数時間連続して働いていたところ、急な眩暈を覚えたが、折しも彼は積み上げられたブロックに立てかけられた梯子を上っている最中であった。陳氏は身体の異変を感じた後、少し休もうと梯子を下りている時、足を踏み外して転落してしまった。その後病院で診察を受けたところ、腕や足などに骨折が認められた。医療費は、施工地の安全管理者が立て替えた。

 陳氏は労災を申請したが、労働保証部門は、施工地の安全管理者は工事の請負方であるA社の労働者であり、またA社はコンクリートの流し込み作業等をB社へ委託している。更にB社は王氏なる人物に業務を委託していたが、作業を請負ったはずの王氏はどこにも見当たらなかった、とした。

 陳氏は施工前に労働契約を締結していない。この事故の責任は誰が負うことになるのだろうか?

争点:

 特殊な労働関係における労災をどのように認定するか?

分析:

 実社会において、労働形態は派遣、代理など日増しに複雑化している。特に建築業界では、委託や請負、多重下請け等、多くの現場作業員がどの会社との間に労働関係が存在するのか曖昧なまま仕事をしている。また下請けでなかったとしても、複数企業との間に同時に労働関係が存在するなど複雑なケースも存在している。このような状況下にあっては、どの事業単位が労災の責任を取るべきかでよく争議が発生する。

 「労災保険行政案件審理に関する若干問題の規定」第三条は、多重労働関係、派遣、任命派遣、下請けや系列関係など特殊な労働関係を列挙し、誰が責任を負うべきかを明確にしている。

   

 

 最高人民法院は「労災保険行政案件審理に関する若干問題の規定」を公布すると共に、この制度の原則的解釈を示しており、それによれば二社以上の事業単位と労働関係がある労働者に、労災事故が発生した際は、労働者を実際に使用していた使用者が、労災保険の責任を負うこととなっている。しかしれでは、どの業務が主たる労働で、労災保険によって誰が利益を得て誰が負担を負うのかなど、責任主体の境界を区別することが難しい。労務派遣や任命派遣の場合は使用者が労災の責任を負うこととなっているが、使用者と派遣、任命単位及び実際に業務に従事すべき事業単位との間で二重の労働関係があったか、(法で定義されている)多重労働関係が存在しているかどうかを考慮しなければならない。労働者と多くの事業単位と労働者との間で形成された多種多様な労働関係は、それぞれ独立したものであるから、主たる業務を区別し難く、また任命派遣や労務派遣においても、二つの事業単位のどちらが主たる使用者かを判断し難い。(任命派遣、労務派遣については、)労働者と任命派遣単位、労務派遣単位との間の労働関係こそが主たる、独立した使用関係であり、労働者が実際に業務を行う任命派遣先、労務派遣先単位との間の使用関係は副次的なもので、独立した存在ではないという事になる。

 この他、労務派遣関係における使用者に関しては、上記の要素の他、「労働契約法」第五十八条の、労務派遣単位は本法でいう使用者であり、労働者に対し使用者としての義務を負う、との規定を考慮しなければならない。

 委託関係や請負関係における労働者と労災保険の責任を負うべき使用者との間には真の意味での労働関係が存在しておらず、労働者に損害を与えた権利侵害者も労働者の使用資格を持たない組織ないし自然人である。使用単位や請負先単位を労災責任単位と確定することは、労働者の合法的権益を保護する意味では有利だが、責任の所在という点からすると、労災保険基金からの労災給付において、権利侵害者が損害賠償責任を回避し得るという不公平な現象が生じる可能性がある。

 この問題を解決する為に、司法では労災保険責任を負う使用単位と社会保険機関が労災保険責任を果たした上で、実際に労働者へ給付された労災保険に基づき実際の権利侵害者へ損害賠償請求権を行使する、との解釈が為されている。

 このことから、陳氏の労災はなお認定され得る。B社が法律法規に違反し使用主体となり得ない自然人である王氏に業務を請け負わせ、この王氏に使用されたことで陳氏は労災を被ったのであるから、労災保険の責任はB社が負うこととなるのである。