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【判例】複数回労災を受けた従業員の労災補償をどのように算定すべきか?(2016年5月27日)

案例: 

 曹氏は2013年3月31日から、上海亮亮広告伝播有限公司で戸外広告設置業務に従事していたが、2013年4月28日怪我をしてしまい、6月28日人社部の労災の認定を受け、同11月22日労働能力査定委員会により障害8級と認められた。2014年7月23日、曹氏は広告設備のメンテナンスを行っている最中、倒れて来た設備に押しつぶされ右ひざ損傷の重傷を負った。その後曹氏は再び人社部より労災と認定され、障害10級と認められた。曹氏と亮亮公司は2015年6月30日に労働契約期間満了を迎え、亮亮公司は曹氏と契約を締結しないことを決めた。 その後、曹氏は会社側に二度に渡る労災による障害に対し障害就業補助金及び医療補助金の支払いを求め、労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立てた。仲裁庭で曹氏は、二度以上労災を受けたことから、労災医療補助一時金と障害就業補助一時金をそれぞれの労災に対して受け取ることができると主張した。しかし亮亮公司は法規定に基づき、従業員が同一の使用単位で連続する労務期間内に複数回発生した労災について、労働契約解除後の労災医療補助一時金と障害就業補助一時金は最も高い級の労災についてのみ支払われるとして、複数回の支払いを否定した。

争点: 

 複数回労災認定を受けた労働者が離職した場合、労災医療補助一時金と障害就業補助一時金の支払いはどのようになるか?

判決: 

 労働人事仲裁委員会は、「労災保険条例」によれば、労災を受けた者が、本人の申告により使用者との労働契約を解除及び終了したときは、労災保険基金から労災医療補助一時金が、使用単位からは障害就業補助一時金が支払われる、とある。 このことから、仲裁委は同一単位で複数回労災を受けた者が労働契約を解除及び終了する際には、労働能力査定委員会の認定する最高等級の労災医療補助一時金と障害就業補助一時金が支払われるとし、曹氏の訴えを退けた。

分析: 

一、労災医療補助一時金と障害就業補助一時金の受給は一度きり 

 労災医療補助一時金と障害就業補助一時金の目的及び性質から鑑みて、労働者がこれを享受できるのは一度だけである。 「労災保険条例」第三十六条二項には、労災を受けた者が、本人の申告により使用者との労働契約が解除及び終了したときは、労災保険基金から労災医療補助一時金が、使用単位からは障害就業補助一時金が支払われる、とあり、第三十七条二項には、「労働及び招聘期間が満了し、または労働者本人が労働及び招聘契約を解除したときは、労災保険基金から労災医療補助一時金が、使用単位からは障害就業補助一時金が支払われる。 労災医療補助一時金及び障害就業補助一時金の具体的基準は省、自治区、直轄市の人民政府の規定による」とある。これらの規定から、双方の労働関係が終了して初めて労災医療補助一時金及び障害就業補助一時金が支払われることが分かる。 また、労災医療補助一時金の受給には労働能力等級の査定を受ける必要があり、労働能力の査定後に初めて申請できる。複数回労災を受けた者は、その都度労働能力を査定することとなる。 障害就業補助一時金は現在の障害に対する補償であり、複数回の労災を受けた場合には労働関係終了の有無を問わずその都度申請できるが、何度労災を受けていてもその受給の為には労働関係が解除もしくは終了されている必要がある。これらは同一時期の労働関係解除及び終了に対し一度だけ支払われるもので、言うなれば労働関係終了時に労災による治療や就業への影響に対し一括で支払われる補償金である。 労災医療補助一時金及び障害就業補助一時金の本質は、労働契約解除後の労災を受けた者が、将来治療を必要としたり障害が就業に影響を与える可能性を考慮し、労災を受けた者へ一括で支払われる経済補償金である。 この種の経済保障の基準は労働能力査定機構による障害等級及び労働関係終了時点から算出し、その基数と基準は固定されている。もし労災を受けた者が退職したり、又は死亡したときは、これらの待遇を受けることは出来ない。 労働契約解除後、医療費が発生せず就業に何ら影響を及ぼさなかった場合でも、既に受け取った金額を返還する必要は無い。このことから、 これらの補償が労働者の未来において発生しうる影響に対する補償であり、複数回の労災であっても影響が発生し得ることに変わりはないから、重ねてこれを受給することはできないのである。

二、労災医療補助一時金と障害就業補助一時金は、「より高い額」を支給する

 複数回労災を受けた者が労災医療補助一時金及び障害就業補助一時金を受給するときは、高い方の等級に合わせて 算定する 方法と総合的に判断して算定する方法の二通りのうち、より受給者の利に叶った方法で受給額を算定する。2013年4月25日に公布された「人的資源社会保障部『労災保険条例』執行に関する若干問題への意見」はこの原則に則っており、その第十条には「職工が同一の使用単位で連続して使用される期間、複数回労災を受け、かつ『労災保険条例』第三十六、第三十七条規定によりその待遇を受けるときは、同一単位で発生した労災のうち最高等級のものに基づいて労災医療補助一時金及び障害就業補助一時金を支給する」と定められている。

三、労災医療補助一時金と障害就業補助一時金の算定基準

 「上海市労災保険実施弁法」でも、労災を受けた者が、本人の申告により使用者との労働契約が 解除及び終了したときは、労災保険基金から労災医療補助一時金が、使用単位からは障害就業補助一時金が支払われる、 と規定されており、五等級の場合は前年度の当市従業員月平均賃金の18か月分が支払われ、以下六等級で15か月分、七等級で12か月分、 八等級で9か月分、九等級で6か月分、十等級で3か月分と定められている。前年度の当市従業員月平均賃金は労働契約が解除及び終了され た時点を起点として算定されるものであり、労災認定当時及び労働能力等級認定当時のものではないことに注意が必要である。