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【判例】使用者は「業務成績最下位」を理由として労働者を解雇できるか?(2016年6月28日)

案例:

2013年4月、鄭氏はスポーツ用品会社へ営業職として入社した。月の賃金は3000元と業績給で構成されていた。鄭氏は新人であったものの、業務には真面目に取り組み、苦労を重ねて、就業当初は一定の業務成績を収めていた。しかしそれも長くは続かず、業界内の競争が熾烈になってくるにつれ、鄭氏の販売成績も明らかな下降線を辿りはじめた。

 2012年の下半期、鄭氏の業務成績が部署内の最下位10%に入ってしまったため、会社側の人事部は2014年1月末、鄭氏へ「公司販売人員考課弁法」に定める業務成績最下位による解雇対象者となったため鄭氏との労働契約を解除すると伝え、何ら補償をしなかった。

 会社側は、「公司販売人員考課弁法」は民主的手続をもって定められた合法かつ有効な規定であり、その中で職責に堪えない場合をはっきり定めている。鄭氏の販売業務成績は長い間最下位に留まっており、営業職としての職責に堪えない。また、会社側が職責に堪えない従業員との契約を解除することは全く不当ではない、と主張した。

鄭氏は、会社側の業務成績考課方法は営業職に不利で、総合評価の配分も低く、会社側の職責に堪えないとの判断は主観的で一方的だとした。

鄭氏は労働人事争議仲裁院へ仲裁を申し立て、会社側へ不当解雇に対する損害賠償金の支払を求めた。

争点: 

使用者の「業務成績最下位の労働者を解雇する」制度(末位淘汰制)をもって労働者を一方的に解雇する行為は合法か?

判決: 

労働人事争議仲裁委員会は審理の末、末位淘汰制度は使用者がその全体目標と具体的目標を元に、各職位の実際の状況をかけ合わせてある考課指標体系を設け、この体系を元に労働者を考課し、考課の結果業務成績が最下位の者から淘汰される業務成績考課管理制度であるが、成績最下位の者が職責に堪えないとは言えない。

鄭氏は当該スポーツ用品会社の考課方法では確かに最下位ではあったけれども、一定の業務成績を収め、会社側へ利益をもたらしたものであり、成績最下位であった鄭氏が営業職の職責に堪えないとは言えない。また、例え会社側が鄭氏を職責に堪えないと認めたとしても、会社側は随意に労働契約を解除することはできない。

「労働契約法」には、労働契約の解除には:1、その労働者が職責に堪えないこと2、使用者側が配置転換及び訓練を施したこと3、(配置転換や訓練にも関わらず)なお労働者が職責に堪えないこと、の三つの条件を満たす必要はあるとしている。本案件において、当該スポーツ用品会社は業務成績最下位の者を職責に堪えない者と見誤り、鄭氏へ配置転換や訓練を施さないまま、労働関係を解除してしまった。このことから、労働人事仲裁委員会は当該スポーツ用品会社の行為を違法と認める、とした。

労働人事争議仲裁委員会は、最終的に鄭氏の会社側に対する違法解雇についての損害賠償金の請求を認めた。

分析: 

末位淘汰制は現在多くの企業で採用されている業績考課管理方法であるが、これは必ず法律の枠組みの中で実施しなければならない。法の枠組みを外れれば、それは違法となる。近年、末位淘汰制度を就業規則や労働契約に記載する企業は少なくないが、業績考課制度の一つであるからと定期的に成績最下位の労働者を減俸、配置転換、解雇すれば、労働紛争を引き起こすこととなる。

末位淘汰制は、現行の労働契約法施行下において、その合法要件をより整備する必要があるだろう。中でも最も主要な問題は、末位淘汰制を労働契約解除の条件と出来るか否かである。

まず、成績最下位を解雇の要件とできるのか?「労働契約法」では、使用者が一方的に労働契約を解除する権利は法で定められた場合、すなわち第三十九条、第四十条等の規定に因らなければならない。ゆえにこの解雇理由は我が国の法規定に符合しないのである。次に、社内規定に対する重大な違反として解雇できるのか?多くの使用者が末位淘汰制を就業規則に記載し、重大な紀律違反として労働者を解雇しているが、労働契約法に言う重大な紀律違反とは労働者が使用者の規定制度を知っているにも関わらず、故意または重大な過失によって引き起こされた違反行為を言う。

業務成績が最最下位であることは客観的状態に過ぎず、全ての労働者が最最下位になり得るので、これに立脚して解雇することはできない。

第三に、業務成績最下位の労働者は、職責に堪えない労働者なのか?業務成績最下位の労働者は確かに職責に堪えない可能性はあるが、職責に堪えうるにも関わらず、他の労働者の業績が良すぎるため最下位となった可能性もある。なぜなら最下位とは総じて客観的なものであり、考課があれば常に誰かが必ず最最下位となるから、これをもって職責に堪えないとすることはできない。

更に、もし成績最下位の労働者が本当に職責に堪えないとしても、使用者にはいきなり労働者を解雇する権利は無い。労働者へ配置転換または訓練を行い、なお職責に堪えない場合に、経済補償金を支払い、労働契約を解除することができるのである。

本案件で、このスポーツ用品会社は業績最下位の者は職責に堪えない者であると勘違いし、鄭氏へ配置転換や訓練を行わず、いきなり解雇した上、満額の経済補償金も支払っていない。同社の鄭氏に対する行為は違法性を孕んでいる。

企業が末位淘汰制を運用する際には、制定手続きと適用規範に細心の注意を払わなければならない。まず、企業側が末位淘汰制を制定する際には、民主的な手続を踏んで労働組合や労働者の代表へ意見を求めるか、職工代表大会の審議で可決されなければならない。次に、企業側は科学的客観的で公正な業績考課基準と考課方法を確立し、併せてこれを労働者へ確認させ、署名させる必要がある。

更に、末位淘汰制に合わせた賃金体系を設計することで、労働者の能動性と競争意識を刺激し、成績優秀者を物質的聖戦的に表彰すべきである。成績最下位の労働者については、もし職位に適性が無いことが原因であるならば、配置転換及び訓練を行い、配置転換や訓練をもってしてもなお職責に堪えないときは、30日前に労働契約解除を労働者へ書面により通知した上で、相応の経済補償金を支払う必要がある。この時、もし労働者が解雇制限期間にある場合、使用者は成績最下位を理由として労働契約を解除できない点には、注意しておかなければならない。