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【判例】会社側は事実を立証しないままに、労働契約を無効とできるか?(2016年9月28日)

案例:

張氏は2014年5月24日、上海市内の宝石会社へ入社し、営業経理の職に就いていた。双方の労働契約期間は一年間で、会社側は月5000元の賃金を毎月現金で支払っていた。その後、宝石会社は張氏を2015年4月7日付で重大な紀律違反を理由として解雇した上で、2015年5月労働仲裁を申し立て、張氏との労働契約の無効の確認と張氏へ在職期間の賃金の返還を求めた。

 会社側は、双方が労働契約を締結した際、張氏へ宝石業界での業務経験と大専以上の学歴を求めていた。張氏は確かに大専卒だったが、職歴についてはよく把握できていなかった。張氏が入社したとき、会社側は張氏の記載した従業員登録内容を調査したが特に問題は無く、張氏へ信を置いていた。しかし今になって張氏の記載した卒業校とインターン経歴が合致せず、また職歴と卒業年月日もまた矛盾していることが分かったので、会社側は張氏を「労働契約法」第二十六条一項の、詐欺による労働契約締結を理由として労働関係を取り消したものであり、双方の労働契約は無効であると主張した。

 これに対し張氏は、自身には第二専攻を学んでいた時期があり、また働きながら学んでいたので、インターン履歴や職歴とは矛盾しないと反論した。

争点: 

このような場合、使用者側から労働契約の無効を主張することはできるか?

判决: 

仲裁委員会は、 会社側は確かに招聘時宝石業界での業務経験と大専卒以上の学歴を要求していたけれども、同社は張氏を採用した際これらを求めた証拠を提出していない。また、会社側は今になって張氏の記載した卒業校とインターン経歴が合致せず、また職歴と卒業年月日もまた矛盾していることが分かったと主張しているが、張氏へ(採用条件を)要求していないことから、合理的に考えて張氏が詐欺により会社側と労働契約を締結したことを証するには根拠が不足している。また会社側は職歴や張氏の記載した従業員登録内容を調査しながら、何ら問題を見つけていないとして、会社側の請求を棄却した。

分析: 

「中華人民共和国労働契約法」第二十六条には、次のように規定されている。「下記の労働契約は無効又は一部無効とする。 (1)詐欺、脅迫の手段又は危機に乗じて、相手側に真実の意思に背く状況下において労働契約を締結又は変更させた場合 (2)使用者が自らの法定責任を免除し、労働者の権利を排除している場合(3)法律、行政法規の強制的規定に違反する場合。労働契約の無効又は一部無効について紛争がある場合は、労働紛争仲裁機構又は人民法院がこれを確認する」。ゆえに、労働契約の無効を確認する為には、立証責任を有する側が有効な証拠をもって労働契約の主体の一方に錯誤または労働契約の締結に違法性があることを立証して初めて、労働契約の全部または一部が無効となるのである。本案件において、会社側の主張する張氏の卒業校とインターン履歴、職歴と卒業年月日の矛盾については、会社側がこれを立証しなければならず、立証できなければ当然に不利な結果となるため、仲裁委員会は会社側の請求を棄却したのである。

実務上、労使の一方による違法な労働契約の締結は、労使関係の調和と安定を乱し、双方に多大なダメージを与えるものである。ゆえに、労働者及び使用者は慎重に労働契約を締結しなければならない。 労使共に労働契約に必要な情報を全て提供し、客観的事実を告知すれば、労働契約の無効がもたらす良くない結果を免れることができるのである。